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2005年1月24日 サイト初掲載作品
冬の寒さが厳しければ厳しいほど、春への憧れが自然と強くなるのは人の世の常。
人間の一生に置き換えてみるならば、辛かったり、苦しかったり、哀しい事が多ければ多いほど・・・人の優しさ、温もりの大切さが深く心に染み入るわけで。
人と人を繋ぐ心の絆をより一層強くしていくのは・・・
きっと、思い遣りの心で繋がれていく優しさの連鎖なのかもしれない。
*****
「・・・今朝が一番冷え込んだらしい・・・」
まだ寒さの名残が残る出窓の傍らで、燦燦と降り注ぐ光の中に紛れ込んだ春の微かな気配。
凍てつく空気をも力強く切り開いていく眩い陽光は、己の存在を指し示すようにくっきりとした影を遺す。
「・・・島さん。こうしていると何故か・・・光が歓んでいるのを感じるんです」
カーテン越しに漏れる光を丁寧に掬い取るかのように、両手を差し出すテレサの顔に舞い降りる光の天使。
金色の光のベールに覆われているような神秘的な彼女の姿を見つめながら・・・島は彼女の身体の中に溶け込んでいく、陽光の幻影を見つけたような気がした。
それは冬の厳しい寒さの中にありながらも、少しずつ雪解けを待つ春の希望が満ち溢れているような気持ちを内包しているようにも感じた。
・・・いや、そうではなくて、テレサ自身がその眩い光に同調して、自分ではまだ自覚していない己の中の温かい気持ちに目覚め始めているような・・・そんな気がした。
テレサ自身はもともと温かくて優しい清らかな心の持ち主なのだが、彼女自身の数奇な運命により、その想いさえをも自己否定せざるを得なかった境遇に言葉が出ない。
自分自身をずっと否定し続けてきたテレサの気持ちを、ほんの少しだけでもいいから解き解したい・・・
無理なことだとは百も承知してはいるが決して自惚れではなくて・・・
同じ一人の人間として彼女の凍りついたままの気持ちに、ほんの少しでも寄り添ってあげたい・・・
そう感じた瞬間から、たぶん自分は彼女に恋してしまっていたのだ・・・
運命の悪戯に翻弄されるままに自分達を取り巻く状況がどんなに紆余曲折していっても、
彼女を・・・テレサを思い続ける気持ちは永遠に変わらずにいることを・・・。
「・・・島さん・・・!」
気がつくと、華奢な彼女の身体を背後からそっと抱き締めている自分に気がついた。
腕の中で僅かに身動ぎしながら、小さく呻いたテレサの声が震えていた。
「こうしていると・・・分かるんだ。君の心の中を蔽い尽くしている頑なな雪の塊が少しずつ溶け出し始めているんだ・・・、って」
「・・・」
「君自身は認めないと思うけれど・・・君の心が、本当は誰よりも温かくて優しい春の陽射しで満ち溢れているのを・・・僕は知ってる」
「・・・島さん!・・・でも私は・・・!」
必死になって自分の言葉を打ち消そうとするテレサを柔らかく抱き締めながら・・・島は穏やかに言葉を継いだ。
「もうそんなに自分自身を苛めなくてもいいんだ。自分の中の罪の意識を消し去ることは出来ないかもしれないけれど、それをずっと忘れずにいるということだけで・・・もう充分君は罪を償ってきているじゃないか」
抱き締められるだけだったテレサの腕が動いて・・・そっと島の腕に重なった。
少し身を捩って見上げる視線の先に、いつもいつでも自分だけを優しく見つめ続ける島の優しい眼差しに出逢った。
「・・・し・・・まさ・・・ん・・・」
何かを言い掛けようとするが、島の名前を呼ぶだけで胸の内が溢れ出しそうで・・・
テレサは潤んだ眸のまま、黙って島を見つめ続けた。心からの想いを寄せて。
「テレサ。君の眸の奥に・・・優しく温かい春の光が息づいてる・・・」
辛く厳しい冬もいつかは必ず・・・春になる。
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