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いい女の条件

新作UPしました。

「ダイロンの聖少女」の一番最後のシーンをベースとした、
アルフィンとルーのお話です。
よろしかったらどうぞ。

なお、このお話のあとがきをBBSにUPしました。
併せて御覧いただけましたら幸いです。

「・・・アンタ、底なしの馬鹿?」

冷ややかな目付きを携えて心底呆れ返った風情のルーが、大袈裟に顔を顰めつつアルフィンに向け言い放つ。
アルフィンを蔑むルーの視線には、些細な同情の欠片も見受けられない。
自分に引けをとらない程の美貌、スタイル、洗練された仕草を兼ね備えた美人クラッシャーにスクリーン上から思いっきり見下され、アルフィンは奥歯をギリッと噛み締める。
鈍い音が頭の中で反響するが、それすらも一切無視してアルフィンはルーを睨みすえるだけだった。
いつもなら倍返しの勢いで、ルーの暴言をやり返すアルフィンなのだが・・・
今日の場合はいささか勝手が違う様である。

余程のことがない限り、自分の非を認めないアルフィンの言動を知っているが故に、ルーは止めの一発をアルフィンに向け、ぶちまけた。

「『自業自得』って、今のアンタの状態を指し示す、うってつけの言葉だと想うわ、アルフィン」

*****

事は数十分前に遡る。
ようやく一仕事を終えたナイトクイーンで束の間の休憩をとっていたルーに突然掛かってきた入電。
先刻までの状況が頭の片隅を過ぎり、クライアントからのクレームが入ったと察知したルーが軽い身のこなしでコンソールのボタンを弾いて緊迫した面持で見上げた先には、しょぼくれたアルフィンの顔が画面一面に投影されたのだった。

「・・・はぁ?何でぶんむくれたアンタの顔が大写しなのよ!?」

咄嗟に口をついて出た言葉は、脱力感がありありと滲んでいた。
怒鳴るよりも先にそういう類の言葉が無意識に出てしまうあたり、アルフィンの落ち込み方が相当激しかった訳で。

「ちょっと!そんなに湿気た顔のまま、ボーっとしてないでよ!こっちの調子が狂うじゃないの!」

ルー本人は気づいてないだろうが、アルフィンの様子がいつもと違うことに敏感に反応して、口調が少しトーンダウンし始める。
悪態をつきながらも、アルフィンの機嫌を窺おうとする意識が、ルーの頭の中でざわめき始める。


・・・これはジョウと何かあったのね・・・


入電してから一言も漏らさないアルフィンの様子を垣間見て、一瞬のうちにルーの直感を呼び起こしたもの。
それはつまり、彼女もまたアルフィンと同様にジョウに惚れているという、似たもの同士が共有しあう、ある種の研ぎ澄まされた心理が、恋する乙女ふたりの心情を知らず知らずのうちに繋ぎ合わせているのだった。

アルフィンとルーが初めて対面したとき、眼に見えない火花が炸裂し、同時にお互いの心に相手の存在感がまざまざと刻み付けられた。


・・・きっとライバル同士になるはず・・・


漠然とした予感がお互いの胸に湧き上ったのも無理はない。そして、それが自然に確信へと変わっていったのも。
強烈な第一印象が植え付けられたまま、彼女たちは数日間の共闘を余儀なくされる。

数々の予想を覆す出来事の中で、ふたりは激しくぶつかり合い、時に激しく罵り合いながらもお互いが少しずつ相手の存在を認め、競い合いつづけるであろう未来を予感した。


「・・・あの娘をあそこまで本気にさせたのは、アンタが初めてかもしれない」

擦れ違いざまに真顔でダーナに呟かれたアルフィン。

「喧嘩腰であっても、アルフィンの本音を無理なく聞き出せるのは・・・宇宙広しと言えどもルー一人しかいないだろ」

半ば断定的にジョウに話しかけられても、反論する意識の欠片さえ思い浮かばなかったルー。


二人の根本を繋ぎ止め、お互いを最終的には理解し合える、唯一の感情。
「ジョウに惚れている」というその事実のみが、今後もライバルであるという意識を位置づける、最高の切り札であることも。

