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頑張るよりも ~字書きの為の50音のお題~

2004年11月8日 サイト初掲載

額にそっと置かれた濡れタオルの冷たさが、まだ躰に熱が篭っていることをひしひしと感じさせる。

「・・・気分はどう?」

ベッドサイドの椅子にゆったりと腰掛けながら心配そうに私の顔を見つめる貴方の表情に横切った翳り。
その表情を垣間見た瞬間に躰の中を突き抜けていくチクッとした痛み。
それは体内の発熱によって引き起こされる関節の痛みではなく、貴方に心配や迷惑を掛けてしまっている
自分の不甲斐無さによって引き起こされる意識下の痛みであると気付いていた。
迷惑を掛けまいと常日頃意識し続けてきた心に反するように貴方に迷惑を掛けずにはおられない自分自身の
現状に、情けなさよりも貴方に対する申し訳なさが遥かに大きくて。

「・・・ずっと貴方に面倒を看て頂いたから、大分楽になりました。ありがとうございます」

そう言いながら無理にベッドから起き上がりかけた私を貴方は私がまるでそうすると事前に察知していた
ように、優しく身体を押し止める。

「・・・無理しちゃ駄目だ。今の君に必要なのは充分な休養だ。ここで無理をすると却って治癒が遅くなる」

少しだけ強い口調で私に向かって話し掛ける貴方の表情に真剣な想いが宿っているのを感じて波立つ心。

「・・・もし僕にこれ以上迷惑を掛けまいと思っているのなら・・・僕の言うことをちゃんとよく聴いて、
安心して僕に看病を委ねて、治療に専念すること!・・・僕との約束、守れるよね?!」

最後の言葉を放った後に私に向けて軽くウインクをする貴方の真心に触れて堪えていた想いが一気に
迸っていく。
頑なな私の気持ちを解きほぐそうとわざと明るくおどけた調子で話し掛けてくれた貴方の優しさは
私の心に静かで温かい雨となって降り注ぐ。

「・・・分かっていらっしゃったんですね・・・」

ベッドに横たわったままの私を見下ろす貴方の眸が一瞬だけ閉じると、そっと頬に添えられた貴方の指先。

「・・・君の考えていることは僕には大体分かる」

強張った表情が次第に緩んで、崩れていきそうになる貴方の顔に滲んだ想い。
胸の奥から絞り出したような声は次第に掠れていって、時折涙声となって詰まる。

「頑張らなくていいんだ。頑張ろうと無理をすればする分だけ自分が辛く苦しくなっていくだけだから。
僕は君が僕の為に頑張ろうと無理しているのを僕は分かってた。君が僕に迷惑を掛けまいと・・・
心配掛けまいと頑張れば頑張る分だけ君自身に負担が掛かっていたのを止められない自分が情けなくて、
口惜しい・・・!」

俯いた貴方の顔から零れ落ちた一粒の泪。
・・・それはきっとこの世で一番尊い、人が人を思い遣る時だけに流す泪の宝石に違いなかった。
その泪の宝石が貴方が私を想ってくれて流す泪であることに気付いて、私の心は濡れた。

私の為に泪を流してくれる人がいるという現実に。
心から愛して止まない貴方が私の為だけに流してくれた泪の尊さに。

「・・・テレサ。僕の為に頑張ってくれている君の気持は本当に嬉しい。だけど僕は・・・
頑張るよりも・・・無理をせずに自然のままでいる君といつまでも一緒にいたいから。
甘えてもいい。愚痴を零してもいい。僕の前では頑張らないありのままの君でいて欲しい・・・」

頬に添えられた貴方の指先が僅かに震えだす。
私に対してこんなにも深く思い遣っていてくれた貴方の気持に、私の心もいつしか解けていって・・・。

ゆっくりと動かした指先を頬に添えられている貴方の指先にぎこちなく重ね合わせる。
驚いた様子で私の方を見た貴方に向かって泣き笑いの顔で紡ぎだした言葉。

「ワガママを言い出したらキリがありません。甘えだしたら止まらないかもしれません。
・・・それでもありのままの私でいいんですか?」

「君がこうして僕の傍で生きていてくれるとい嬉しさの前では、どんな君のワガママや甘えも僕には
全部愛らしく思えるよ」

ハッとした私の視界を横切った影が一つ。
唇から伝わってくる貴方の優しさを静かに受け止めながら眸を閉じた私の頬にも泪の宝石が零れ落ちていった。

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