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崩れかけた秋空 〜字書きの為の50音のお題〜

2004年10月12日 サイト初掲載作品

秋の空に茜色が滲む。
両側から侵食していく薄墨色の雲と、程よく溶け合いながら暮れなずんでいく空の果て。
少しだけ肌寒くなった季節を先取りするかのように、地面に落ちた落ち葉を舞い上げる秋風の中に
忍び込んだ初秋の気配。
どことなく寂寥感を感じずにはいられない夕闇の歩道に、並ぶ影が二つ。

「・・・だいぶ冷え込んできたね」

右肩越しに振り向く先に待ち受けているのは、いつも変わらずそこにある柔らかな笑顔。
僅かに口元を綻ばせて少しだけ笑う君の顔に落ちる夕日の影が、穏やかな時間の流れとシンクロする。

・・・こうして並んで歩いているだけなのに・・・ただそれだけなのに・・・
ささやかな幸せの波に押し潰されそうな僕がいて。

・・・きっとそう思うのは、君を失ってしまったという、あの喪失感を覚えているから。
全身が切り刻まれるほどに痛烈な痛みを感じてしまった心が・・・躰が・・・
まだ自分の中で忘れられずにいるから。

気がつけば僕の腕をすり抜けて、この澄んだ秋の空気と同化するように
目の前で透き通っていきそうになる君の幻影は、僕の不安を駆り立てるばかりで。

堪らずに無意識に差し出した指先にしっかりと伝わる君の・・・君の身体が幻ではなくて、
現実に目の前に存在しているものだと、はっきりと意識に刻み込まれる瞬間に思わず零れ落ちた泪。

何気ないこのひとときが、本当は何よりも幸せで・・・
心から願ってはいても、到底得難い時間であると気付かせてくれたのは・・・他でもない君だから。

君と出逢えたから・・・僕はこうして生きてこられた
君と出逢えたから・・・僕は生きることの大切さを学んだ
君と出逢えたから・・・僕は本当の幸せの意味に気がついた

失くしてしまったと気付いたときに人は本当の幸せの意味を知る。
かつての僕がそうであったように。

崩れかけた秋空に同調していきそうになる僕の心。
通り過ぎる風に臆病な心を持っていかれそうになる僕を繋ぎとめてくれたのは・・・

「・・・私には長過ぎるようなので・・・もしよろしかったら・・・その・・・」

首元に巻いていた純白のマフラーをそっと外して、恥ずかしそうに俯きながら僕の首に掛け直してくれた君だった。

君のその姿を見た瞬間に、僕の心に渦巻いていた不安や恐れは遥か彼方に霞んでいく。
はっきりと口に出さず、態度に見せない分だけ一途に直向に思い遣ってくれる彼女の想いに
僕は幾度となく救われ、そして愛しさを募らせていったことだろう。
いつもいつでも僕だけをずっと信じ、愛し続けてくれている彼女の想いは眠っていた僕の意識を
覚醒させていく。
・・・愛する女性を命を掛けて守り抜こうとしていく、男としての強く気高い誇りを胸に刻み込んで。

彼女が僕の為に掛けてくれたマフラーを感謝の気持ちとともに受け取りながらも、そっと外す。
その様子を見ていた彼女の表情が僅かに翳る。

「ありがとうテレサ。君の優しい気持は確かに受け取った。だから僕は・・・」

微妙な表情を称えたまま立ち尽くしている彼女に近寄ると、僕はそっと彼女を抱き寄せて、彼女が掛けてくれたマフラーを、今度は二人一緒で包めるようにふわりと巻きつけた。

「・・・島さん・・・!」

抱き寄せた彼女の顔が恥ずかしさで泣き出しそうな表情に変わる。
彼女の頬にそっと頬を寄せながら彼女を抱く腕に力を込めた。

「ひとりより・・・ふたりの方が暖かいはず・・・だよね?」

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