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2004年11月8日サイト初掲載作品
犇めき合った木々の隙間から零れ落ちる金色の光の束。
その光の色に触れたもの全てが柔らかい温もりで包み込まれつつ、緩やかな眠りに落ちていくような午後のひととき。
過ぎ行く時間の端をなぞるようにしながらゆっくりと歩く二人の背中に、絶え間なく降り注ぐ秋の光は何時にも増して優しい色に彩られていた。
一枚・・・また一枚と舞い落ちる葉は暖かな光に包まれながら、まるで落下を楽しむように空気の流れに乗って、静かな空間の中に動きを与える。
皆一様に同じ動きで落ちるのではなく、それぞれが思うままに優雅なダンスを踊るようにして静かにヒラヒラと舞い落ちる。
誰に見せるのでもなく・・・
誰かに見てもらいたいのでもなく・・・
時の流れに身を任せながらも限りある生命の中で、いつか一瞬の煌きを紡ぎだせることを願って舞い落ちる葉の美しさに、人はいつしか自分の中の想いを重ね合わせていく。
愛するという・・・ただひとつの揺ぎない真実を求めて。
*****
「ずっと・・・君に見せたかったんだ」
一歩前を歩いていた島の歩みが止まり、前方を指し示しながらゆっくりとテレサを振り返る。
笑顔と共に指で指し示された先には地面一面の真っ赤な紅葉の絨毯が広がっていた。
幾重にも折り重なったビロードの光沢を思わせるような天然の色に彩られた紅葉の絨毯は、一瞬たりとも同じ色合いになることなどなく、光や風の加減で様々な朱に変化しているのだった。
自然が創り出したモノという、地球上で最も貴重な恵みによって成り立っているこの光景の美しさに、テレサはただただ感嘆するしかなかった。
実際のところ自分が今、見つめている光景は一分一秒と同じものではなく、刻々と過ぎ去っていく時間の波に呑み込まれていく一日の中の、ほんの一場面にしか過ぎない。
・・・だけどそのほんの一場面の中に、言い尽くせない程の様々な想いが凝縮されていて。
・・・鮮やかで艶やかな色を称えた紅葉の美しさに限りある生命の尊さを想い
・・・柔らかな想いに包まれた秋の陽光に癒され
・・・そしてこの美しい景色をこうして島と一緒に見つめることが出来る嬉しさに・・・
言葉にすら出来ないほどの感謝の気持ちがテレサの心を埋め尽くしていく。
「・・・一緒に歩いてみようか?」
島にそう誘われても、自分が足を踏み入れることでこの美しい景色を瞬く間に崩してしまいそうな予感に覆われたテレサの心が足踏みをする。
「壊してしまいそうで・・・怖いんです」
それだけ言うもの精一杯だったテレサを優しい眸のまま見つめつつ、島はそっと彼女の元に近寄った。
「・・・じゃあ、こうすればいい」
立ち竦んだまま強張った表情で一歩も動けないテレサを慎重に両手で抱き上げながら、島は真っ赤な紅葉の絨毯の中にゆっくりと静かに足を進めた。
「島さんっ!」
驚きと恥ずかしさで地面の紅葉にも見劣りしないほどに真っ赤に染め上がったテレサの顔に、島は優しく笑いかける。
「こうすれば大丈夫だから。君は安心して僕に掴まっていればいい」
島の腕に抱き抱えられているという状況に動転して、その言葉に反論する機会を逸したテレサは島の為すがままに大人しく抱き抱えられながらも少しだけ抵抗の素振りを見せた。
「重いですから・・・どうか降ろしてください。たとえ少しの時間でも島さんの負担にはなりたくないんです」
緊張と恥ずかしさで上擦ったテレサの言葉を黙って受け止めた島は、腕の中のテレサに向かって笑みを零す。
その笑顔は天から降り注ぐ金色の光に馴染んで、いつもよりも更にまろやかな優しさに彩られていた。
「確かに・・・重い」
腕の中のテレサの身体が一瞬強く強張ったのを感じつつ島は次に続く言葉を投げた。
テレサを抱え上げている腕になお一層力を込めながら。
「でもそれは君の体重の事を言っているんではなくて・・・君の命の重さの事を言っているんだ」
テレサの指先が自分のシャツを不意に強く掴んだのと、ハッとした表情で自分を見上げるテレサの瞳に動揺が走ったのはほぼ同時だった。
島は歩みを止めると腕にテレサを抱き抱えたまま、言葉を紡ぎ始めた。
「こうして今、君が生きているという事を実感できる嬉しさに敵う物などこの世には一切ない。僕の・・・僕のこの腕の中で君が生きていてくれて、その命の重みをこの腕を通じて現実に感じることが出来ることに・・・僕は心からの感謝を捧げたいんだ。君と巡り合えた喜びと・・・君と一緒の時間を過ごせる幸せと・・・そして君がこうして僕の傍にいてくれるという、たった一つの願いと・・・」
島が紡ぎだす言葉に天から零れ落ちる金色の光が溶け合いながら、テレサの心に・・・身体に温かくて優しい想いを降り注いでいく。
自分に対する島の心のからの想いに触れて、堪えきれずにポロポロと頬を伝う透明な雫。
声を殺しながら静かに泣き続けるテレサに愛しさを募らせながら、島は腕の中の想い人を一際強く抱き締めるのだった。
・・・たった一つの願いを・・・
・・・愛するという・・・ただひとつの揺ぎない真実を・・・
・・・胸の奥にしっかりと刻みながら・・・
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