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久々のジョウとアルフィンのお話です。
よろしかったらどうぞ。

「・・・辛いか?」

四方八方から矢継ぎ早に降り注ぐ銃弾の雨を掻い潜り、ようやく辿り着いた崩れ掛けのシェルター。
身体を薙ぎ倒す勢いの風圧に必死に耐えても、爆風の余波で襲い掛かる熱波の衝撃にアルフィンの意識が遠く霞み始める。
鼻を突くオイルの刺激臭が周辺に充満し、息を吸い込む度に喉の粘膜が剥がれ落ちるような痛みが、皮肉にも彼女の意識を繋ぎとめていた。
激しく咳き込む度に肺の奥がジリジリと痛むのを感じながら、泪がボタボタと零れ落ち、膝を濡らす。
アルフィンの前方で中腰の体勢をとりながら、周囲の戦況を窺うジョウの神経は一瞬たりとも緩むことはなかった。
一瞬の気の緩みが、生死を分かつ状況の判断を左右する怖さを身をもって知っているが故に、冷静な感情は時として冷酷な一面ととられても仕方ないとジョウは割り切っていた。
・・・そう、アルフィンが仲間に加わるまでは。

激しく咳き込み続けるアルフィンを気にかけながらも、目の前で展開する戦況から一時も眼を離す訳にはいかず、ジョウは背中越しにアルフィンに言葉を漏らした。
ひっきりなしに続く銃撃の音に紛れて、その声は掻き消されるほどの小さな響きでアルフィンの耳元に届いた。

「・・・大丈夫よ。心配しないで」

掠れた声が喉の奥から絞り出される。
声を吐き出す度にアルフィンの口腔を、刺々しい痛みが襲い掛かる。
しかし彼女自身が持ち合わせている、凛とした気品溢れる意識の塊が、吐き出された声の中にしっかりと息づいているのを、ジョウは無意識に感じ取っていた。
アルフィンの声が耳朶を掠めた瞬間、その声に同調するかのように無反動ライフルを持つジョウの指先に僅かに力が篭る。

「クラッシャーを辞めたかったら、いつ辞めてもらってもこっちは一向に構わないんだぜ」

一か八かで、ジョウはアルフィンの反発心を擽って彼女の自尊心を引き上げる作戦に打って出た。
これ以上戦況を引き延ばしては状況的に不味いと、咄嗟に判断を下したジョウの意識は言葉を選ぶ余裕すら出来ずに、アルフィンの本能に直に訴えかける。
おそらくこれが、士気が低下しているはずのアルフィンを救い上げる、最強にして最大に効率がいい方法だと、ジョウの根拠のない、無自覚の自信が胸を過ぎる。

ジャリッと瓦礫を踏みしめる音が、ジョウの足元から漏れる。
中腰だった姿勢から一段低く腰を落として、跪くジョウのつま先が限界まで反り返る。
既に臨戦態勢に入ったジョウの視界は、相手の出方をギリギリまで窺っていた。

ジョウの背後から、その姿勢の変化を見届けたアルフィンは、ジョウが相手の不意を突いて一気に強行突破するつもりなのだと理解した。
そしてそのタイミングが、自分の発言に委ねられていることも。


・・・やるつもりなのね。


アルフィンの意識が本気モードにシフトスイッチする。

「冗談でしょ!?私がそんな柔な女だと思ったら大間違いなんだからっ」

反論するアルフィンの言葉が、強行突破のきっかけとなった。
反撃のタイミングを窺っていたジョウは、アルフィンの言葉と共に戦火の中へと身を投じた。

「上等だ!ついてこいっ!!」

ジョウの叫びと共に、駆け出した二人の歩調は乱れることなく、どこまでも続いていく。

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