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2003年4月5日 サイト初掲載作品
「・・・という訳で今回の作戦はピュンマの計画通りに敵基地に奇襲攻撃を掛ける!」
ドルヒィン号のコックピット内にジョーの凛とした声が響く。
ジョーはみなを見渡して更に言葉を継いだ。
「奇襲攻撃が成功した場合、敵基地はおよそ60%程度のダメージを受けるとのデータが出た。つまり奇襲攻撃の成果次第で今回のこの作戦が成功するかどうかのポイントがあるわけだ・・・だから・・・」
ジョーはいったん言葉を切り、改めて一人ずつ仲間を見渡した。
沈黙した時間が緩やかにコックピット内を流れて行く。
ジョーが何を言おうとしているか、その思い詰めた表情から仲間たちは読み取っていた。
おそらく彼は決め兼ねているに違いない。
この危険極まりない奇襲攻撃の一番手に誰を選ぶのかを・・・。
まかり間違えば突撃した途端に敵の攻撃を受けて命を落としかねない、この作戦だから。
俯きかげんだったジョーが面を上げたとき、彼の瞳の中に決意を秘めた思いが横切ったのを誰一人として見逃さなかった。
誰も何も言わなかったけれども。
「・・・奇襲攻撃の一番手には、僕が・・・」
ジョーがそこまで言いかけたとき、ジョーの言葉を遮るように一人の男の声がコックピット内に響き渡った。
「ちょっと待て、ジョー!それは俺の役目だろ!!」
「・・・ジェット!!」
ジェットはジョーの隣へすたすたと歩み寄り、肩をぽんぽんと叩いた。
「お前、一人でいいカッコすんなよ!俺の役目だろうが、それは!!」
ジョーを睨み付けながら話すジェットにジョーも負けてはいなかった。
「ジェット!確かにいつものような奇襲攻撃なら君にお願いするよ。・・・けど今回の作戦は本当に危険なんだ!だから曲がりなりにも皆のリーダーである僕が行くのが当然だろう!!」
「馬鹿!リーダーのお前が突入してやられちまったらどうするんだ!誰がその後みんなの指揮を執る?ここはおとなしく俺に任せろ!!」
「駄目だ!いくらジェットの頼みでもそれは聞けないよ!」
二人の男の間でにらみ合いが続く。
お互いが譲らぬまま時間だけが過ぎようとしていた。
ふと不意を付いてジェットがジョーの腹部めがけて力いっぱいパンチをお見舞いした。
いきなりのことで油断していたジョーはよろよろとその場にしゃがみこむ。
「・・・ジェ、ジェット・・・いきなり何をするんだ・・・」
苦し紛れに呟いた言葉にジェットが優しい瞳で答えた。
「許せよ、ジョー。こうでもしなくちゃ、お前は言うこと聞かないからな・・・。誰か強烈な睡眠薬を持ってきてくれ!早く!!」
ジェットの言葉にみなが固まって立ちすくむ。
ただ一人ハインリヒを除いては・・・。
「俺が持ってきてやるよ・・・」
一言言い残してハインリヒはメディカルルームへ向かい、手に注射器を持ってコックピットに現れた。
「サンキュー、ハインリヒ!・・・さあジョー、しばらくおとなしくしてろよ!!」
「よ、よせ・・・ジェット!!」
うずくまっているジョーのうめきを無視してジェットはハインリヒから受け取った注射器でジョーの腕に針を注射した。
「悪く思うなよ、ジョー・・・だがこれでいいんだ。ジェロニモ、ジョーが眠ったらメディカルルームのベッドへ運んでくれ。頼む」
ジェットの依頼にジェロニモは無言のまましっかりと頷いた。
ジョーをジェロニモに預けてジェットはコックピットを出ていこうとした。
「ジェット、どこへ行くんだ?」
グレートの問いかけにジェットは仲間たちを振り向きもせず、片手だけ挙げて応えた。
「今から奇襲攻撃に備えて、武器の点検さ!」
重苦しい雰囲気がコックピットに残る。
一人去ったジェットの姿をハインリヒは複雑な思いで見つめていた。
コックピットを出てジェットが真っ先に向かったのはドルフィン号のデッキだった。
今まさに太陽が最後の輝きを解き放つ前の燃えるような赤い火の玉となって海を深紅の絨毯に変える。
海風にそっと髪をなびかせながら赤い光のシャワーを体中に浴びて一人佇むジェット。
これで良かったのさ・・・
自分の行いをすべて認めている訳ではなかった。
むしろリーダーのジョーの命令を無視してやってしまったことに少なからず後悔の念が込み上げる。
しかし、しかしもう自分は決めたのだ。
これ以上仲間が傷ついていく姿を自分は見たくないから。
自分の身を犠牲にしても守りたいものがあると、気付いてしまったから。
「相変わらず無茶ばかりしやがって!」
「ハインリヒ!」
ハインリヒがドルフィン号の尾翼に腕を組んでよりかかりながらジェットを見つめていた。
ポーカーフェイスの彼からは表情が読めなかったが、アイスブルーの瞳は冷たい氷が溶解したようなわずかな優しさをジェットに向けているようだった。
「・・・俺が変わってやってもいいんだぜ、お前の役目」
「はん!馬鹿にするなよ!!お前に変わってもらうなんてまだそんなに落ちぶれちゃいねえよ」
「・・・お前、本当は仲間が傷つくのを見るのが恐いんじゃないか?」
本質を突いたハインリヒの言葉に、びくっとジェットの身体が一瞬震えた。
海を見つめるジェットの瞳が波間の煌きを映し出して揺らめく。
「・・・お前には全部ばればれだな。敬服するよ、ハインリヒ参謀長殿!」
「参ったか、ジェット軍曹!」
二人の笑い声がデッキ上に響く。
しばらくたってハインリヒがひゅっとジェットに金属片を投げつけた。
夕日の光を浴びて反射しながらジェットが受け取ったそれは1cm四方の正方形の薄い金属片だった。
「それ、お前にやるよ」
「何だ、これ?」
「これは俺達001から009までの全員に共通して組み込まれている唯一の部品だそうだ」
「俺達全員に共通して組み込まれている唯一の部品?」
「ああ・・・」
「そんなもの、なんでお前がもってたんだよ!」
不思議がるジェットにハインリヒが淡々と話す。
「お前も知っての通り、俺は全身が武器のサイボーグさ。俺がしょっちゅうギルモア博士にメンテナンスしてもらってるの、知ってるだろ?前回入れ替えした部品がこれだったんだ」
ハインリヒに言われてまじまじと金属片を見入るジェットの心の中に芽生えてきた穏やかな想い。
それは仲間との絆を繋ぐ信頼と安心の入り交じった決意を秘めた思い。
「お守り代わりにお前が持ってろ!いつも誰よりも先に危険な突入をするのはお前だからな。その部品にはお前を信じるみんなの気持ちが込められているはずだ」
「ハインリヒ・・・おまえ・・・」
「・・・いいか!俺はお前を慰めに来た訳でもないし、引き止めようとしたわけでもないからな!早くその辛気臭い顔は止めろ!」
「判ってらあ!・・・全くこれだから説教くさいドイツ人ってのはたまんないぜ」
言いながらそっと目に浮かんだ涙を海風に飛ばして振り向く。
ハインリヒのさりげないフォローに心が救われながらも、素直に感謝の気持ちを言葉に出来ない自分がいた。
俺は、俺はこれからもずっとこいつらと一緒に生きていくんだ・・・。
激しく燃える夕日の輝きが夜の闇と溶け合う寸前にジェットの身体を包み込んで、静かに眠りについた。
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