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秋の夜(島&テレサ)

久々の島&テレサ生存版の新作(超短編)UPです。

よろしかったらどうぞ。

「・・・・・・もうそろそろ窓を閉めましょうか」

淡い月の光を背にして佇む君の姿が、厳かな闇の色に滲む。
柔らかな想いを宿した眸は、いつの頃からか・・・・・・真っ直ぐに俺を見つめるようになった。

視線を逸らすことは、容易いのに・・・・・・
俯くことばかりが身体に染み付いていて・・・・・・

それでもようやく、こうして互いの視線を受け止められるようになった影で、
人知れず、どれだけの泪を君が零し続けてきたのかが、俺には痛いほど分かるから。

恥かしがりやで臆病な君を守るかのように、
優しい秋の夜は、君をその大きな懐に包み込む。
愛しい者をそっと労わるように。

そのまま闇の間に佇んでいると、優しい秋の夜に君を奪い取られそうな予感がして
沈黙の時間を押し崩す俺がいた。


「・・・・・・いや、もう少しそのままでいよう」


予期していた言葉とは別の言葉が流れ出たのに気付いて、僅かに君の顔が曇る。
けれどそれは落胆の表情ではなく、「何故?」と無言で問い掛けているような君の表情が
俺の眸に映り込む。

「このままでは肌寒くはないですか?・・・・・・私、身体に羽織る物を何かお持ちしますね」

いつもいつでも、俺の事を心から案じてくれる君の気持ちに触れて、
泣きたくなる様な想いが瞬時に俺の胸を覆い尽くす。


いつだって君は、そうなんだ。
自分の事はいつでも後回しで。


もういいんだよ、テレサ。
これからは、もうそんなに心を砕かなくても。

俺はどこにも行かない。
君の傍を離れたりしない、もう二度と。


だから、せめて・・・・・・。


漆黒の闇を緩やかに切り崩す金色の波。
宙をゆっくりと揺らめきながら、明るい光を撒き散らし続ける金色の髪は
やがて俺の腕の中で一つに収束していく。

「!・・・・・・島さん!」

腕の中で微かに身動ぎする君の髪にそっと頬摺りしながら、穏やかな夜の狭間に言葉の雫を漏らす。


「もう少しこのままでいたいんだ」


落ち着く場所を見失っていた蒼緑色の玉が、一瞬揺らめいた後、
一際眩しい煌きを放って再び輝きを取り戻し始める。
それは今まで見たことがない位、強くしなやかな想いで彩られていた。


「・・・・・・お部屋に戻ったら、温かいココアを淹れますね」


ほんのりと頬を染めながら上目遣いに話し掛ける君。
涼しい声が秋の夜風に乗って、俺の耳元を擽る。
答える代わりに、君を抱く腕に力を込めながら、空を見上げる。

澄み切った空を駆け抜けた一筋の軌跡を、目に焼き付けたまま・・・・・・
俺と君の長い秋の夜が、これから始まる。

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