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2004年9月30日 サイト初掲載作品
「・・・また随分と派手に日焼けしたもんだな;;;」
「ほっとけ!久しぶりに逢ったのに開口一番そんな台詞を吐くなんて・・・相変わらず性格が悪いな、お前!」
手にしていた缶コーヒーで、頭を小突く真似をする古代の口元に浮かぶ苦笑。
挨拶代わりの軽いジャブを受け流しながら、会話が弾みだすのはいつものこと。
親友というより寧ろ悪友に近いほどの長い付き合いであるから、お互いに言いたい事を遠慮なく言い合えるのは男同士の特権か。
勿論雪が同席してるのであれば会話にそれなりの配慮はするが、防衛軍本部内で昼休み時間に偶然再会したという思い掛けないハプニングだった為に、お互いの近況報告がてら近くの公園に繰り出していた俺と古代は、時間という制約の中でお互い好き勝手に言いたい事を言い合っていた。
遠慮なく不躾にああだこうだとモノが言えるっていうのは幸せなのかもしれない。
特にお互い仕事に縛られて時間がない俺達にとっては。
「・・・で、何処へバカンスに行っていたんだ?」
缶コーヒーを口に含んでいた古代が、堪えきれずに辺り一面にブッとコーヒーを撒き散らす。
「馬鹿!いきなりコーヒーを噴くなよ!俺の制服を汚す気か?」
「ど・ど・ど・ど・ど・・・どうしてそれをっっっ!!!」
一気に顔面蒼白になった古代は、俺の胸元を掴み上げながら慌てふためいてオロオロしだす。
・・・ったく、コイツは;;;
どうしてこんなに状況把握がど下手なんだ;;;
・・・ま、いつものことか。
古代に気付かれぬように大き〜な溜息をひとつ零すと、取り乱している古代に醒めた目を向けた。
「大体このくそ忙しい時期にまとめて一週間も休暇を取るなんて芸当は普通の奴は考え付かんぞ!おまけに雪も同じ時期に一緒に休みを取ってたら、誰だって勘付くだろ?」
次第に項垂れていく古代に少し哀れみを覚えながらも、トドメの一発を突きつけた。
「それにお前、俺に黙っていたとしても・・・俺の職場環境を考えれば一発でバレるってこと気付かないのか?」
古代の表情が急変する。
・・・きっと思い当たるらしい二人の姿を想像して、恨めしそうな顔つきで天を見つめる哀れな古代。
心なしか目が虚ろなのは気のせいか?
・・・恨むなら俺じゃなくて・・・お前の兄貴と相原を恨めよ!?
缶コーヒーの飲むのさえ忘れて、ボーっと呆けているような古代を見てさすがの俺も良心が痛む。
・・・やっぱりコイツとは何だかんだ言っても・・・友達だもんな。
コイツがいなけりゃ今の俺もなかったと・・・心からそう思ってるから・・・。
「・・・雪もお前も・・・楽しかったんならそれでいいじゃないか」
言いながら手にしていた缶コーヒーを一気に口に注ぎ入れる。
目が眩みそうな太陽の陽射しを避けるように、手を翳しながら見上げた青空に飛行機雲が一直線に駆け抜ける。
「・・・そうだ・・・な」
「周りの連中は色々な事を言うかもしれないが・・・お前と雪が経てきた経緯を考えれば・・・今こうしてお互いの幸せを近くに感じられるのは、何物にも代えがたいものだと俺は思ってる。堂々としていればいい。お前も雪も・・・ずっと他人の幸せばかり考えてきて自分たちの幸せを置き去りにしてきてしまったんだから、今を思いっきり楽しめばいい・・・だけど・・・」
「・・・だけど?」
そこで俺は一呼吸置いてから一言ずつ区切るように言い放った。
「あまりおおっぴらに惚気るなよ!それでなくたってお前達のアツアツっぷりは端で見てても恥ずかしすぎるくらいだ!」
「島ぁ〜〜〜!!!」
照れ笑いを浮かべた古代が二、三回ふざける様にして缶コーヒーを持った手で、脇腹にパンチを入れる真似をする。
照れ隠しに小突きながらもうっすらと浮かんだ表情で古代が俺に感謝の意を示しているのが分かった。
決して口に出しては言わないけれど。
「・・・ところでお前とテレサは何処かに行かないのか?」
いっとき大人げもなくふざけ合った後で、妙に神妙な顔つきで零した古代の言葉に自分自身でも判るほど顔色がみるみる失せていくのが分かった。
俺の表情を見ていた古代が「しまったぁ〜!」という顔をしたが時既に遅し。
古代も自分が迂闊な一言をうっかり喋ってしまったと自覚したらしい。
「・・・俺達は一緒に何処かに行くとか・・・まだそういう段階じゃないから」
まるで言いながら自分自身を納得させているかのような錯覚に陥る。
「・・・体の調子・・・悪いのか?彼女・・・」
俺の顔色を窺う様に言葉を選びながら話しかける古代にそっと笑顔を向ける。
「いや、だいぶこっち(地球)の環境には慣れたし、普通に生活してるよ」
「・・・そうか」
「たぶん俺も彼女も・・・そんなに出歩くのが好きな方じゃないし、一緒に何処かに行くっていう意識もあまりないんだ。お前や雪から見れば可笑しいかもしれないが」
「・・・」
「一緒に何処かに行くっていうことよりも・・・自分がいつも彼女の傍にいられることが出来るって思ったら・・・何でかな?凄くそれが幸せに思えてくるんだ」
ふと見上げた青空の蒼が目に染みる。
いつものように空はただそこにあるだけなのに・・・
空を見ただけでどうしてこんなにも泣き出したくなってしまうんだろう。
「彼女は何も言わない。俺も何も言わない。・・・だけどすぐ傍に彼女がいて、そして彼女の傍に自分がいるって感じるだけで・・・訳もなく嬉しくなるんだ。もういい年した大人なのにそんな事で幸せだって思える自分は子供じみてるけど・・・彼女が生きていてくれてこうして今、一緒に二人でいられる事だけが・・・俺の唯一の幸せなんだと・・・」
「島・・・」
小さい声で俺の名を呼んだ古代がポンと軽く俺の肩を叩く。
「俺・・・お前に一度言ったことがあるよな?『お前達が羨ましいよ・・・』って」
「古代・・・」
「俺とお前の愛し方は違うし、比較するべきもんじゃないと思うが・・・」
「・・・」
「俺・・・島、お前と親友だって事を誇りにしてるよ!」
眩しく差し込む晩夏の陽射しが古代の笑顔と重なる。
一段と煌く光の中で勢いよくぶつかり合った缶コーヒーの音が、蒼い空の色を一際鮮やかに塗り替えていった。
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