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ジグソーパズル

2004年9月29日 サイト初掲載作品
(カテゴリーでは他メンバーメインの区分けとなっておりますが、登場人物は4さんと9くんです)

「・・・意外だな。お前がそんなものに興味があったとは」

ぶっきらぼうに言い放つ声と共に、無造作に目の前に差し出されたコーヒーカップ。
金属と瀬戸物が微妙に擦れあう音と淹れ立てのコーヒーの香ばしい匂いが、行き詰っていた思考に待ったをかけた。

「その言い方って、頭を使う趣味は僕には似合わないっていうニュアンスで聞こえるんだけど・・・違う!?」

苦笑いを浮かべながら抗議する僕に対して、声の主は機械の右手を剥き出しのままで、手の中のコーヒーカップに口をつけた。

「ふふ。・・・お前の好きなように解釈すればいいさ。俺はただ見たままの感想を述べたまで」

口の端に小さく笑みを浮かべつつ、彼が二口目のコーヒーを啜る音がリビングに鈍く響く。
部屋に充満してきたコーヒーの香りに癒された訳でもないが、僕も彼と同じ様に手の中のコーヒーカップに口をつけた。
その瞬間に身体の中に染み入ってくるような苦味と微かな甘さが、停滞していた意識を一気に活性化し始めた。
堰き止められていた川の流れが一瞬にして決壊を押し流してしまうかのように、滞っていた解決への
糸口が、堰を切ったように物凄い勢いで溢れ出しては感情を埋め尽くす。

「そうか!そうすれば良かったんだっ!」

問題解決の糸口をようやく見つけ出した嬉しさに、心が追いつけない。
持っていたコーヒーカップを無意識のうちにテーブルに置いた僕は、微かに震える手でピースを掴み取った。
そっと静かに目標の場所に填め込んだ途端に、残りのピースたちが自分の本来あるべき位置を僕に指し示してくれるかのように、ざわめき立つ。
無我夢中で填め込んだ残りのピースに彩られるようにして、ようやく・・・ようやく完成したジグソーパズルを目の前にしたまま・・・長くて深い溜息を一つだけゆっくりと零した。

「・・・で・・・出来た・・・!」

一言では言い表せないような感慨が、僕の身体を包み込む。
今まさに歓喜の雄たけびを上げようとした瞬間に、低く冷めた声が僕の耳を直撃した。

「・・・いつ崩れるとも分からないこのパズルを完成させて・・・お前はそれで満足か!?」
「・・・っ!」

いつの間にか僕の背後に移動していた彼が、不躾な言葉を僕に浴びせる。
知らず知らずのうちに握り締めていた拳に次第に込められていく力。
弛緩していた意識が徐々に硬化していくのを・・・僕は身体から噴出す汗と共に実感していた。

「世の中には絶対というものは無いんだ。このパズルのように一見カタチには収まっていても何かの圧力で一気に崩れ去ったり、ピースが無くなってしまって孔が開くことだってあり得る。俺達もこのパズルと同じ様な脆さを内包しているのかもしれない。その危険性は認識しておくべきだ。盲目的に人を信じ込むのはお前の命取りになる。命を失ってからでは遅いんだ、ジョー!」

彼が何を言わんとしているか・・・僕には分かるような気がした。
僕から恨まれることを百も承知で敢えて悪役に徹する彼の気持が僕には・・・分かるから・・・。

失ってからでは遅いという、彼の辛い経験に裏打ちされた真実の言葉は僕の心に深く鋭く食い込んだ。

・・・だけど・・・だけど・・・

僕がこうして、躓きながらも今まで生きてこれた支えになっているのは・・・
どんなに裏切られても人を信じようとした、そして信じてこれたという・・・
ただその気持だけだってことを・・・
誰よりも分かっているのは・・・他でもない僕自身だから・・・

僕から信じる気持を失ってしまったら・・・何も残らないと分かっているのは僕自身だから・・・

だから・・・だから僕は・・・!

「ねぇ、ハインリヒ」

背後にいる彼に向かって呟きだした言葉は、僅かな痛みと暖かい真心に包まれて僕の胸から飛び出していった。

「・・・確かに僕たちはこのパズルのコマのように脆くてちっちゃい存在なのかもしれない。だけど・・・開いてしまった孔を塞げるのは・・・たった一枚のピースしかないんだよ。他のどんなピースでも成り代わることの出来ない、当て嵌めることの出来ない・・・この世でたった一枚だけしかないピースなんだよ。だから・・・どんなに裏切られても騙されても・・・僕はきっと信じることをやめないと思う。信じることって弱くて脆いものなのかもしれないけれど・・・みんながお互いを心から信じあってこの状態を維持し続けようっていう強い意志がある限り・・・パズルって壊れないものだと思う。僕はそう信じたい・・・いや、そう信じてる!」

言い終えた後で一気に身体から力が抜けていくのが分かった。
・・・緩やかな時間に終止符を打ったのは彼が小さく漏らした笑い声だった。

「・・・馬鹿だよ、お前は。・・・でもそんなお前を信じたい、支えたいって願わずにはおれない俺や他の仲間は・・・お前よりも・・・もっと馬鹿なんだろうな」
「ハインリヒ!」

振り向いた僕の目に入ってきたのは、スタスタとリビングから立ち去るハインリヒの後姿だった。
その後姿には・・・いつもの彼からは想像できないような穏やかな気持が漂っているような気がした。
彼の後姿を見送りながら・・・また新たな気持で今を生きようと願う想いが、心の中に溢れ始める僕だった。

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