*****

「洗いざらいぶちまけたら、楽になれるんじゃない?」

ルーのその一言が引き金になった。
その後、アルフィンの怒涛の歎き節が数十分炸裂する事となる。

ダイロンでの事件の発端から始まり、リッキーとかつてネネトであったカアラとの心の繋がりを目の当たりにしてジョウと自分との現状に想いをはせ、思わせぶりな言葉をジョウに投げ掛けた瞬間、聞こえなかったフリをしたジョウに激怒し、そしてジョウの背中に思いっきり蹴りを炸裂させたまでのいきさつを。

・・・ひと通りアルフィンの言い分を聞き終えたルーが放った言葉が、先程の言葉へと繋がる。

「アルフィン、あんたジョウと何年一緒にクラッシャーやってきたの?」

意気消沈したままのアルフィンをさすがに気の毒に思ったのか、ルーの声のトーンが弱冠優しくなる。

「・・・もうすぐ1年・・・」

俯いたまま消え入りそうな声で話すアルフィンの見て、何故かムカムカとする自分にルーは気がついた。

「あんたねぇ、それだけジョウと一緒に居るんなら、自分が言った言葉でジョウがどんな反応を示すかくらい、大体予想できるはずでしょ?それを棚に上げてジョウの背中に蹴りを入れるなんざ、最低の最低!ジョウを恨むより、そんなジョウに惚れた自分自身を責めるべきなんじゃない!?あ〜っ、呆れ返って物が言えないわ、全く」
「そんなに責めないでよっ!私だってそんな言葉、ジョウに向かって言いたかないわよっ!だけど・・・だけどリッキー達にあれだけ当てられちゃったら、ちょっとはジョウも考えてくれてるんじゃないかな?って思うのも無理ないわよ」

・・・アルフィンの今の言い分でルーの神経がブチッと嫌な音を立てて切れた。
美人が啖呵を切ると壮絶なものがあると、実証するに値する程の凄まじい怒声がスクリーン上で炸裂する。

「・・・あんたねぇ、いいかげんジョウに甘えるの、止めた方がいいんじゃない!?端で聞いてりゃ、自分の事ばっかり御託並べて、ちっともジョウの気持なんか理解しようとしてないじゃない。それにそんなにジョウに対して遜った態度見せてどうすんの!?あんたクラスの、一般的にいう高嶺の花の女が『わたしは、もうけっこういい女だよ』って耳打ちするなんて有り得ない!自分で自分の価値を下げてどうすんの!?いい女ってのはね、ここぞ!という時にバシッと決めるもんなのよ。それともなに?「けっこういい女だよ」って言って、ジョウがその言葉に即座に反応して求愛してくれた方がいいとでも思ってるの?そんな安上がりな男、私だったら即座に願い下げよ。アルフィン、アンタもっと自分にプライド持ちなさいっっ!!アンタはねぇ、自分のこと全然分かっちゃないのよ。いい!?男に惚れぬく女よりも、男に惚れ抜かれる女になりなさい。アンタはまだ全然気づいてないけど、ジョウはねぇ、アンタのこと・・・!」


ブツッ!


突然音を立ててブラックアウトしたスクリーン。
アルフィンに対して熱い持論を展開していたルーの隣りには、涼しい顔をしたダーナがいつの間にか佇んでいた。
すっと伸びた腕がコンソール上のスイッチを切る。

「・・・お節介もほどほどにするのね、ルー」
「・・・おねぇちゃん、いつの間に・・・」

驚いて色を無くすルーに、ダーナは頭上から言葉を投げる。
言い方はこの上なく冷たいが、その奥に隠された想いは妹に対する慈しみに溢れていた。

「アンタがこんなに人に対して一生懸命になれるなんてね」
「・・・それ、皮肉?」
「・・・さぁ、どうかな?リビングにいらっしゃい。ベスが待ち草臥れてるわ」

言うな否や颯爽と踵を返してスタスタと歩くダーナに、ルーが慌てながら小走りで駆け寄る。

「おねぇちゃん、ちょっと待ってよ!いっつもおねぇちゃんは思わせぶりな言い方するんだから・・・」

並んだ足取りで操縦室を出て行く姉妹を見届けるかのようにして、ピッと鳴った電子音。
ルー宛の短いメッセージが、流れては消えた。

『愚痴に付き合ってくれてありがと、ルー』

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