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2004年9月16日サイト初掲載作品
海を渡る風に少しだけ溶けた晩夏の色。
夕闇迫る時間の波に、わざと乗り遅れるようにして歩き出す浜辺。
潮の香り・・・
小麦色の肌・・・
色褪せない夏の思い出・・・
そして止まった時間。
潤みを含んだ海風の中には、叶えられなかった夏の日の恋の傷跡が滲んでいるような・・・そんな気がして。
前を歩く貴方の歩調に遅れないように、そっと後ろから追いかける波打ち際。
寄せては返す小波の気まぐれな動きに掻き消される前に、貴方がつけた足跡の上に静かに一歩ずつ自分の足跡を重ね合わせる度に、堪えきれなくなる想い。
貴方がつける足跡には貴方の生き方そのものが込められているようで、立ち止まったままその場に動けなくなる。
一歩一歩着実に、浜辺にくっきりと刻み込まれる貴方の足跡には・・・
苦しく辛い戦いを仲間と共に潜り抜けてきた戦士としての気高き誇りと。
何時如何なる時でも誰に対しても分け隔てなく接する、類まれなる優しさと誠実さと。
この地球に住んでいる人類の命運を、その両腕に一心に託されてきた信頼と、その期待を裏切らない堅実さと。
命を賭けたものに対して自分自身の想いを懸命に貫こうとする、不器用だけれども聡明な想いと。
様々な深い想いに彩られつつ、真っ直ぐな生き方を目指す凛とした魂の欠片が表れているようで。
貴方のその真っ直ぐな想いが込められている足跡を、私が汚してしまいそうで動けなくなる。
貴方は・・・
多くの人々の希望と未来を、その身に一心に背負っている、
この地球にかけがえのない・・・大切な人だから。
ヤマトの・・・
そしてこの地球上になくてはならない大切な・・・
本当に大切な人だから。
だから・・・
私が・・・私なんかが、貴方の傍にいてはいけないのかもしれないと常日頃思い続けていた事が、貴方の広くて大きい何もかも包み込んでくれそうな優しい背中を見つめた途端に私の心を埋め尽くしてきて。
夕暮れの海が・・・啼く。
遣る瀬無い想いを引き摺った潮風を引き連れながら・・・静かに咽び泣く。
オレンジ色と朱色が溶け出した茜色の空の向こうで煌きだした一番星。
手に届きそうで届かない大事な宝物を見失ってしまったように、時の狭間に落ちた私の心は虚空を彷徨う。
・・・そのとき、風が止まった。
風が止み、波が穏やかになる『夕凪』が私と貴方の周りに立ち込め始める。
後ろ向きな心をそっと前へ押し戻すかのように・・・
前を歩いていた貴方の歩みがふと止まると、後ろを振り返って立ち止まったままの私の姿を認めた。
私を見つめながらゆっくりと優しく笑いかける貴方の笑顔が、夕暮れの空に溶けていく。
自分の周りの景色をも、その優しい想いで滲ませていくような貴方の気配が、停滞していた想いを塗り替えていく。
・・・貴方が駆けて来る。
私を・・・
私だけを一心に見つめながら、一直線に私の元へと駆けて来る。
躊躇う気配など一切見せず、足元に纏わりつく波も軽やかに飛び越えるように・・・
ただひたすらに私の姿だけをその暖かな眸に映し込んで・・・
貴方はまっしぐらに駆けて来る。
駄目!
私は前を向いて歩いている貴方を、振り返らせてはいけないのです!
皆の期待を一心に集めている貴方を、私の為だけに振り返らせてはいけないんです!
息を弾ませながら私の元に駆け込んできた貴方は、困惑している私に手を差し伸べながら照れながら呟いた。
「頼りない手だけど・・・もし君がこの手を必要としているならば君の思うようにして欲しい。・・・君が以前僕にそうしてくれた事を僕はずっと忘れずに覚えているから。・・・だから今度は僕が君に返す番だ・・・!」
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