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泪の行方

CJ最新超短編SSです。

映画版CJのクライマックスのあの場面です。
マチュアさんについての話をかいておりますが、
彼女に傾倒しているのではなく、あの時彼女がどんな想いでジョウに頼みごとをしたのかを
自分なりに解釈して綴ってみました。

注)CJに登場する女性キャラクターはほぼ同じ程度で好きなので、特に誰がお気に入りとかはありません。
 以前マチュアに関して、メールでお話したい旨のご連絡をいただいたことがありますが
 申し訳ありませんが、そういったお申し出はお受けできません。御了承願います。

「・・・・・・ジョウ・・・・・・」

その名を呼んだ瞬間、張り詰めたままの緊張の糸が、一時緩んだような感覚が私を包み込んだ。

何故だろう?

息をするのも、もう限界だと感じ始めていた身体が
こちらへと一直線に走り寄ってくるジョウの姿を認めた時から、
ほんの少しだけ軽くなった気がした。

零れ落ちる吐息に込められた安堵が、今すぐにでも崩れ落ちそうな意識を、かろうじて支えていた。


・・・・・きっとこれが、最初で最後の貴方へのお願い。

最初で・・・・・・最後の・・・・・・。


「マチュア・・・!」


狼狽した表情を浮かべたまま、貴方は私に近づいてくる。


ジョウ、そんな怯えたような顔をしないで。
そんな顔をされてしまったら、最後の頼みごとをお願いしづらくなってしまう。


「大丈夫・・・・・・ジョウ・・・・・・手伝って」


声というよりも、漏れ出す息にしか聞こえないほどの言葉を、貴方に届ける。
うっすらと霞み始めていく意識の片隅で、貴方が微かに頷いたのを視界の端で捉えた。


もうこれ以上、声に力が込められそうもない。
脇腹の痛みを感じにくくなっているのを悟って、痛みを凌駕していく意識の薄れが
私をじりじりと追い詰めていく。


お願い!
どうか最後のお願いだけ聞き届けて、ジョウ!


「あ、あれを・・・・・・ジョウ・・・・・」

「あれ?」

私の言葉に反応するジョウの声が、生と死の狭間で停滞したままの意識にそっと寄り添う。


「そう・・・・・・あのレバー・・・・・・。あれを・・・・・・お願い・・・・・・
引っ張って・・・・・・下へ・・・・・・」


意識を経由せずに、本能から解き放たれる言葉の断片。
言葉の欠片を繋ぎ合わせようとしても、襲い来る痛みの激しさに唇に載せるだけが精一杯で。

「わかった」

爪先立ちになっている私に負担を掛けぬよう、気遣っているようなジョウの声が優しく響く。

「これだな?」

ジョウの指がレバーに届いたのを見届けた瞬間、身体の奥に僅かに残っていた力が
全身から一気に解き放たれていった。

「そう・・・・・・急いで・・・・・!」

ジョウの力強い腕が、私の視線越しに動きレバーを思い切り引き下げる。
赤いランプが灯ったのと同時に凄まじいスパークが炸裂して、装置が大きな悲鳴を上げ続ける。

 

時間の観念を失ったまま、ジョウの腕に凭れ掛かって見上げた虚空の果てで、
見覚えのある顔が私を見つめながら微笑んでいるような気がした。


・・・・・・お父様、これで良かったのですね・・・・・?


長くて短い時間の流れが、緩やかに堰き止められていく。
ジョウの腕に凭れ掛かったまま、少しずつ眠りに落ちていく感覚が私を誘う。

成し遂げた使命と引き換えに手に入れた安らぎの地へ、私は今、旅立つときを迎えているのね。


「停まった。・・・・・・装置が停まったよ、マチュア」


ジョウの言葉は、私の使命が達成した瞬間を告げる。


「ええ・・・・・。ありがとう、ジョウ・・・・・・」


*****


薄紫の眸から零れ落ちた温かな雫が、
ジョウの胸の奥深くに染み込んで行った事実を、マチュアは知らない。

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