10何年振りでしょうか、お話を書くのは。
ジョウとアルフィンの〇〇の馴れ初めを、私なりに考えてみました
この作品は日を追って少しずつ書き足していくスタイルとなります。
よろしかったらどうぞ。
その時、ジョウの眠気は頂点に達しつつあった。
無茶ぶりばかりを要求するクライアントの護衛に就くこと一週間。
契約開始前にさんざん断りを入れたのにも関わらず、法外な報酬を事あるごとにちらつかせ、有無を言わさず強引に契約を捻じ込んだ男の顔を、一刻も早く消し去ろうとする執念のみで邁進した仕事に抜かりはなかったのはさすがというべきか。
いや、それ以上に猛烈に契約に拒絶の意思を示したはずなのに、頑としてその要求を撥ねつけたアラミス本部への恨みつらみがやけくそになって見事に仕事を完遂したという、よく言えば気高い反骨精神だけがジョウ達の心の支えだった。
不満、憤慨、鬱憤……ありとあらゆる負の感情を網羅しても追いつけない境地をさんざん味わってようやく解放されたその瞬間、ジョウ達は一目散に現場から飛び立っていった。
「俺はこれから寝るぞ!緊急時以外は絶対に起こすなよ」
反論の余地も許さないほど一方的にそう宣言して、ジョウはミネルバのコックピットを後にした。
契約終了の最終日、他の皆を一日早く先に休ませ、自分だけで面倒極まりない後始末を残さず片付けたツケがここにきて廻った。
疲労困憊には慣れっこだったが、それに心的ダメージが予想外に拍車をかけジョウの意識と体をとことん苛む。
契約を完了した達成感と引き換えに自らの内に招き入れたものは、想像以上にジョウの感覚を鈍らせ麻痺させていく。
…限界だな
意識を留めておくことを放棄した身体が少しずつ弛緩していく。
ゆるゆると意識を手放しながら、寝間着に着替える余裕すら捨て去って、ジョウはベッドに突っ伏した。
眠りへの誘いが間口を開けて待っているのを意識の端で微かに捉えながら、あと一息で完全に眠りに落ち込むその瞬間だった。
「ジョウっ、見てっ!すっごいもの見つけちゃった!」
ドアを開けるより先に飛び込んだ声が眠りに落ちそうだったジョウの意識に刺さる。
いつもよりも数倍明るくイキイキとした声音に気付きはしながらも、ジョウは眠りへの階段を上ることを無意識に選んだ。
「………」
自分の声に一切反応しないジョウを見て、アルフィンはめげずにまたしても声をかける。
「ねぇ、ジョウ!本当にすごいもの見つけちゃったんだからぁ」
今まさに眠りにつかんとしている自分の隣に立って、きっと極上の笑顔で語り掛けている彼女の姿を朧気に想像しながらも、眠りには抗えないジョウだった。
「………」
「ジョウったらぁ。聞いてる?」
僅かに声のニュアンスが変わり、ちょっと不服そうなアルフィンの声に棘が滲む。
その彼女の微妙な気持ちの揺れを捉えつつも、ジョウは眠りを最優先した。
経験上、こういう時は何らかのアクションを起こした方が実害が少なくて済むし、後々面倒な事を回避出来るはずとは分かっていても、今の自分に解決策を求めるのは酷だと思えた。
何より眠気が勝って正常の判断が覚束ない状態だと、身体の奥底からシグナルが放たれる。
「………」
「ねぇジョウっ!ちょっとだけいいからお願い!見てほしいの」
言いながら両手を伸ばして、眠気で重くなった身体を二、三度軽く揺らすアルフィンに向け、ようやくジョウはしぶしぶ言葉を漏らす。
眠気と半分戦いながら。
「……緊急時以外は起こすなって、言ったはずだが」
ベッドに突っ伏した状態のままで紡ぎだす言葉にちらりと混じるさり気ない牽制。
アルフィンの機嫌を損なわない程度に最大限の配慮を示した言い回しが宙に浮かぶ。
「ごめんなさい、ジョウがとっても眠いの分かってる。…でもね、どうしてもこれをジョウに見て欲しかっただけなの」
いつもなら自分の言いざまに売り言葉に買い言葉で返すアルフィンの勢いがどことなく薄れているのに意識が止まる。
なんとなくしおらしい彼女の言葉の抑揚が気になって仕方なくなっていくのを、ジョウは次第に止められずにいた。
眠気の最高潮で止まった意識がずるずると引き戻されていく感覚にジョウは戸惑いを覚えた。
「…どうしても今じゃなくちゃダメか?」
半分眠気で意識が遠のいた状態でも、無意識に投げ掛ける言葉にはオブラートに包まれたジョウの心が宿っていた。
「出来れば今がいいの……」
徐々に小さくなっていくアルフィンの声が耳に滑り込む。
突っ伏した姿勢なのでアルフィンの姿は見えないが、何となく彼女が少し俯きながらいつもの彼女らしくないと訥々とした口調で話しかけている姿がジョウの脳裏を覆う。
しばらくしてジョウは観念した。
ガシガシと髪を搔きむしりフーッと長くため息を零すと、ジョウはようやく半身を起こした。
「いったい何を見せたいんだ?俺に…」
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