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シンパシー

2005年5月23日サイト初掲載作品

「・・・強い女性(ひと)だな、アンタは・・・」

壮絶な戦闘をさっきまで展開していたにも関わらず、泣き言はおろか弱音すら一切吐こうともしない芯の強さに、根っからの生え抜きクラッシャーであるジョウは驚きを隠せない。

「俺がアンタの立場だったら・・・手のつけようがない位に取り乱して、きっと逃げ惑っていると思うぜ」

ジョウの眸を真正面から見据える薄紫の眸を過ぎった翳り。
しかしその翳りは一瞬にして霧散したかと想うと、代わりに強く煌く光が薄紫の眸から放たれていく。
潤みきったその眸の奥に宿っている気高さと背中合わせの直向さは、目の前に佇んでいる人物が自分よりも年上の女性(ひと)という印象を、ひとときだけジョウの意識から弾き飛ばした。
アルフィンを護ることとはまた違う意味で、この女性(ひと)を護らなければいけないという、決意にも似た強い意志がジョウの全身に漲る。

この女性(ひと)を護れるのは自分達以外の、他の誰でもない・・・
一番正当な理由はそれに行き着くのだろうが・・・
ジョウの心の奥底では、まだ自分自身でも気付いていない眠ったままの感情が無意識のうちに発動し始めたのかもしれなかった。

「・・・いいえ、強くなんかないわ。強がっているフリをしているだけ・・・。そうしていないと、今すぐにも壊れてしまいそうになる自分を分かっているから」

落ち着いた口調の裏側で僅かに震える声が彼女の本心を物語っているように思えた。
アルフィンから与えられたレイガンを両手で必死に握り締めているマチュアの指先は血の気を失ったように真っ白な色のまま強張っていた。
張り詰めた表情の奥で『今、自分が為さねばならぬ使命』の実行を固く心に誓っているような彼女の想いが眸から溢れ出す。
マチュアの心や身体から滲み出るような真摯な想いを見ていられずに、ジョウは彼女からふと目を逸らした。

・・・自分の中で曖昧にしていたダンとの親子関係を、マチュアが放った言葉によって突きつけられたような気がして・・・

見てみないフリを続けようとした自分の狡さと、マチュアの真摯な姿勢が真っ向からぶつかってジョウの胸の中をジワジワと侵食していく染み。
蟠りという名の染みが拡がっていくのを押し留められない一方で、ジョウはマチュアに自分の姿をダブらせていく。

立派で偉大な父親の威光を跳ね除けようと、無茶な真似ばかりして無理矢理周囲を納得させることに躍起するしか手立てがなかった自分は・・・つまりはマチュアが言う『強がっているフリをしているだけ』なのだと。

・・・そんなどうしようもない自分でありながらも、支えてくれる仲間の存在に気付いたとき・・・ジョウの心に起きた微かな変化。

「・・・ジョウ。これ以上貴方達を巻き込む訳にはいかないわ。後は私一人で何とかするから、どうか貴方達は早く逃げて」

マチュアの懸命な訴えを聞きながら、ジョウはニヤリと口の端を上げると腕組みをしたままぶっきらぼうに答える。

「いや、俺達はとことんまでアンタに付き合う覚悟だぜ。アンタが嫌だって言っても・・・な!」
「・・・ジョウ・・・」

困り果てたマチュアの表情の影にうっすらと見え隠れする安堵感に気付いてジョウも更なる闘志を奮い立たせていく。

「危機や困難を乗り越えるのに一番必要なのは・・・何よりも『信頼すること』が一番大切なはずさ。信じる、信じないはアンタの勝手だが・・・俺達はアンタを護る。そう決めた」
「・・・ジョウ・・・!」
「強がっているフリばかりじゃ、いつかは壊れちまう。たまには寄りかかる場所も必要・・・だろ!?」

マチュアに向けて言いながらジョウの脳裏に次々と入れ替わるようにして思い浮かぶタロス、リッキー、ドンゴ、・・・そしてアルフィンの顔。

決意を込めて見上げる先にはじりじりと迫り来る敵の姿がすぐそこまで来ていた。

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