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いつかきっと

2004年1月13日サイト初掲載

「ふうぅ〜っ!」

一点に集中していた視線を軽く外しながら零れ落ちた吐息。
慣れない専門用語と格闘しながら捲るページはまだほんの2、3ページを過ぎただけだった。
自分で決めたこととはいえ、この本の最終ページに辿り着くまでの気の遠くなるような時間を
考えて沈み込みそうになる気持。
その気持にさらに拍車を掛けるような、ページの隅々までびっしりと埋め尽くされた文字の
羅列は、見ているだけで知識を理解しようとする意欲を減退させていくように思えた。

・・・その瞬間だった。
萎えていきそうになる思いを踏みとどませるように知らず知らずのうちに呟いた言葉が
再び彼女の気持を活性化させ始める。

「・・・ここで負けちゃいけないわ、アルフィン!私は・・・私はクラッシャーになったんですもの」

まるで自分の中の負けん気が乗り移ったような、握り締めた両の拳に漲る力。
俯きがちだった頭をぱっと上げ、本を見据える視線にはかつてないほどのやる気と集中力が込められていた。

思考停止状態だった短いインターバルを脱し、再び文字と格闘を続け始める彼女の背中に落ちる優しい時間。

時刻は深夜2時を過ぎていた。


「・・・何してるんだ?」

背後から掛けられた声にビクッと反応する身体。誰も居ないはずのリビングルームに響き渡った声に
心臓が縮み上がるほどの衝撃が身体を駆け抜ける。
まだ衝撃の余韻が抜けないまま、恐る恐る声が届いた方向に身体をめぐらすと
自分を厳しく見据える黒く透き通った色の眸とぶつかった。

「・・・ジョウ・・・!」

その名を口にした途端に、縮こまっていた身体がゆるゆると弛緩していくのが分かった。
ジョウの顔を見た瞬間に解かれていく気持がアルフィンの身体の中で仄かな暖かさに
変わっていく。それは恋した者にしか分からないはずの優しくてドキドキするような
ときめきにも似た感情かもしれなかった。

「ん、もぉ!突然背後から声を掛けて驚かさないでよ。びっくりするじゃない!」

自分に声を掛けた人物がジョウだと分かって気が緩んだせいかもしれない。
少しだけ甘えたニュアンスが口の中から迸っていく。
いつもならこの自分の対応に照れまくってしどろもどろになるか、焦ってすぐに退散するはずの
ジョウが厳しい眼つきで自分を見下ろしていることに・・・アルフィンは微かに怯えた。

「アルフィン、今何時だと思ってる?どうしてこんな真夜中まで起きているんだ!」

険しい顔つきで言い放つジョウの頭ごなしな態度に触れてアルフィンの心の中で
ムクムクと湧き上がっていく反発心。ジョウに辛く言われた分だけ倍増して跳ね返っていく気持を
止める術を今のアルフィンは持ち合わせていなかった。

「まぁ!いきなりそんな怒鳴らなくてもいいじゃない。いつ寝ようと私の勝手でしょ!
寝る時間までチームリーダーに管理されたかないわ」

アルフィンの言葉を聴き終えたジョウの右目が微妙に細くなる。
ピクピクと痙攣しているような頬がジョウの怒りのボルテージを徐々に上げていく。

「今すぐに自室へ戻って就寝すること!これはチームリーダー命令だ」

有無を言わさないようなジョウの高圧的な命令に今まで押さえつけていた感情が爆発した。

「ジョウ達の足手纏いにならないように、必死なのよ!一日も早くクラッシャーの世界に溶け込んで
一日も早くジョウ達と同じ世界の中で生きていかれるように・・・私なりに少しずつ頑張ってるつもりなの!
ぬるま湯育ちの私がチームに加わったことで、チームの評価がガタ落ちになってしまわないように・・・
今までジョウやタロスやリッキーやガンビーノが命を掛けて築き上げてきたチームの評価を
私が・・・私が加わったことで壊してしまうわけにはいかないのよ!」

