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帰れない道

2008年2月26日 サイト初掲載作品

「離さない」

耳元にゆっくりと零れ落ちる言葉の雫。
余韻を伴なった響きが肌に染み込んで、胸の奥深くに届いたとき・・・
全身が緩やかに溶け落ちていく感覚が私を包む。

温かくて広い胸に、ギュッと顔を埋めて縋り付く私を
貴方はあの時と同じように、同じ強さで抱き締め・・・髪に頬擦りを繰り返す。

その言葉の裏側に隠れている、貴方の真意を汲み取った瞬間、貴方の心に私の想いが共鳴し始める。

「離さない」という、その一言は時間や心理面での束縛を意味する言葉ではなく・・・
私が今、ここに生きているという現実をもう二度と失いたくないという、
悲痛な気持ちから発せられていると・・・ようやく気が付いたから。


私を抱き締める、貴方の腕の強さが・・・
私の名を呼ぶ、貴方の声の優しさが・・・
私を見詰め続ける、貴方の真っ直ぐな眸が・・・


私に向けられる、貴方の直向な気持・・・貴方から伝わる全身全霊の想いが・・・

私が生きているという現実、そこにすべて注がれていると知ったから。

*****

『自分の本当の気持を偽っちゃ駄目。貴女の存在が、誰かを幸せにしているという現実から
眼を逸らしちゃいけない。貴女は島君にとって、この世で一番必要な人で、そして一番失いたくない人なの。
「自分は愛される資格がない人間だから」って逃げるのは、それは自分が傷付きたくないだけの言い逃れにしか
私には聞こえない。・・・ごめんなさい、私、貴女に大分キツイ事言っているって分かってる。こんな事言う私を恨んでもいいし、
憎んでもいい。だけど、これだけは言わせて。島君は自分自身の至らなさで、二度も貴女を失ってしまったという状況から
逃れられずにいるの。いいえ、違う。敢えてその現実と向き合って、貴女を苦しめてしまった自分自身を追い詰めているの。
島君、貴女ともう一度廻りあえた事を本当に心から喜んでいるわ。だけど同時に不安も抱えてるのが見ていて分かるの。
「もしかしたら、貴女をまた失ってしまうんじゃないか」っていう恐れをいつも抱き続けてる。
貴女が島君を誰よりも何よりも大事に想っている事も私は知っているつもりよ。島君を愛している貴女だからこそ、現実から逃げないで欲しいの。
島君のたった一つの願いを叶えられるのは、この世でたった一人・・・そう、貴女しかいないのだから』

島君の親友の恋人のくせに、貴女に対して言いたい放題よね・・・ごめんなさい。
もう言いたいことは全部言い尽くしちゃった。
・・・逢える機会が、再びあるとしたら・・・その時は楽しいお話をしましょう。

歩道に落ちた雪さんの影法師は、何故か泣いている様で・・・私の目にいつまでも残影が残った。

*****

「・・・離さない」

さっきよりも力強い言葉が耳元で響く。
強い意志を込めた想いが、貴方の全身から伝わる。
その想いは私の身体に、愛するという気持の波紋を呼び起こしながら、深く静かに潜行していく。

貴方の大きな愛に包まれながら、私は今日も生きていく。

・・・そう、貴方とともに。
二度とは帰らない、この道を・・・ずっとふたりで。

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