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君がため 〜字書きの為の50音のお題より〜

2005年6月7日 サイト初掲載作品

「うっわぁ〜!島さんって物持ちがいいんですねぇぇぇ!尊敬しちゃいますよっ」

相原の幾分甲高い声が食堂内の隅々まで響き渡る。
幸い今の時間帯は勤務時間外とあって、昼食時のごった返す様相とは随分と差があるが、それでもチラホラと見掛ける人影が一斉にこっちに視線を向けたと知って、慌てて相原の袖をグイッと掴み寄せる。

「大声を出すな、相原!そうでなくたってお前の声は甲高くて通りやすい声なんだから、もう少しボリュームを落とせ」

島の言葉に、僅かに憮然とした表情の相原が応戦する。

「これは地声だから、もう治りませんってば!僕だってそれ位の自覚はありますよ。通信班の経歴から申せば『甲高くて周囲に通り易い声』は、褒められはしても貶される筋合いはないと思いますが・・・。僕の言い分、間違ってます!?」

最後の方の言葉がほんの少しだけ小声になるあたり、相原らしいというか彼の憎めない所とでも言うべきか。

「分かった、分かった!お前の言い分は尤もだよ。相原通信班長!」
「分かればいいんですよ、分・か・れ・ば・っ♪」

さっきの態度とは一転してこれ見よがしに、わざとらしくふんぞり返る態度を見せ付ける相原に苦笑いを浮かべて島がやりかえす。

「お前もホントいい性格してるよ、相原」

拳で軽く頭を小突く真似をする島と相原の間に、すっと割って入った影が一つ。

「久しぶりの再会だっていうのに・・・相変らずね、二人とも」

僅かばかり棘を含んだ言葉の裏側で、雪の表情は旧友の再会を心から喜んでいる笑顔に彩られていた。
それは表面上の言葉よりも遥かに、雪の本心を表している笑顔に違いなかった。

「その言葉、そっくりそのまま雪さんにお返ししますよ。雪さんもずっと昔から変わらないですねぇ、その含みのある言い回し」

あっけらかんと言い放つ相原に、雪も負けてはいなかった。
いや、彼女を言い負かす度胸のある者は宇宙広しと言えども、誰一人としていないんじゃないかという強ち冗談では済まされないような、真実味のある話が二人の頭を微かに横切った。
更ににこやかさを増す雪の笑顔に気付いて、島と相原の背中を同時に強烈な寒気が走る。

「ありがとう、相原君!その言葉は私への褒め言葉として受け止めておくわね!・・・じゃあ、せっかくだから、再会の記念に二人に是非飲んでもらっちゃおうかしら♪久々の再会を記念して本日だけのとっておきスペシャル・サービスよ!」

有無を言わさず目の前に差し出された珈琲カップを見た途端、あっさりと勝負はついた。
当然、雪の見事なまでのストレート一本勝ちである。
いや、勝負する前からすでに敗北は決定的だったかもしれない。
一気に顔から血の気が引く二人の顔をクスクスと笑いながら見つめる雪の顔は、天使にも負けないほどのあどけなさが宿っていた。


・・・女は怒らせると怖い・・・


まさにそれを自らの身体で今から実証しなければならない現実に・・・島と相原は暫し言葉を失った。

「二人が飲み終えるまでここで待ってるから、ちゃんと全部飲み終えてね♪当然おかわりもあるから、どんどん遠慮しないで飲んでね!二人とも私に遠慮する間柄じゃないって分かってるから、どんな風に飲み干してくれるか、すっごく楽しみだわ♪」

『島さぁ〜〜〜ん;;;』
『相原っっ!!!お前が雪に要らんこと言うから、俺まで巻き添えを食っちまったじゃないか!!!』

袖にすがり付いて涙目で訴える相原を力なく振り払いながらも、島は既に覚悟を決めていた。

『男だったら、正々堂々と勝負しよう・・・!』

悲壮な決意を滲ませた眸で相原を見つめ返す島に、相原もまた覚悟を決めた眼差しで頷き返すのだった。
そろそろと動く二人の手が珈琲カップを掴む。

「・・・いただきます・・・」

震える二人の声がシンクロする。

「どうぞ召し上がれ♪」

目を瞑って一気に口に流し込んだ途端、頭の中を駆け抜けていった疑問符。

「???これ・・・雪さんが淹れてくれた珈琲・・・ですよね?」

自分の正直な気持ちを一字一句間違いなく代弁してくれたような相原の声が宙を切る。

「勿論私が淹れたのよ!・・・もしかしてお口に合わないかしら!?」

雪の言葉を聞き入れぬうちに、二人して何かを確認するかのようにもう一度口の中へ珈琲を流し込んだ二人は、互いに目配せをしながら、胸の内で会話を続ける。

『・・・島さん!雪さんの淹れてくれた珈琲、ちゃんと飲めるのが不思議です!』
『ああ驚きだ、相原!・・・まさかこんなに美味しく飲めるなんて・・・!』
『後で胃薬用意しときます!?』
『いや、たぶんそれは必要ないだろう。・・・それにしても雪がどうしてこんなに上手に・・・!?』

二人の間で繰り広げられている心中を知らないような素振りで、雪はさっき島と相原が繰り広げていた押し問答の続きを再開した。

「相原君。島君はね、物持ちがいいんじゃなくって、これが自分にとって何よりも大切な物だと分かってるからとても大切にしているのよ。ね、そうでしょ?島君!」
「・・・えっ・・・?」

いきなり話を振られて訳が分からないまま狼狽する島に向けて微笑みながら、雪は島が大切にしている物にそっと手を伸ばした。
島がひじを置いている傍らから丁寧な仕草でそれを取り上げつつ、彼に向けて言葉を放つ。

「これだけ丁寧な刺繍をするのに、どれだけ労力を要して、どれだけ時間が掛かったのか・・・私には
分かるような気がするの、同じ女として。・・・きっと島君のことを誰よりも何よりも大切に思っている彼女だからこそ、こんなに素敵な刺繍を作り上げることが出来たんでしょうね。島君もその彼女の気持ちを誰よりも分かっているから、この手袋を物凄く大切にしているんじゃないかしら」

雪の言葉を黙ったまま聞いていた島は、何かを言い掛けて一旦口を開きかけた後、すぐに閉じた。
そして深呼吸と共に再び口を開くと穏やかな声が漏れた。

「・・・彼女も君と同じさ、雪。君が古代の為に人知れず努力して、これほどまでに上手い珈琲を淹れられるようになったのと同じ様に」
「・・・知ってたの?島君・・・」

呆然としたまま呟く雪に、島が笑顔で答える。

「今、君が淹れてくれた珈琲を飲んだ瞬間に分かったよ、雪!」
「・・・島君・・・!」

泣き出しそうになる雪に重なるテレサの面影。
恋する者の為に人知れずひたむきな努力を続ける、彼女達の姿に自分も古代もどれだけ励まされてきただろう?

「雪・・・、もう一杯珈琲のおかわりを頼む!」

島の言葉が力強く食堂の中に響き渡った。

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