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きっかけ

意外なふたりが登場する超短編です。

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「アンタ・・・かなり地味だよね?」

怒りで瞬時に赤くなり掛けた顔が、何故か急速に収まっていく不思議な感覚がリッキーを襲う。
黙って聞いていれば、無礼極まりない言い草であるのは明白。
初対面に近い相手からいきなり繰り出された暴言に、以前のリッキーだったら猛然と反発していたはずだった。
それこそ言葉を投げた人物に対して、自分に対し謝罪できない猶予を一切与えないほどの強烈な反撃で。

痛いところを衝かれると、大抵の人間は一瞬怯み、その後無意識に自分の欠点をフォローすべく
言い訳もしくは相手に対して有り得ないほどの逆切れに終始する。
痛いところをそこはかとなく自覚している人間ほど、その傾向は顕著だ。
図星を指されて全く逆上しない人間は、相当強かであるか、あるいは相当鈍い人間だろう。

しかし痛いところを衝かれて、怒るよりも先にまずその言葉の真意を汲み取り、今の自分の状況に照らし合わせてみる事が出来るとすれば・・・それは底知れぬ可能性を秘めた成長への礎が、
しっかりと築き上げられるきっかけになるのではないだろうか。

他人から指摘された自分の弱みを肯定的に受け取ることで、潜在意識に爆発的な成長のきっかけを促す種が埋め込まれたのを、当のリッキーはまだ気付いていない。


「・・・そんな事、オイラが一番身に染みて分かってるさ」


クラッシャー創始者の息子で、強靭な体力そして驚異的な身体能力を有した銀河系きっての超一流若手クラッシャーのジョウ。
クラッシャーにあるまじき美貌と気品を兼ね備えたジョウチームの華、元王女のアルフィン。
その名を銀河系隅々までに知らしめたクラッシャーダンチームの生え抜きで、操船技術は他の追随を赦さない、クラッシャーの生き字引、タロス。


・・・そんなメンバーの中で、自分ひとりだけが見劣りする屈辱は、もう何遍も味わってきた。
もう何遍も・・・。


自分の能力を顧みず、粋がって取った行動が逆にチームの危機を誘発したことも数知れず。
お調子者という不名誉なレッテルは、今も彼を語る際のキーワードの一つになっていることも。

自分が本当に不甲斐ない奴だと誰よりも分かっているからこそ、チームメートのお情けでチーム内に留まっているという認識が、リッキーの心を埋め尽くす。


「へぇ〜。アンタ、自分で自分のことよく分かってんじゃない!」


無邪気な声でリッキーを打ちのめすベスの言葉は容赦ない。
面と向かって同年代の女性クラッシャーにコテンパンに扱き下ろされるだけのリッキーは最早反撃の言葉の欠片さえ思い浮かばぬほど、沈み込んでいた。


「でもさ、実はアンタがチームメイトにとっても頼りにされてるんだって、自覚してないでしょ!?」

「・・・えっ!」

驚きで目を丸くするリッキーに、悪戯っ子のような純真な笑顔を投げかけるベス。
人の心を弄んでいるような台詞とは裏腹に、リッキーを見つめる瞳は澄み切っていた。

「そんな事も全然気付いてないなんて、ホント馬鹿だよねぇ〜!もっと自分の力を信じなさいよっ!そんな時化た面、アンタには似合わないじゃん!」

ベスから齎された言葉は、リッキーの心に蔓延っていた負の概念を一撃で粉砕するほどの破壊力を持っていた。
思わせぶりな言葉で自分をからかうだけと想っていた人間が、一言で言い当てた真実にリッキーは呆気に取られるばかり。

「私ってさ、おねえちゃん達ふたりがああだから、末っ子なりに人を見る目があるみたい。見てる人は必ず見てるよ。リッキー、アンタが一所懸命頑張ってるところを」

ベスの眸が一瞬だけ煌く光を放つ。

リッキーの心に沸々と込み上げ来る想いは、真摯な気持ちに裏付けされた、クラッシャーとしての意気込みそのもの。

「・・・でも言っとくけど・・・」

ベスの言い掛けた言葉の先を、張りのある声で遮るリッキーの顔に迷いはなかった。

「調子に乗ると痛い目に遭うよ・・・って、ご忠告を有難く承っておくよ。背伸びしたい盛りのお嬢ちゃん!」

リッキーらしい照れ隠し交じりの感謝の言葉に、ベスは彼女らしく応酬するのだった。

「せいぜい頑張るのね。まかり間違って何年後かに、アンタがチームリーダーになってたりしたら、それこそ見物だわ!」

言い合いながら堪らずにプッと噴出すふたりは、過酷な世界に身を置くクラッシャーの姿をひとときだけ弾き飛ばす、希望の光を眸に宿した真っ直ぐな少年少女に違いなかった。

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