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2005年11月4日 サイト初掲載作品
ガラン・・・とした部屋に重く圧し掛かる閉塞感は、かつてのあの場所に似ていた。
時間の概念をも奪い去っていく沈黙。
絶望と隣り合わせの孤独。
諦観の念を抱きながら自分自身を貶めてきた、行き着く果てのない罪悪感。
貴方と再び巡り会い・・・
今、こうして一緒に暮らすようになって・・・
『生きるという幸せ』の意味を僅かながらも、解りかけ始めてきた私に・・・
その現実は立ちはだかった。
*****
『任務が終わったら・・・すぐに戻ってくる。必ず戻ってくる。だから・・・!』
心配そうな顔つきで何度も何度もそう繰り返して、三ヶ月という長期任務に旅立った貴方。
『どうか心配なさらないで下さい。私は・・・大丈夫です。今はどうぞ任務の事だけをお考えになってください。貴方が無事に戻られる日を・・・此処で待っています』
そう答えたのは、決して嘘じゃなかったと言い切れる。
いえ、寧ろ私の事で貴方に心配を掛けてしまうこと・・・それこそが一番怖かったから。
笑顔の中に一抹の寂しさを封じ込めて・・・私は貴方の背中を見送った。
*****
時が過ぎるのは早い。
早いけれども・・・人の心の奥深くに潜む、移ろいゆく気持ちの前では、その勢いも衰えてしまう。
逢いたくて。
・・・ただ逢いたくて。
表面上は恙無い日常に寂しい気持ちが埋没していたとしても、ふとした瞬間に溢れ出る気持ちは抑えることなど出来ない。
いや、出来るはずもない。
ひとり分の食事を作る侘しさ。
ひとりきりで食べる食事。
ひとりきりで座るソファー。
ひとり分だけを淹れて、ひとりきりで飲み干す珈琲。
交わす言葉も、微笑みかける相手もなく・・・
誰かに必要とされている日常がこんなにも愛しかったと気付いたとき、
・・・その哀しみはテレザリアムでたった独り生きていた頃よりも激しく切ないものだったなんて!
家で寛ぐ時、貴方の指定席だったリビングのソファーの右端にそっと手を這わせながら、貴方の温もりの欠片を必死に探し出し、その僅かな繋がりに追い縋ろうとした私の身に・・・貴方の私に対する深い愛情の滴が降り注いだ。
今、ここに貴方はいないのに・・・
私のことをいつもいつでも大切に思ってくれている貴方の愛の証が、ありありと分かるものに触れて・・・言い尽くせない想いが私の心を埋め尽くす。
ソファーの右端から緩やかに窪みながら下がっていくカーブには・・・貴方の左隣に座っている私に身体を向かせながら、いつも笑顔で私に微笑みかけ、優しく気遣ってくれる、貴方の姿勢の跡がくっきりと残っているのだった。
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