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林檎の気持ち

2004年10月19日サイト初掲載作品

「入ってもいいか?」

ノックの後に遠慮がちに届いた声を聞いた途端、僅かに高揚してくる気持。
きっとそれは恋してる者にしか分からない甘酸っぱくて仄かな恋心。

「・・・入ってもいいわよ」

ベッドに横たえていた身体をそっと起こして、急いで髪の毛を撫で付ける。
緩んでいたパジャマの襟元のボタンを掛け直すと同時に恐る恐る顔を出した彼。

「・・・もう起きても大丈夫なのか?」

ゆっくりとした歩調でベッドサイドに歩み寄ったジョウはそのまま腰を落とすと、私の目線にあわせるように視線を据えた。

「平気よ!たまたま熱がちょっと出ただけなんだから!こんなのどうってことないわ。今からでも任務に復帰できるわよ」
「駄目だ。処方された薬をちゃんと飲み終わるまで任務に就くことは俺が許さない」

私の訴えを一蹴するかのように冷たいジョウの声に神経がざわざわと波立っていく。

「どぉしてよぉ〜〜〜!実際、ジョウも見ていてわかるでしょ!?私が元気だってこと!」

思いっきりふくれっ面をして不服を申し出るけど、ジョウはそんな訴えに耳を傾けるほど柔ではなくて。

「アルフィンの訴えは却下。チームリーダー命令で今日一日ゆっくり休養すること!」
「ちょっと待って!それって横暴だと思うわ!チームリーダーの命令に対して異議を唱える権利があるはずよ!」

必死になって反論する私にジョウはしゃあしゃあと言ってのけた。

「残念だな。緊急時や仲間が負傷したり病気になった時はそれは適用されないんだ。無駄骨だったな」
「嘘よ!そんなの納得できないわ!」

ジョウのクラッシュジャケット目掛けて両の拳をぶつけようとするけど、彼はあっさりと私の攻撃を身を躱しながら後方に飛び退った。

「まだまだ修行が足りませんね、クラッシャーアルフィンさん!」

無防備な笑顔で私に語り掛ける彼に激しく心惹かれながらも、沸々と込み上げてくる怒りの前ではそれすらも抑止力にはならず。
そんな私を見ながらジョウは後ろ手に隠し持っていたモノを静かに差し出した。

「・・・これ置いてくぞ」

目の前に差し出されたモノを見て、意識が一瞬止まる。
何やら得体が知れないモノがお皿の上に5〜6個並んでいるのを見た途端、頭の中を片っ端から埋め尽くす疑問符。

「・・・ジョウ・・・一体これなあに?」

思わず口から零れた言葉に一瞬だけジョウの顔が引き攣ったのを私は見逃さなかった。

「・・・林檎だ。見て分からないか?」

私はジョウの言葉に絶句した。
林檎とは形容しがたい、まるでジャガイモの皮をむいて乱切りにしたような形状のモノに、しばし意識が弾け飛ぶ。

「・・・林檎なら林檎らしく切ってくれなくちゃ。・・・私、林檎だって分からなかったわ」

私の言葉を聞いていたジョウの顔から一瞬血の気が引いた後、怒りを伴った表情に成り代わっていく。

「悪かったな!林檎に見えなくて!・・・邪魔したな!」

いきなり私に背を向けてズカズカと足音荒く部屋を出て行こうとするジョウのいきなりの態度急変に驚くというよりも、反発していく心を止められなくて。

「何よ!そんなに大声出していきなり怒らなくてもいいじゃない!」

私の反論を背中で撥ね付けたジョウは部屋のドアをこれでもかという位にバタンと閉めると、私の視界から消えた。

「もう!ジョウの馬鹿ぁぁぁ〜〜〜!!!」

部屋の中に虚しい響きがこだました。

*****

「・・・アルフィン。入ってもいいかい?」

ジョウが部屋を出て行ってからジャスト1時間後。
リッキーの声が部屋の外から聞こえてきた。
まだ収まりきらない怒りのまま林檎に手をつけずにいた私は不機嫌そうな声で答えた。

「・・・どうぞ」

そ〜っとドアが開いて、リッキーが恐々顔を出す。

「・・・何かご用?」

ムッとした顔で対応する私にリッキーが用件を切り出す。

「兄貴がさぁ・・・アルフィンの部屋からお皿を持って来いって言うもんだから。・・・あれっ!?アルフィン、まだ林檎食べてなかったのかい?」
「・・・食べようと食べまいと私の勝手でしょ?!」
「・・・おいらさぁ、アルフィンがてっきり嬉し涙流して林檎食べていると思ったんだけどなぁ〜。おいらの見当違いだったのか」
「ちょ・・・ちょっと待ってよ!どうして私が嬉し涙を流して林檎を食べなくちゃいけないの?」
「えっ?兄貴から聞かなかったのかい?・・・この林檎さぁ、兄貴がアルフィンの為にって生まれて初めてナイフで切った林檎だったんだぜ?」
「・・・う・・・そ・・・!」

ガラガラと崩壊していく意識の向こう側でジョウの照れ笑いが思い浮かぶ。

「兄貴さ、ずっと今までクラッシャー生活一筋だっただろ?兄貴に早くクラッシャーとして一人前になって欲しいから、家事全般はガンビーノが一切面倒を見て兄貴には絶対に料理をさせなかったらしいんだ。ああ見えて兄貴ってさ、日常生活に関しては結構不器用だからこの林檎を切るのも相当梃子摺ったらしいよ」

リッキーの言葉を聞きながら溢れ出る思いを止められない私がいた。
手許にあるお皿の上に並んでいる林檎のひとつひとつに、私に対するジョウの気持が込められているような気がして。
そう思った瞬間、ベッドから飛び起きたまま部屋を飛び出した。

・・・ジョウ・・・ジョウ!・・・ジョウ!!

裸足のまま駆け込んだミネルバの副操縦席には少し仏頂面をしたジョウが真正面に広がる宇宙を見据えたまま腕組みをしていた。
その姿を見た途端、堪えていた想いが迸っていった。

「・・・ジョウッッ!!!」
「・・・う、うわっ!!!突然何だ!?」

ジョウの背中にしがみついたまま顔をそっと押し当てる。

「い・・・いきなりどうしたっていうんだ?!」

突然の私の行動に焦りまくって慌てふためいているジョウの声が上擦る。

「ゴメン・・・。ゴメンネ、ジョウ・・・!」
「???俺、アルフィンに謝られるようなことをした覚えがないんだが;;;」

いきなり背後から抱き着かれた恥ずかしさで慌てて私を引き剥がそうとするジョウに向かって絞り出した言葉は泪色に滲んでいた。

「ジョウが私の為に切ってくれた林檎の味・・・一生忘れないからね」

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