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随分と久し振りの更新になります。
年始年末のご挨拶もすっ飛ばし、気がつけばもう3月上旬になっておりました(汗)
もし更新をお待ちいただいている方がいらっしゃいましたら、本当にすみませんでした。
ようやく仕事にも慣れ始め(まだ失敗はやらかしておりますが(滝汗))、ぼちぼち時間的余裕も出来始めるようになりました。
更新停止期間中にお立ち寄りくださった方、そしてボタンを押してくださった方、本当にありがとうございました。
今回UPしたお話は「化身」の別バージョンになります。
前回のお話が、少し切ないお話だったので今回は、少し甘めにしてみました。
少しでも気に入っていただけたのなら、幸いです。
今後ともどうぞよろしく御願いいたします。
それはまるで夢のような出来事で。
出来るなら、このまま時が止まってしまえばいいと願う私に、貴方は優しく微笑みながら頷き返す。
薄紅色の花弁が紡ぐ世界に包み込まれながら、私はそっと貴方の胸に顔を埋める。
言葉に出来ない想いを宿したような桜の花弁は、貴方と私に緩やかに降り注ぎ続ける。
久遠の時を互いの胸に刻み込みながら・・・・・
*****
「もし君がよければ、これから桜の花を見にいかないか?」
穏やかな日差しが降り注ぐ、早春の午後。
飲みかけのコーヒーを啜りながら囁く貴方の顔に、柔らかな笑みが零れる。
カーテン越しから差し込む陽光の輝きは、いつもよりもさらに円やかな表情の貴方を彩っているようで。
「・・・・・今からですか?」
「うん。今から出れば、日没までには綺麗な桜の花達に出逢えると思うから。それに・・・・・・」
「それに?」
問い掛ける私に向け、悪戯っ子のようなあどけない微笑みを浮かべて、貴方は言葉を漏らす。
「きっと写真の桜よりも、実際に本物の桜を見た方がずっと感動できると思うんだ」
言いながらテーブルの脇に備え付けてあるマガジンラックから、美しく咲き揃う四季の花々の写真集を取り出して私の前に差し出す貴方。
その瞬間、ハッと胸を衝かれたような痛みが全身を襲った。
いつも貴方が不在の時に、この写真集を見ながら寂しさを紛らわせていた心が疼く。
貴方の無事を祈る気持ちと共に、不安な心を落ち着かせようと無心にページを捲っていた心情を見抜かれていたようで、心が微かに震えだす。
私の心細い気持ちさえ、その暖かな心で自然に掬い取ってくれるような貴方の優しさが、ただただ嬉しくて。
「・・・・・・一緒に行ってくれるね?」
「はい・・・・・・」
貴方に導かれるようにして恐る恐る一歩踏み出した私の背中を、一際眩しい陽光がそっと後押ししてくれた。
*****
眸に焼き付くほど桜の花の写真を見ていたはずなのに、実際に初めて自分の眸で捉えた桜の花の美しさに、私は思わず息を飲みこんだ。
風に揺れる薄紅色の花弁は、まるで小波のように大小様々な揺れを繰り返しながら、艶やかな色で咲き誇る。
一分一秒たりとも同じ光景などないほどに、様々な表情を見せ付ける桜の花の饗宴は、圧倒的な存在感を保ちながら見る者の心を捉えて離さない。
こんなにも優雅で神秘的な光景を目の当たりにしていると、少しだけ、ほんの少しだけ勇気を振り絞ってみたい気分にさせられていく。
胸の手前で組んだ指先に微かに力が込められていくのを実感しながら、私はそっと散りゆく桜の花弁に自らの想いを託す。
貴方への尽きぬこと無い感謝の念と、そしていつまでも変わらぬ貴方への愛と。
舞い飛ぶ薄紅色の化身に、言い知れぬ想いを託してそっと眸を閉じる。
前方を歩く貴方の背中を眸に焼き付けながら。
願いを込め、想いを託した一片の花弁がヒラヒラと風に吹かれて、貴方の脇を通り過ぎようとした、その瞬間だった。
突然貴方は振り向くと、幾重にも舞い飛ぶ桜の花弁に包み込まれながらも、私が想いを託した花弁だけを無意識に掌の上で掬い取った。
「・・・・・・えっ?」
吹き抜ける風が私の髪の毛を宙にふわりと靡かせ、桜の花弁がそっと髪の毛に纏わりつく。
あんなにも多くの花弁が空中を舞い飛んでいるのに、私が願いを託した、たった一枚の花弁だけを紛うことなく
掬い取った貴方の微笑が、風に融ける。
驚きと嬉しさが綯い交ぜになって混乱していく意識が止められない。
目を見開いて、黙ったままの私に貴方はそっと近づきながら、風に囁きを載せるのだった。
「不思議なんだ。乱れ飛ぶ桜の花弁の中で、何故かこの一片だけが、僕に何かを伝えてくれている気がしてね。・・・・・気がついたら、夢中でこの花弁を掬い取っていた。おかしいだろ?」
泪が溢れ出してきて、貴方の姿が次第にぼやけていく。
何か言葉を発しようとするけれど、胸の奥が痞えてしまって、今にも心が溢れ出しそうで。
まるで宝物を扱うように、丁寧な手付きで掌を広げながら、貴方はそっと私に呟く。
「この花弁、君に似ているような気がする。理由はないけど、何だかそんな感じがする。・・・・・これ、僕達の宝物として、このままずっと大切にしてもいいかな?」
貴方の言葉ひとつひとつが、透き通った言葉の雫となって、私の胸に零れ落ちていく。
堪え切れなくなった想いに衝き動かされるようにして、温かな胸へと飛び込んだ私を抱き締めながら、貴方は耳元で囁くのだった。
「君の他に、もうひとつ大切な宝物が出来た。ありがとう、テレサ」
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