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優しさの裏側 ~字書きの為の50音のお題~

2004年11月2日 サイト初掲載

「・・・ところで、島君・・・」

和やかに談笑していた会話の最中、雪が零した言葉を聞いた途端に場の雰囲気が少しずつ張り詰めてくるのを感じた。
雪がこういう微妙な言い回しをするときは、大概何か言い難いことをぶつけてくる場合に限っているので
、呑み掛けのホット珈琲をテーブルの上にゆっくりと置くと姿勢を正して雪の方に向き直った。

「・・・今から話すことが本題なんだろ?今までのは前フリってことで・・・。前もって言っておくけど
内容は簡潔に御願いするよ。見かけによらず、ダメージを受けやすい方なんで」

俺の言葉に雪が苦笑しながら零す。僅かに歪められた口元を彩るルージュの華やかな紅が目に焼きつく。
きっとこの後、古代と待ち合わせてデートをする予定なんだろう。

「島君ったら、相変らずなのね!私が何か言う前にそんなに用意周到に釘を刺されちゃ、言いたいことの
半分も言えなくなるじゃない。でも、結局お構い無しに言いたいことは全部言っちゃうんだけど」
「俺に対してはそれでもいいが・・・古代にはあまりアケスケに言わないほうがいいぞ。
あいつは俺よりもさらにダメージを受けやすい方だから。ま、そこがアイツのいい所でもあり悪いところ
でもあるんだが。・・・雪はそういう古代の純粋な所に惚れたと思うから、却って心配するだけ時間の無駄か」
「ご心配ありがとう、島君!その辺は心得ているから大丈夫よ。そ・れ・よ・り・もっっ!!!古代君と私の話よりも
肝心な貴方のお話をしなくちゃいけないでしょ?!」
「・・・やっぱり・・・逃げ切れなかったか・・・」
「当然です!女を甘く見ていちゃいけませんっ!」

しばし見詰め合った後、どちらからともなくプッと吹き出したのを契機に笑い声が漏れ始める。
晩秋の陽射しが注ぎ込む防衛軍指令本部の屋上で、偶然に再会を果たした者同士の屈託のない笑い声が
時間の中に溶け込んだ。

*****

「・・・もう一緒に暮らしているの?」

ひとしきり笑いあった後、雪が語りかけて来た言葉の欠片が心に忍び込んできて、僅かなざわめきを体中に
起こし始める。

一緒に暮らしている人物の名を誰とは指し示すことなどしないで、半ば断定的にズバッと切り込んでくるあたり
女は侮れない。いや、寧ろ怖いと言ったほうが的確か。
それでも心の中に僅かに残っていた反発心が口をついて出て行く。
それはある意味、男としてのちっぽけで些細なプライドの断片かもしれなかった。

「俺が誰と暮らしているのか・・・言わなくても分かるのか?」
「島君、女を見縊ってもらっては困るわ。それにずっと昔から一緒に苦しいときも辛いことも共に仲間として
過ごしてきた時間は、私達の心の絆を繋ぎとめはしても裏切ったりはしないと思うけど?
そう思ってるのは私だけなのかしら?!」

悪戯っぽく笑いかける雪の眸に邪険のない少女のような無垢なあどけなさが宿る。
もし天使の心と悪魔の心が混在する人間が存在するとしたら・・・きっと今、現実に目の前にいる雪のことを
さすのだろうと無意識に納得してしまう俺がいた。

「・・・脱帽するよ、生活班班長殿。伊達にヤマトに乗り込んでいる訳じゃないよな」
「それを言うなら・・・貴方も、でしょ?島航海長さん!」
「・・・君相手に誤魔化そうとした俺が馬鹿だった。端っから敵いっこないのにな」
「ふふふ。島君も古代君と同じで昔から素直じゃないわよね!・・・でも男の人って、そういう風に無駄に
突っ張っちゃうところが可笑しくて可愛いけど」

俺たちの間を緩やかな時間と共に穏やかな風が吹き抜けていく。

「テレサと一緒に暮らし始めて・・・もう3ヶ月くらいになる」

不意に真顔に戻ってポツポツと漏らし始めた俺に、雪の静かな言葉が続く。

「そう。もうそんなに・・・経つの。・・・色々・・・あったのね」
「・・・あるといえばある・・・ないといえばない・・・」
「・・・島君らしい言い方ね。・・・ね、ひとつだけ聞いてもいいかしら?」

