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目の前の現実と君の嘘 ~字書きの為の50音のお題~

2005年9月13日 サイト初掲載

「・・・何か持っていくものがあれば僕がお持ちします、テレサ」

向かい合って見詰め合う眸の奥から放たれる想いに・・・心が打たれる。
自分が為さなければならない使命を一瞬でも心の隅に追いやり、自分のことを差し置いて貴方の負担になりかねない私のことを、
第一に考えてくれる優しさは・・・ますます深さを増していく。

「もう二度とここには戻って来れないかもしれません。・・・貴女にとって哀しい決断を迫ってしまった僕が・・・
何か出来ることがあるとすれば遠慮なく何でも言って欲しいんです、テレサ」

真剣な眼差しは私の眸を捉えたまま微動だにしない。
心からの慈しみに溢れた抱擁と同様に、貴方の眼差しから注がれる直向な想いに心がゆっくりと包み込まれていく。

「僕と一緒にヤマトに来て下さると貴女が決意してくれたこと・・・嬉しい気持ちで一杯です。
だけどその一方で・・・僕のワガママで貴女を相当苦しませてしまったことに、僕は自分自身を赦せないのです。
自惚れかもしれませんが、もしもっと時間があれば・・・或いは貴女がこんなにも苦しまずに済んだのかも
しれないと。もっと他の選択肢が見つかったかもしれないはずだと・・・。だから、だから僕はせめて
貴女には僕に何か出来ることがあれば何なりと言い付けて欲しいんです。貴女の側から見たら、僕が今貴女に
向かって話していることは全て、都合いい責任逃れの言葉にしか聴こえないでしょう。だけど貴女の想いに
対して、自分が出来得る限りの精一杯の誠意で応えたい・・・これが今の僕の本当の気持ちなんです」

次第に熱を帯びていく口調に滲む貴方の一途な想いに、心が震えだす。
私に向けて話す貴方の言葉の欠片ひとつひとつが、虹色の煌きを宿した透明な滴となって胸の奥深くに滴り落ちていく。


一滴零れ落ちる度に・・・二つの想いは重なり合って

一滴零れ落ちる度に・・・無垢なままの魂がお互いを求め合い

一滴零れ落ちる度に・・・更に深まりゆく心の絆


直立不動のまま立ち尽くす貴方に半歩歩み寄ると、私は言葉を紡いだ。

「ありがとう、島さん。貴方がそれほどまでに私を思って下さること、本当に・・・本当に嬉しく思います。
どうか御願いですから、これ以上私の事で御自分を責めないでください。・・・私は自分の意思で貴方と一緒に
ヤマトに向かうと決めたのです」
「テレサ・・・」

私の言葉を聞いていた貴方の顔が僅かに歪む。
歪んだ表情の奥で私を見つめる貴方の眸には『・・・テレサ、本当にそれでいいのですか?』という無言の想いが
溢れていた。
私は貴方に向けて小さく頷き返すと、胸元で組んでいた指先に神経を集中し始めた。
眩い光が次第に大きくなって指先を丸く包み込んだ瞬間、それは現れた。
蒼緑色の宝石に彩られた指輪が一際明るい光を放ちながら、掌の中に静かに落ちていく。

「此処を離れるときに私が持っていくものは、これ一つだけです。・・・この指輪は代々私の先祖から
引き継がれてきた大切な・・・大切な御守なのです。これ以外、私が持っていく物はありません」

俯いたままだった顔を上げた瞬間、私を見下ろしていた貴方の視線とぶつかった。
まさかこんなに近くまで貴方が顔を接近させているとは予想していなかったから、思わず顔が火照っていくのを
止められない。いえ、それよりももっと私を驚かせたのはあまりにも・・・あまりにも優し過ぎる貴方の
微笑みとそれに続く思い掛けない言葉だった。

「テレサ。・・・もし良かったら、この大切な指輪を少しの時間だけ僕に預けてくれませんか?」

突然の問い掛けに動揺しながらも、私は無意識のうちに貴方の前に両手を差し出していた。

「・・・どうぞ・・・」

私の答えを聞き終えると同時に丁寧な手付きで手袋を外した貴方は私の掌からそっと指輪を掬い取った。

「ありがとう、テレサ。少しの時間お借りします」

言いながら貴方は立ち竦んでいる私の腰にそっと手を廻し、近くにある椅子まで促すと私をそっと椅子に座らせ、
自分は私の足元に片膝をつきながらゆっくりと腰を下ろした。
丁度椅子に座った私が貴方を見下ろすような格好のまま、貴方は私をそっと見上げつつ訴えた。

「・・・テレサ、左手を出していただけますか?」

今から何をするのだろうという疑問を拭えないまま、私は貴方の言うがままに左手をぎこちなく差し出す。
差し出した手が温かい貴方の手に包まれたと感じた瞬間、左の指先から伝わった感覚に私は言葉を失った。

「僕は生涯貴方だけをずっと・・・ずっと守り続けると誓います。・・・この指輪にかけて!」

決意を込めた眸が私の心を射抜く。
それは上辺だけの言葉ではないと実証しているように貴方は私をじっと見つめ返し、重ね合わせたお互いの手を
しっかりと力強く握り締めた。
慈しみに溢れた仕草で私の左指に指輪を填めてくれた貴方の顔が溢れ出す涙で次第にぼやけていく。
想いも寄らなかった貴方の行動が私の心を嬉しさで被いつくす反面、これからの展開を予期して
胸が潰れそうに痛んでいくのを止められない。
そんな私の胸の内を知らぬまま、貴方は片膝をついていた姿勢から腰を上げかけると私の額にそっと唇を触れさせた。

「・・・行きましょう、テレサ。ヤマトが貴方を待っています」


狂い出し始めた運命の歯車。
ギシギシと呻く音に潜む、避けきれない運命(さだめ)がじりじりと忍び寄る。

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