ジョウに対して初めてぶちまける心の叫び。
それは言いたくても言い出せなかった自分自身の不安と恐れであることにアルフィンも気がついていた。
クラッシャーとしての素質を見出されスカウトという望まれた形でチームに加わったわけではなく、
密航といういわば卑怯な形でミネルバに乗り込んだ自分は、ジョウ達の足手纏いになっているだけとの
認識はいつもアルフィンの心に付き纏っていた。
だから・・・だから自分が早く一人前になることでチームを・・・そしてジョウを支えることを
願う心の現われが、クラッシャーとして必要な知識を得るために貴重な睡眠時間を削って
毎晩人知れず勉強している状況に辿り着いたのだった。

そんなアルフィンの姿を知りながら、ジョウの口から出た言葉は冷静そのものだった。

「アルフィン、早く寝るんだ。クラッシャーは身体が資本だ。勉強することも勿論大切だが
それよりももっと重要なことは自分自身の身体を常にベストコンディションに保っておくことだ」
「・・・じゃあ、今私がしていることは無駄なことだって言うの?!」

食い下がるアルフィンにジョウの一言が飛んだ。

「・・・そうだ!」

ジョウの言葉を聞き入れまいと身体が壮絶な拒否反応を起こす。ジョウの言葉を聞いて全身から吹き出た汗が
アルフィンの意識を蹴散らすかのように流れ出る。

「納得できないわ!どうして・・・?どうしてそんな酷いことを言うの?
私なりに・・・ずっと頑張ってきたのよ」

掠れた声が喉の奥から出たと同時に流れ出す泪。泣くまいとしながらも溢れ出る泪を疎ましく思いながら
噛み締める唇。

「ピザンではそれで良いかもしれないが・・・ここはクラッシャーの世界だ。
チームリーダーの俺の言うことが聞けないのなら、ミネルバを降りたほうがいい」
「ジョウッ!」

悲鳴とも叫びともとれる絶叫がリビングに突き刺さる。ジョウの口から漏れた言葉はアルフィンの
心を引き裂かんばかりに容赦が無かった。見開いた眸から流れ落ちる泪は白い頬を濡らしつつ
滑り落ちて足元に溜まっていく。
壊れかけそうな心を繋ぎとめようと懸命にもがく感情がどんどん自分自身を闇の深みへと
追い込んでいるような感覚にアルフィンの身体はブルブルと震えだした。
そんな彼女の様子を押し黙りながらじっと見詰め続けていたジョウは何故か一瞬だけ表情を
柔らかくしたまま、アルフィンに背を向けつつゆっくりと言葉を継ぎ足し始めた。

「アルフィン・・・そんなに急いでクラッシャーになろうとするな!
君が・・・もしずっとこのまま・・・クラッシャーでいたいと思っているのなら・・・
ゆっくりと時間を掛けて・・・少しずつクラッシャーになればいい」
「・・・!ジョウ・・・」

今までとは違う優しい響きの声がアルフィンの凍りついた意識に触れた。
不意打ちを食らったような衝撃がいつしか思いがけない嬉しい喜びに変わりつつあるのを
アルフィンは感じ始めていた。
思わず見上げた先には・・・ジョウの背中が自分の目の前に立ち塞がっているだけだった。
しかしその背中には今まで見たことがないほどに、自分のことをさり気なく思い遣ってくれている
ようなジョウの想いが滲んでいるように感じた。
自分に背中を見せて語り掛けているジョウの表情が何故か今、アルフィンには分かるような気がした。
僅かに頬を赤らめながら、自分に対して最大限の心配りをしながら言葉を選んでボソボソ呟いて
いるシャイでナイーブなジョウの表情が・・・。

「・・・俺のチームに・・・ずっと居てくれるよな?」

胸の奥から絞り出したようなジョウの声にすかさず反応した言葉は、リビングの中に凛とした
響きを残して・・・時の狭間に消えていった。

「当たり前じゃない、ジョウ!」

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