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天気予報は雨〜字書きの為の50音のお題〜

2005年6月5日サイト初掲載作品

「う〜〜〜ん;;;どうやら今週は厳しいらしいなぁ」

TVから送られてくる気象衛星の画像とにらめっこしながら、少し険しくなった顔つきの島から溜息にも似た言葉が漏れる。
滅多に口にしないネガティブな発言の背景には、一年がかりで何とかようやく漕ぎ着けたテレサとの日帰り旅行のプランが、天気によって中止しかねない事態が控えていたからだった。
地球の気候に身体が適応し始めたテレサの容態を待ち続けること一年。
またテレサの主治医である佐渡が、身体機能面のチェックをオールクリアするまで外出許可を認めなかった経緯がある為に(佐渡の『医師』としての立場からすれば至極当然のことではあるが)、尚更輪を掛けてその期間が長かったように感じる島は、永遠にその瞬間が訪れないのではないかと思えてしまうほどに、途方もなく長い道程だった訳で。
きっと普通の人間だったらとっくに投げ出してしまいそうになる経緯を、辛抱しながらここまで来れたのも『テレサが生きていてくれる』・・・ただそれだけの想いのみに支えれられてきた現実があって。

ようやく・・・ようやく全ての状況に目処がつき、今度こそは!と張り切っていた矢先に、目の前に衝き付けられた現実は、自分達がどう努力しても最早『神のみぞ知る』という領域に達してしまっていて、己の運の悪さにホトホト嫌気がさす。

「・・・天気、悪そうなんですね」

柔らかい声と共に手許に差し出された香ばしい珈琲の匂いが、落ち込むだけだった気持ちを一瞬だけ遠ざけた。
声にも劣らぬほどに、さらにまろやかな笑顔を見せる彼女に思わず見惚れながら、掌から滑り落ちそうになる珈琲カップに、遠ざかっていた意識が素早く元に戻る。

「天気予報は雨らしいんだ。・・・せっかく予定していたのに、今回もまた延期になってしまいそうだ」

眉間に皺を寄せながらボソッと呟く自分に対して、テレサの顔に漂う表情は何故か翳りを見せない。
いや、それよりも寧ろ自分を気遣って励ましてくれるような、温かさを滲ませた笑顔が顔に広がっていくのに気付いて、島の口から零れ出た本音。

「・・・延期になって・・・哀しくないのかい?」

島の言葉を黙って受け止めていたテレサの口元が小さく綻び始める。
潤みを帯びたその清らかな唇から漏れる言葉は、まるで朝露に彩られた瑞々しい葉のように、一瞬にして島の心をしっとりと濡らす。

「・・・島さんと一緒に何処かへ出掛けることも勿論嬉しいです。ずっと待ち続けていた機会がようやく
現実になると思うと、嬉しさで気持ちが一杯になります。・・・だけどそれよりも島さんとこうしていつも一緒にいられること、それこそが私にとって生きていく上で一番嬉しいことだって、私の傍でずっと看病し続けてくれた島さん、貴方自身が私に教えてくださいましたから」

珈琲から立ち上る湯気がふわりと空気中に舞って、微かな残り香を部屋に染み渡らせていく。
香ばしさの中に込められた、ちょっぴりほろ苦くて、ちょっぴり切ない恋の欠片はふたりの心をギュッと引き寄せながら、目に見えない強い絆の結び目をひとつ結い上げた。

「・・・天気予報は雨でも、貴方と一緒にいるときの私の心は、いつもいつでも穏やかに晴れ渡っています」

テレサの言葉が終わると同時に、珈琲カップの中に僅かに残っていた琥珀色の波に波紋が広がる。
揺れる波間の中で重なり合う影に寄り添う珈琲の残り香は、いつもよりも甘い余韻を部屋中に齎した。

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