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淡色の夏の記憶〜字書きた為の50音のお題〜

2005年7月21日サイト初掲載作品

「・・・御願いがあるのですが・・・」

いつも以上に控えめな声が連れ立って歩く僕と君の歩みを止まらせる。
俯き加減で申し訳なさそうに呟く君。
その細く華奢な肩に落ちる月の光が闇と溶け始めた頃、緩く結い上げた髪が夜風に靡いてはひとときの幻を紡いでいく。
真っ白な項に掛かる後れ毛が、普段は清楚な印象の君を少しだけ艶やかなイメージに塗り替えていくようで・・・
まともに君の眸を見詰められない。

君自身が意識してそうしている訳ではないから、清楚な中に隠れて表にほとんど出てこなかった無意識の妖艶さに翻弄されつつ、君の美しさにお手上げ状態な僕。
計算ずくの女らしさに接するときは警戒感は倍増していくけど、自然な立ち居振る舞いやさり気ない仕草に滲み出ている本当の意味での女らしさには、我を忘れてのめり込んでしまいそうになる・・・のだと、実際に目の前で佇んでいる君の姿がはっきりと教えてくれているようで。

今、君とこうして歩いている時間帯が宵の口で良かったと心底思わずにはいられない。
並んで歩く君の憂いを秘めた横顔を見るたびに、動悸が激しくなっていくのを止められない僕がいるから。
僅かに触れる肩先を感じるだけで、全身が真っ赤になっていくのを止められない僕だから。

初心な少年の頃の気持ちに一気に逆戻りしてしまうのは・・・
浴衣姿の君と歩いているという、非日常的な光景に今実際に遭遇しているから。
そう無理矢理納得させなければ、いつまで経っても君に対する余所余所しい態度からは脱却できない。
反面、心の奥深くに強引に捻じ伏せた本能を解き放てば、理性を無視してどうにかなってしまいそうで怖いのが本音。
たぶん僕の躰の奥では、理性と本能の壮絶な鬩ぎ合いが展開しているはずに違いない。
僅差で理性が本能に勝っているから、どうにかこうにかまだ(表面上は)理性を保っている僕だった。
その理性だってほんの小さなきっかけさえあれば、一気に本能と形勢逆転してしまうはず。

多くの矛盾を抱え込みながら、水面下で自分自身と葛藤し続けている僕に届いた声は、少しだけ内向していく意識を外に向けて逸らしてくれた。


「・・・言ってごらん」


お互いの目線が合うように腰を屈めながら話す僕に、俯いたままポツリと言葉を漏らす彼女。

「あの・・・。少しだけ・・・、寄り道をしたいんです」

風に揺れる紫紺のリボンが闇の中でひらめく。
その言葉を受け止めた途端、何故だか分からないけれど一瞬にしてパニック状態に陥った意識は、暴走し始めようとする本能を懸命に押さえ込みに掛かった。
しかし身体の中に散らばった理性を総動員しても食い止めきれない本能がズキズキと疼き始るのも自覚していた。
君の言葉を額面どおりに受け止めたいとする気持ちと、理性を彼女に対してどこまで許せばいいのかを、頭の中で即座に計算し始める強かな本能が、壮絶な一騎打ちを展開する。

ありとあらゆる妄想、希望、現実、打算がごちゃまぜになったまま、君の言った言葉を理解しようとするがそれはあっけなく徒労に終わった。
君がそっと差し出したモノを見た瞬間に、彼女の意図する言葉の訳を即座に理解してしまったから。

まだ俯いたまま肩を震わせて僕に視線を向けようとしない、いじらしさに・・・
濁り始めていた心が透き通っていく。

愛しさが募っていくのに時間や労力は関係ない。
必要なのはお互いを心から愛する、その気持ち・・・ただそれだけ。
そのことを僕に教えてくれたのは・・・君だけだから。

テレサ、君だけだから・・・。


「・・・君の思うとおりにしてごらん」


闇に零れた言葉を掬い取った君の表情がパッと華やぐ。
僕を見上げて小さく微笑みかける君の眸に星が一つ瞬いた。

*****

どんなに科学が凄まじい勢いで発展しても、結局人の心の拠り所となるのは自然との共生に行き着くのかもしれない。
実際人工的なモノに囲まれているとどことなく息苦しくなっていく自分を知ってるし、ホッとしたい時や疲れを癒したいと思うときは足が公園や海に向けて、自然に歩き出しているから。
今、こうして君と爽やかな夜風にあたりながら並んで歩いていても、やっぱりそう思う。

テレザリアムで初めて逢った時の君は、切迫した状況や自分自身の罪の意識によって左右されていた面もあるかもしれないが、緊張で強張った表情が特に印象強かった。
だけど今、地球(ここ)で暮らし始めた君の顔には・・・以前と較べると少しだけ和らいだ表情が漂っている気がするんだ。
きっとそれは君の近くに僕がいる所為じゃなくって・・・多くの自然に囲まれているという安心感が君を包み込んでいるからなんだろう。
口惜しいけれど・・・それが現実。

・・・テレサ・・・。
君をこんな風に和らいだ表情にさせてしまう自然の温もりに・・・僕は少し嫉妬してるんだ。
・・・自然に対して嫉妬するなんて大人気ないことなのかもしれないけれど・・・君の気持ちをもっと安心させてあげたくて。
君が・・・もっともっと心落ち着く場所を一緒に見つけたくて。
君が僕に対して遠慮したり、僕の顔色を窺ったりしないで・・・心から笑えるようになる為に・・・
僕は一体どうすればいい・・・?