答える代わりに一回だけ微かに頷く。それを見ていた雪はゆっくりと吐息を時間の狭間に零すと
俺の目を見据えて言葉を紡いだ。

「・・・幸せ?」

その一言に込められた意味の重さに気がついて瞬時に胸が苦しくなるのが分かった。
見てみないフリをしていたわけじゃない。無視し続けてきたわけじゃない。
・・・だけど、こうして雪に突きつけられた言葉の重さは想像以上に俺自身の存在を
揺るがせてしまうような・・・そんな気がして。
その場凌ぎな言葉を吐けば、たちまちテレサを汚してしまうようなそんな想いが俺を苛める。
テレサと幸せに暮らしたい。そう願う自分の気持ちに嘘偽りはないと信じている。
信じてはいるが・・・それが果たしてテレサを幸せにしているのかどうか・・・それは分からない。
ただ単に自分のワガママだけでテレサを自分の人生に強引に引き摺り込んでしまっているという
恐れは常に心に付き纏っていた。

彼女は何も言わない。
・・・心の何処かに引っ掛かりを覚えながらも、彼女が俺に対して何も言わないことは即ち
自分の行いを少なくとも肯定してくれていると思っている自分の脆さは誰よりも一番俺が分かっていた。
・・・分かっていたつもりだったが・・・
今、現実にその言葉を受け止めて俺の今までの行いが、本当は自己満足以外の何物でもなく
彼女の意思を無視しているのでは?という疑念が後から後から湧き上がって来て。

いきなり目の前に立ち塞がった大きな壁に動揺して、ウロウロと彷徨うだけだった心に何処からか運ばれてきた
言葉の雫が舞い降りた。

『私は・・・いつも島さんを信じています・・・!』

その言葉と同時に脳裏に蘇った彼女の優しく温かい微笑が動けないままでいる心をそっと包み込む。

「・・・テレサ・・・」

彼女の名を呟いた途端に、体中に蔓延っていた緊張と不安の目に見えない戒めが
徐々に解かれていくのが分かった。

「・・・『幸せ』を感じる定義は人それぞれだと思う。俺は今、幸せを感じているけれど
テレサは或いはそうではないのかもしれない。彼女を俺のワガママに付き合わせているだけなのかもしれないし」
「・・・島君」
「俺とテレサは一気に恋に落ちてしまった。人それぞれの恋の歩みがあると思うけれど・・・俺とテレサは
そういうものを一息に飛び越えてしまったんだと思う。『あの時は時間が無かったから』っていう事を俺は言い訳に
したくないんだ。・・・だから最初からやり直したいんだ、テレサとの恋の歩みを一から・・・」
「・・・島君・・・一からやり直すって言っても、貴方はそれでいいとしても・・・テレサは、彼女は納得してくれるの?
もしかしたら貴方の元から去ってしまう可能性だって有り得るでしょ?それでもいいの?!島君は」

雪の懸命な叫びが凍りついた場の雰囲気を切り裂いていく。

「雪。俺とテレサは・・・あの時一度、何もかも失くしてしまったと思うんだ。確かに彼女を想う気持ちは
あの時も今でもずっと変わらずにいるけれど、切迫した状況がそれを赦してくれなかった。・・・もし俺とテレサの
二人が普通の出逢い方をしたならば或いは恋に落ちなかったのかもしれない。お互いを心の底から愛し合うことなど
無かったかもしれない。俺は状況に左右された結果、彼女に恋したとは想いたくないんだ。だから最初から
やり直したい。普通の出会いをして、普通の付き合いをして、そして普通の・・・普通の幸せなひとときを
テレサと一緒に分かち合いたいと想うから。それで仮に彼女が俺の元から離れていってしまったとしても、
たぶん俺は彼女を引き止めることはしないと想う。彼女の幸せは彼女自身で決めることだから。
・・・俺の言っていること、可笑しいだろうか?」

雪の眸から泪が零れ落ちた。
秋の柔らかな陽光に照らされて落ちた泪の中に入り込んだ空の色は蒼く・・・どこまでも蒼く。

「・・・ごめんなさい。私、島君を困らせようと想って言ったんじゃないの。虫のいい話かもしれないけど、
それだけは分かってちょうだい」
「・・・ああ。分かってるよ、雪」

差し出したハンカチを受け取ると、雪は泣き笑いの顔で微笑み返した。

「なんだか島君とテレサから幸せのお裾分けをたっぷりと貰ったみたいだわ。自分達が幸せになることで
それが自然と周囲の温かい幸せへと繋がるってことを強く感じたの。ありがとう、島君!」
「・・・よせよ。俺、そんなに大層なことを言ってないぞ」
「ううん。ありがとう!・・・上手く言えないけど、私達もそんな風になりたいわ」
「御礼を言うのはこっちのほうだよ。いつもお前達には励ましてもらってばかりだから。
お前達の方こそ、俺たちにとっていつもいつでも希望であり続けたんだから」
「幸せに・・・なりましょうね、お互いに!」

一緒に見上げた紺碧の空を駆け抜けた一陣の爽やかな風。
空高く澄み渡る秋の空に『希望』という名の色を織り込んだ蒼がまたひとつ塗り重なっていく。

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