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アクシデント

ワームウッドの幻獣でのハンドジェット暴走場面での短編です。
よろしかったらどうぞ

・・・不思議な感覚が・・・私の全身を包み込む・・・

それはまるで、あてもなく流離い続ける魂の欠片が、

ふと気まぐれを起こした神の手によってそっと掬い取られ、

私の心の奥に蔓延ったままの、固く閉ざした精神(ココロ)と共に、

神の手に触れた瞬間から、少しずつ浄化されていくようで・・・。


・・・あの時、私は死んでいた筈だった。

絶望がすっぽりと全身を覆い尽くし、死への恐怖で精神が瞬く間に凍りつく。


・・・もう駄目・・・!


悪魔が奏でる死への序曲は、意識をなくしかけた耳元でクライマックスを迎え、
最期まで振り絞っていた生きる気力を、細胞の隅から隅まで根こそぎ殺ぎ取っていく

棒立ちになったままで、死への片道切符を悪魔に手渡し掛けた、その瞬間だった。

私の眸の中に飛び込んできた一筋の炎が、絶望の闇を一気に薙ぎ払い、そして
失いかけていた生への灯火に明かりを灯した。

近寄ってくる人影に向け、私は無我夢中で両手を差し出す。

限界まで伸ばした指先に、全身から激しく放たれる生命の煌きが一つに収束する。

ありったけの願いを込めて、極限まで天上に振り翳した指先を

強く・・・千切れるほど強く、掬い取った腕が私をしっかりと抱え込んだ。

*****

「間一髪だったな」


素っ気無い言い方が逆に、生きるか死ぬかの崖っぷちの事態に直面している事を如実に現している。

「辛かったら、私を落としてアンタ一人で逃げてもいいのよ。アンタの足手まといになるくらいなら、私・・・」

「黙ってろ、ルー!死にたくなけりゃ、腕を放すな。これは命令だ」

低いが、はっきりとした声が漏れ聞こえた。
ジョウの首筋に廻した両腕が僅かに汗ばむ。
生れ落ちてからこのかた、憎悪の対象でしかなかった人物に、思いがけず助けられ抱きかかえられている状態に・・・心が落ち着かず、言葉が出ない。

・・・それよりも寧ろ、心の隅で疼き始めた想いが仄かに全身を駆け巡り始める。
密着した状態で、腕の力を緩めるわけにもいかず、感情が行き先を失う。

「わかったわ、ジョウ」

喉の奥から搾り出した声は、僅かに震えていた。
それはルー本人にとっても意外な事であった。

ジョウの首筋にしがみ付きながら、ルーはそっとジョウの顔を仰ぎ見た。
精悍な顔つきで前をしっかりと見据えている横顔が、何故かルーの眸の奥に焼きついた。
ジョウの額から流れ落ちる汗の雫が、鈍い光を放ちながら空中に弾け飛ぶ。
その光の中に映りこんだ希望の虹を一生忘れはしないだろうと・・・ルーは想った。


緩み掛けた両腕に再び力を込め、ルーはジョウに縋り付いた。


ハンドジェットの暴走は、まだしばらく止まりそうになかった。

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