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2003年5月22日 サイト初掲載作品
(平成版009のふたりをイメージしたお話です)
「あ・・・あのさ、もし君がよければ・・・その・・・散歩に行かないか?」
賑やかな朝食が終わり、ダイニングキッチンのシンクの中にうず高く積まれたおびただしい数の食器を、一心不乱に洗い上げていた私の手がふと止まる。
ああっ!もう・・・!
この忙しい時に声を掛けてくるなんて、神経疑うわ!
おまけになんてまどろっこしい言い方なのかしら!?
どっかの誰かさんを見習えとは言わないけれど・・・もうちょっと状況に応じた、ものの言い方ができないのかしらっ!?
声を掛けてきた主の方を振り向きもせず、泡まみれになったスポンジを力任せに握り締める私に、さっきと同じたどたどしい声が届いた。
「あっ・・・ご、ごめん;;;やっぱり、その・・・忙しい・・・よね?」
ピキッ!!!
血管が切れる寸前で踏みとどまった怒りが、全身を物凄い勢いで駆け巡る。
・・・状況把握というよりも、人情の機微というものを丸っきり分からない彼の神経に、苛立ちを通り越して呆れ返る。
「誰が・・・散歩に行きたくないって・・・言いました!?」
ピクピクと震える口元を最大限にほころばせて、無理矢理笑いながら応答する私の顔は・・・きっと引き攣っていたに違いない。
「・・・でも、やっぱり・・・忙しそうだから・・・また今度に・・・」
カーッ!
言いよどむ彼の口調に痺れを切らして、思わず大声でまくしたてる私。
「今、やり掛けの仕事が終わったら、いくらでも時間など取れます!・・・それとも私に声を掛けた貴方の方こそ、誘わなきゃ良かったって思っているんじゃなくて?」
半ば自棄で言い放った言葉に、間髪入れず彼が大きな声で答えた。
「それは違う!一緒に・・・君と一緒に散歩に行きたいと思うのは・・・君にとって迷惑なことなのだろうか?」
さっきまでとは別人のような勢いで答える彼の口調に・・・思わずドキッと脈が乱れるような感覚。
えっ・・・!?
・・・な、なに!?
・・・なんだかキュッと胸の奥が締め付けられるような感じ・・・
「・・・ご、ごめん!僕・・・大きな声で喋ってしまったから、びっくりしたでしょ?」
さっきの勢いとは打って変わって、オロオロしだした彼の姿に湧き上がる疑問。
何・・・!?
さっきの彼の態度は・・・幻だったの!?
い・・・いったいどういうこと?
いやだ!私、混乱してる!
「と・・・とにかく!食器を洗い終わったら、すぐに支度ができます。それまでお待ちいただけるかしら?」
動揺している胸のうちを見透かされまいと、慌てて言い繕う私。
「じゃ・・・じゃあ・・・散歩に一緒に行ってくれるんだね!?」
戸惑いながら静かに頷くだけの私に向かって微笑む彼の顔が、何故か私の胸に焼き付く。
「ありがとう!じゃ、また後で」
軽く手を挙げ軽やかな足取りでキッチンから駆け出していく彼の姿を・・・私は呆然としたまま見送るだけだった。
煌く陽光さえも舌を巻いて逃げ出しそうになる・・・柔らかい・・・何ともいえない柔らかい微笑みを見たのは・・・もしかしたらこれが初めてなのかもしれなかった。
美しく華やかなモノはこの世にいくらでも存在する。
しかしそういうモノでさえも太刀打ちできないくらいに、貴く気高い美しさを秘めたモノはどこまでも清らかで穢れない純真な心から発露する、笑顔そのものであったことに・・・今更ながら思い知らされる。
サイボーグにされてしまったことについて、表面上は乗り越えたような仕草や顔つきをしていたとしても、その実、心の中に鬱積された苦しみや哀しみが、いついかなる時でも私達に暗い影を落としていることは紛れもない事実だった。
それを見てみぬ振りをしているうちに・・・どこか心が歪になっていく自分自身を止められないことに、無意識のうちに気が付いていたから・・・
あんなにも彼に対して挑みかかるような態度をしていたのかもしれない・・・
私は・・・そんな彼が・・・憎くて・・・
そして・・・反対に羨ましかったのかもしれない・・・
私だって・・・あんな風に笑いたかったの・・・
私だって・・・あんな風に優しくなりたかったの・・・
・・・私だって・・・私だって・・・!
決して泣きたかった訳じゃないけれど・・・シンクの中に零れ落ちる一粒の涙
泡の中に溶け込んだ涙は一瞬の夢を紡いで・・・儚い虹を心の空に架けては消える。
切ないまでに透明で・・・切ないまでに清らかな空を思い描くことを夢見ながら・・・
こんなにも・・・こんなにも私の心を・・・乱れさせる島村ジョー・・・!
貴方って人はいったい・・・?!
私の中で絡み合っている複雑な想いは・・・やがて・・・
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