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別離

2003年10月3日UP作品

「島さん・・・」

先刻まで乗り込んでいたはずのヤマトから降り立ち、今は荒れ果てたテレザートの地表にただ一人立ち尽くすテレサ。
重厚で堂々とした威圧感漂うヤマトは静寂の中で佇んでいた。
数々の歴戦を物語るかのように所々に大きな傷跡を残しながらも地球の誇りを背負いつつ圧倒的な存在感を見せ付ける艦・・・『ヤマト』・・・。
その『ヤマト』の操縦桿を握り、地球人類の夢と希望を『ヤマト』を操縦するその両腕に一心に託されているはずの島大介をテレサは想い続けていた。

迫り来る白色彗星に対してテレザートに留まるという自分を、危険を省みないで迎えに来てくれた島。
地球もそしてヤマトも一番大事なはずなのに、自分の為に「ここに残りたい!」と口走った島のひたむきな気持はテレサの心を激しく深く揺るがせた。

思いもよらない己の力でテレザート星を滅ぼしてしまったあの時から、自分自身を縛り付けていた幾重にも絡み合う張り詰めた自責の念の糸。
日に日に強くなっていくその糸の結び目を解く術を永遠に放棄しようとしていた自分に思いがけず届いた声は、一瞬にしてキツイ結び目を緩めさせてしまうほど温かくて優しい想いを内包していた。

「僕は君を見殺しになんか出来ない!」

他人から見ればほんの些細な一言なのかもしれない。
・・・でもその一言。
・・・たったその一言で極限まで張り詰めていた心が徐々に救われていく自分に気が付いて、テレサの心は失くしていた色を取り戻していった。

自分の存在とヤマトと地球の運命を両天秤にかけて、どちらがより重要なのかを島は知っている筈だった。
否、迷うことなくどちらが大事であるかを分かっている筈の島だから、テレサは彼の姿勢に心惹かれた。
しかし彼はテレザートに留まると言った自分に対して、「ここに残りたい!」とはっきりと意思表示をした。
自分の事を真剣に思うあまり、彼が一番大事である地球とヤマトを一瞬でも心の片隅に追いやって・・・。
ギリギリの選択を迫られている島に、これ以上自分のことで思い悩ませる訳にはいかなかった。


その瞬間にテレサの心は決まった。
島がこんなにまで自分の事を愛してくれているという嬉しさを噛み締めながらも・・・テレサは決意を固めた。
それは二人にとって乗り越えていかねばならない一つの試練だったのかもしれないけれど・・・

島と出逢い、島によって教えられた『愛する』という真摯でひたむきな気持を今度は自分が島に返す番であると感じつつ島と一緒にヤマトに乗り込んだテレサは一人静かにヤマトを下りた。
愛する島への想いを胸に秘めながら。

静かだったヤマトが俄かに動き始める。
ヤマトのエンジン始動と共に動き出す風の流れがテレサの長い髪の毛を緩やかに揺らす。
テレサはテレザートの地表から一心にヤマトの第一艦橋付近を見つめ続ける。
今、このヤマトを始動し始めている一連の操作手順が愛する島の手で行われていると知りながら。

徐々に動き始め、少しずつテレザートから離れていくヤマト。
テレザリアムで抱き合った刹那の抱擁が瞬時に蘇る。
島の胸の温かさが・・・まだ微かにテレサの身体に残っていた。
その温かさが逃げないように思わず両腕で胸を抱きしめるテレサ。
必死に堪えていた切なさが胸に込み上げてきて、堪らずに俯く。

島さん・・・!島さん・・・!!

島はきっと自分の姿を操縦席から見ているに違いない。
こんな哀しい顔をしていたら、島は余計心配してしまうだろう。
俯いていた顔を上げ、ヤマトを見送るテレサの胸に湧き上がる気持。
凛とした瞳で見上げる視線の先にはヤマトが・・・そして愛する島の姿がいつまでもいつまでも自分だけを見つめ続けていた。

「さようならヤマト・・・。さようなら・・・島さん!」

島の名を口にした瞬間に零れ落ちた一筋の涙。
涙の中に込められた清らかな想いはこれから先の自分の行く末を示す一筋の途に変わりつつあった。

ヤマトから宇宙空間に向け発射される礼砲の煌き。
暗い空間を切り裂くようにして放たれる礼砲は自分に向け送られる島からの無言のメッセージのように力強い勢いで轟いた。

『テレサ・・・必ず帰って来る・・・必ず!』

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