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ダイロンの聖少女■個人的番外編

2005年5月31日サイト初掲載作品

「・・・世話になった」

短い言葉の欠片が緩やかに吹き込む風の中に溶ける。
たった一言の言葉に込められた意味の重さ以上に、今自分の目の前に立ち尽くしている人物の眸から放たれる言い尽くせないほどの感謝の気持ちを感じ取ってジョウは大袈裟に頭を振る。

「アンタから畏まって礼を述べられるほどのことを俺達はしちゃいない。事前に取り交わした契約に基づいて仕事を遂行したまでだ。・・・多少予定は狂ったが・・・」

ボソッと苦笑交じりに呟いたジョウの最後の言葉の意味に気付いて少しだけ崩れる表情に翳りは一切見えなかった。

「どんな形であれ、君達は我々が望んだ結末を齎してくれた。それ以上我々は一体何を望むだろう?」
「強いんだな、アンタは。俺がアンタの立場だったらもっと文句を付けていたはずだぜ!?」

皮肉めいた言葉の影に漂うある種の信頼感。
それは一緒に行動を共にした短い時間の中で、ジョウとモロトフが仕事のクライアントと遂行者という立場を超えた深い心の繋がりで築き上げられたものに違いなかった。

「わたし一個人が強い訳ではない。悠久の時を経てダイロンの民がずっと保ち続けているネネトに対する絶大な信頼感が我々の想いを支え続けている。ただそれだけのことだ。・・・立場は違えど、それはきみにも同じことが言えるのではないのかね、ジョウ?」

・・・。

沈黙が続く時間の中で僅かばかり崩れたジョウの些細な表情の変化を見つつ、モロトフがニヤリと笑う。

「・・・ったく!このままネネトの神官にしとくのは勿体無いな、アンタは!返す返すもクラッシャーにはうってつけの人材だ、モロトフ。俺が太鼓判を押してやる」
「フフ。それはまさにこちら側の台詞だ、ジョウ!きみがジョハルタの戦士だとしたら、伝説の勇者としてダイロンの民に未来永劫語り告げられる筈に違いない」

透き通った風が向かい合うふたりの間を駆け抜ける。
風に誘われるようにして解き放つ言葉は嘘偽りない自分の気持ちであると・・・言葉を発しながらモロトフは感じていた。

「最初君達のチームと対面したとき、正直戸惑ったのは事実だ。・・・しかし君達と行動を共にするにつれ、その疑念が薄れて、超特Aクラッシャーに仕事を請け負ってもらっているいう揺ぎ無い確信に変わった。評判という実体の無いモノを君たちが実際に実践で裏付けるという、これ以上ないほどの現実に実際に遭遇して」

モロトフの言葉に一切飾り気は無い。
しかしそれがどんな言葉の羅列よりも遥かに真実を衝いている言葉だとジョウは気付いていた。
誰に褒められるよりも、こうして数々の修羅場を潜り抜けてきた人物から寄せられる言葉の意味の重さほど嬉しいものはない。
ジョウはモロトフの言葉を聞きながら、胸の奥が微かに熱くなっていくのを分かった。

「確かアルフィンはピザンの元王女だとうかがっている。君が彼女を超特Aクラッシャーのチームに恥じないようなクラッシャーとして育て上げたのかね?」

言葉の裏側にある言外の意味はジョウの意識を僅かに揺さぶる。
しかしあくまでも動揺していないフリをジョウは自分に課した。

「いや、俺は別に何にもしちゃいない。・・・彼女自身の努力の結果さ」
「そう言い切ってもいいのかね・・・?」

畳み掛けるようにして問い掛けるモロトフの言葉が何故か自分自身の心にに問い掛けているような気がして・・・ジョウの頬が僅かに染まる。
自覚していない分だけ不意に訪れた心の動揺にジョウは敢えて無視をするフリをした。

「ああ、そう言い切っても構わない」

しかしそれは却って自分自身の気持ちを無意識の内に曝け出す結果となったことにジョウはまだ気付いていなかった。
そんなジョウを静かに見つめながら、モロトフは今まで見せたことがないような優しい顔つきでジョウに話すのだった。

「君がはっきりとそう言い切るのなら、私もそう受け止めておこう。真実を伏せて謙遜するポーズは君に似合わない。だが、そう言い切らねばならない君の本心と事情が、私には少しだけ分かる気がする。・・・わたしが言うまでもなくアルフィンは素敵な女性(ひと)だ。心から大切にされるがよい」


爽やかな一陣の風がふたりの間を駆け抜けていく。

澄み渡る空の眩しさに艶やかな蒼の色が一際強く溶け込んでいった。

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