「・・・島さん」


遠慮がちな君の声が僕の意識を現実に引き戻す。
まだ俯いたままの彼女は僅かに顔を上げると、細切れに言葉を落とす。夜風に揺らめく紫紺のリボンは闇夜に羽ばたく幻想的な蝶の姿に成り変わり、優雅で軽やかな舞を舞い始める。


「すみません。少し此処で・・・待っていただけますか?」


沈黙が闇に滲んでいく。
向き合ったまま黙り込む僕と君の間に立ちはだかる壁を緩やかな言葉が切り崩す。

「いや、僕も君と一緒に行く。」
「・・・!」

見開いた眸に映り込む星の煌き。
僕の言葉を受けて、どう返答したらいいものか戸惑っている君の困惑を見つつ・・・畳み掛けるように言葉を連ねる。

「一人で待ち続ける辛さは・・・君も僕も・・・充分過ぎるくらい分かっている。だから・・・だから僕は少しの時間でも君をひとりにはさせたくない。僕自身もひとりになりたくない。・・・これは僕ひとりの思い込みなんだろうか・・・?」

硬かった君の表情が口元からすこしずつ綻んで、緩やかな速度で麗しい目元に到達した瞬間、柔らかい声が僕の耳に心地よく響いた。


「・・・私も・・・島さんと同じ気持ちです」


一言ずつゆっくりと噛み締めるように押し出された言葉は、透明な滴となって僕の胸の奥深くに滴り落ちる。
言葉の欠片が一粒落ちる度に・・・君の透明な想いが僕の心に綺麗な波紋を拡げていく。
心から心へと伝わる『愛』という想いを象った波紋に描き出されながら、僕と君の心は次第に溶け合っていく。


「一緒に行こう・・・」
「はい・・・」


握り締めた手の温もりに・・・お互いの気持ちを重ね合わせて・・・。

*****

漆黒の闇の中で踊る朱の閃き。
どんなに重い闇が周囲を覆いつくしても、生命(いのち)の煌きを滲ませた朱の本能は奔放さを増していく。
周りが澱んでいけば澱む分だけ、自らの生命(いのち)を縮めてまでも華やかさを撒き散らす朱の壮絶な生き様に・・・君は君自身の姿をダブらせていたのかもしれない。だから君は・・・。


「・・・さ、もう自由に泳ぎまわって」


人気のない土手を降りた所にある小さな小川の川べり。
緩やかに流れる川の水中にそっと手を差し入れて、持っていたモノを解き放った君の声は普段よりも明るい口調で闇に零れた。
縁日に入場する際に貰った二匹の金魚が、嬉しそうに跳ね動きながら川の中へと還っていく。
黒一色の世界を朱の鮮烈な動きで切り崩す金魚の躍動は『自由』という、本来生命(いのち)あるモノに神から平等に与えられた権利を心行くまで享受しているように思えた。
自由に生きる意思を奪われ、狭い世界に留まっている運命を勝手に背負わされていた金魚を解き放った君の横顔に・・・神々しいほどの美しさが宿る。

・・・生と死の淵を彷徨っていた僕に対して懸命に蘇生措置を施してくれた君の横顔も、きっと・・・


「・・・大丈夫でしょうか・・・」


ほの暗い水底で快活に泳ぎ回る金魚を見届けつつ、少し不安げな面持ちで僕に訊ねる君の眸を覆う翳りは色濃いままで。
闇に馴染むことなく活き活きとした泳ぎでやっと手に入れた自由を謳歌している金魚は、君に対する僕の返答を用意立ててくれているかのように水中を動き回る。


「大丈夫さ」


言いながら、土手を上がり掛けた君の目の前にそっと手を差し出す。


「君の優しい想いに守られていた金魚達だ。君の優しさを忘れることなく力いっぱい命ある限り生きていくはずさ」
「・・・島さん・・・」


君の手が僕の手に重なったと感じた瞬間、僕は君の手を強く握り締めながら・・・通り過ぎる夜風に載せて言葉を君に届けた。


「今はまだ無理かもしれないけれど・・・。僕も君の優しさを見習って、君のことを丸ごと優しく包み込んであげられるような、そんな男に・・・いつかなりたい!」

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