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らしくない態度 〜字書きの為の50音のお題〜

2005年11月1日 サイト初掲載作品

・・・もう、これでこの店に来るのも三度目だな。俺らしくもない。

否定的な想いとは裏腹に小さく綻んだ口元こそが、今の自分の心情そのものを表していると島大介は感じていた。
感情の起伏を今まであまり表に出さないでいたはずの自分ではあったが、ショーウインドーのガラス越しに映る表情は、何故か嬉しさを隠し切れないような様相を称えているように思えた。


いかん、いかん!
もしあいつ等に今のこの弛んだ顔を見られたら、一生からかわれてしまう材料を自らみすみす提供しちまうようなもんだ。


気を取り直して引き締めを図ってはみるものの、ようやく叶う嬉しさの前ではそれは無理というものだった。
自分とは絶対無縁であったはずの、小奇麗な雑貨屋に今日で三回目の足を運んでいる現実に想い馳せながら、心の底からの嬉しさを噛み締める島大介の背中に、晩秋の陽光が穏やかに降り注ぐのだった。

*****

『・・・明日、迎えに来るから』

冴え冴えとした月の光が部屋の中に一瞬差し込んだ後、僅かに頷いた影から零れ落ちた一滴の泪。
揺らぐ時に終止符を打つかのように真っ直ぐに落ちていく泪の中には、蒼い月の光だけが映りこんでいた。

『・・・はい』

永遠に続くかと思われていた病院暮らしも、過ぎ去ってみればあっという間の出来事だったと思わずにいられない。
そう思うのは明日からふたり一緒に暮らすという、これからの長い道程の方がふたりにとって大切な・・・
何よりも大切なかけがえのない時間だと思うから。

お互いに交した言葉はそれだけ。
でもその言葉の中に言い知れぬ想いが込められているのをふたりは感じていた。
いつも変わらぬ気持ちで・・・そして変わらぬ想いのままで。

軽く手を挙げてテレサに微笑みかけながらそっと病室から出た島大介は、ドアに背中を預けたまま瞳を閉じて頭上を仰ぐのだった。
唇を噛み締めて声を押し殺したまま動かない彼の頬を、一筋の滴が流れ落ちた。

*****

本来なら自分は、即断即決で買い物をするタイプだと思い込んでいた。
・・・でもそれは自分自身の買い物をする場合のみだったのだと、改めて気付かされた要因に思い巡らして、島の心は何ともいえない温かさに包まれる。

今日の午後、ようやく退院するテレサと一緒に暮らし始めるという現実に、まだ心が追いついていないまま迎えた朝、事前に二回下見をしていた雑貨屋に開店時間と同時に飛び込んだ島は、何度も何度も品物を手に取ってはテレサの事を思い浮かべながら、彼女に似合いそうな食器を選び続けるのだった。

妙齢の女性が店内を埋め尽くす中で、自分の存在はかなり異様ではあると薄々自覚しながらも、恥ずかしさを堪えてテレサと自分の食器を選び続ける彼の眼差しは、真剣そのものだった。
自分ひとりで使うものであれば、そこそこのものを適当に選んで買い物に一切時間を掛けないはずの自分が、こうして一つ一つ実際に食器を手にとって吟味しながら買い物をすることに、当の自分自身が一番驚いていた。

彼女が一番使い良さそうなものはどれだろうか?
・・・いや、彼女が一番好きな色合いのものはどれだろうか?
・・・そうじゃなくて彼女が一番好みそうな形の物はどれだろうか?

次々と沸いて出てくる疑問を一つ一つ、己の中で解決しながら辿り着いた物は・・・
結局一番最初に自分がこれに決めようと思った、シンプルだけれども手にしっくりと馴染むオフホワイトのペア食器だった。
今一度確認の為に食器を手にとってみると、この食器を使いながら楽しげに談笑している彼女と自分のイメージが頭の中に自然と流れ込んでくるのだった。

・・・よし、これに決めた。

手に取った感触を確かめながら、脳裏を過ぎるテレサの顔に優しい微笑が浮かぶ。
その場に一緒に居たのなら、きっと彼女もこの食器を選んだに違いないという、無自覚の自信を裏付けるかのように、テレサは島に微笑み掛けながら澄んだ声で島の胸に問い掛ける。

『・・・一緒に・・・これからはずっと一緒に暮らせるんですね、島さん』


ああ、そうだとも、テレサ!
これからはずっと・・・ずっと一緒に・・・!


島の決意が乗り移ったかのように、懐に抱え込んだオフホワイトのペアの食器の表面には、談笑しながら静かに寄り添いあう二人の未来予想図がくっきりと映し出されていくのだった。

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