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7巻直前、入院しているジョウの元を訪ねたタイラーとのお話です。
とりあえず作成した分だけ、UPします。
続きはまた次回に。
「よぉ、入るぞ!」
ノックと同時、いやノックよりも先にこちら側の都合等を一切無視して入ってきた人影。
『遠慮』という言葉には程遠い粗雑な振る舞いとは裏腹に、足音一つ立てずに近寄ってくるのは、職業柄さすがと言うべきか。
「・・・なんだ、お前か」
無粋な表情でジャブを繰り出すが、幼馴染兼長年のライバルである親友の前では、そんなポーズも一笑に付されるのが関の山。
「相変わらず口の減らない野郎だぜ、全く。お前が病人でなけりゃ、一発お見舞いしてやるところだ」
カラカラと明るい笑いでブラックユーモアを繰り出す友に、ジョウは再び毒づいた。
「・・・お前が言うと冗談にならねぇよ。俺を見舞いに来れる余裕があるなんざ、よっぽど本業が暇こいてるんじゃねぇのか?」
「おぉ、おぉ!俺に対してそんな口を利くなんて、よっぽどストレスが溜まってるようだな。ま、俺相手に愚痴る位ならまだ救いがあるってもんだな。返す返すも言っておくが、チームメイトには、絶対八つ当たりすんなよ。お前が愚痴ることでチームの皆の士気が低下するからな」
急に真顔で切り出したタイラーの表情には、先程とは打って変わって一つのチームを率いる、チームリーダとしての自覚が滲んでいた。
冗談半分で交わされる会話に終止符を打つのは、決まってタイラーの真っ正直な性格から齎される言動である事を、ジョウは長い付き合いの中で嫌と言うほど分かっていた。
それ故、昔から何度も言い争いじみた口喧嘩(当人同士は過激なコミュニケーションの応酬と言って憚らないが)が顔を合わせるたびに、勃発していた。
あっさりと受け流そうとするジョウと真正面から立ち向かうタイラーという二人の関係性は、水と油という性質をものの見事に体現しているかのようだった。
無意味な事には首を突っ込みたくないジョウの斜に構えた性格と、ジョウに軽くあしらわれる度にむきになって倍返しで言い返すタイラーとでは、本質的にぶつかり合うのが必至であった。
ジョウはタイラーの人を疑おうとしない真摯で一途な態度が悉く気に障り、タイラーはタイラーで上の思惑など気にせず、好き勝手に動いている(ように見える)ジョウ達が、世間的に絶大な評価を得ていることに内心穏かではなかった。
同期のクラッシャー、しかも親同士が旧知の間柄、おまけに創始者たるメンバーの息子達で次代のホープと言う共通点を持つふたりであるからこそ、周囲も必然的に二人をライバル同士とみなすのは、仕方ないことなのかもしれなかった。
ジョウは既に父親の件(親が評議会議長という最高の役職)で、世間からのプレッシャーを嫌と言うほど味わっているので、今更タイラーと較べられても、実の父親と比較される苦痛に較べれば、どうってことないと飄々としていられるのだが・・・タイラーは違った。
この世に生れ落ちてからずっとジョウと較べられ、赤子のうちからジョウを追い越すことに自分の人生に意味を見出せると、周囲が勝手に刷込んだ意識のせいで、ジョウに対して対抗心を剥き出しにしていたのだった。
・・・しかし、二人の間に横たわる意識の食い違いが、ある時期を境にしてプツリと途絶えた。
正確に言えば、二人がお互いを認め合い、一緒に築き上げ、超えなければならないモノに対しての共有意識が芽生えたとき、長年の蟠りが少しずつ氷解していった。
・・・一時代を築き上げた親世代を踏襲し、更なる発展を自分たちの世代で築き上げていく決意が、彼らの心を無意識に繋ぎとめていることを知った時から、互いの心を行き来する想い。
それは彼ら二人にしか分かち合えない、ある種の結束にも似ていた。
「お前に説教されなくても、それ位百も承知だ。誰に対して物言ってるか分かってるのか?」
嫌みったらしく零すジョウに、タイラーも負けてはいなかった。
「ああ、存じ上げてますとも!特Aクラスのクラッシャーチームを率いる、弱冠19歳のチームリーダー。ジョウ!そして親父は泣く子も黙る現評議会議長、クラッシャーダン!!ジョウはダンの一人息子にして、超エリートの血筋を継承する、腕っこきのサラブレッド♪」
張りのある声で高らかに叫ぶタイラーに、すかさずジョウの突っ込みが炸裂する。
「最後の二行は余計だ、余計ッッ!!!」
頭をグシャグシャと掻き毟りながら、言葉を吐き捨てるジョウにタイラーは止めを刺すのだった。
「最初ッから、人のこと素直に歓迎してればこんな目に合わずに済んだものを。お前、やっぱり学習能力ないだろ!?」
・・・つづく・・・
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