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揺らめきの中で

2005年2月22日サイト初掲載作品

各部署で起こる怒号と罵声がヤマト艦内の至る所に満ち始め、慌しい雰囲気に拍車を掛ける。
地球への帰還命令を正式に藤堂長官から受理した瞬間、艦内にどよめきとざわめきが一瞬にして湧き上がったのはついさっきのことだった。
地球帰還に向けての様々な準備や整備、艦の補修にと艦内を激しく人が行き交う中で、島は一旦自室に戻ったまま、テレサとの出会いを思い出しながら立ち尽くしていた。


頑ななまでに戦闘を拒むテレサの想いに初めて面したとき、島の心は微かながら反発を覚えていた。
空間騎兵隊の斉藤がテレサの素っ気無い受け答えに憤慨し挑みかかったのを、真田が必死になって食い止めていたときに、少なからず斉藤の気持ちに同調していたのも事実ではある。
それこそ命懸けで死線を潜り抜け、メッセージの発信源に辿りついた自分達に対して、白色彗星の脅威と地球に辿りつく軌道を教えただけで「あとはご自分達でお考えになってください」と言わんばかりに突き放したような物言いには、程度の差こそあれ古代や真田達もかなり落胆していた気配を感じていた。
現に自分自身もその言葉を聞いた瞬間に呆気に取られて気を取り直すのに多少時間が掛かっていたのも嘘ではない。
そうあの瞬間までは・・・。


「テレザート星は私が滅ぼしたのです」

そっと自分から視線を外して淡々とした口調で呟いたテレサの両肩が小刻みに震えていた。
感情を一切排除しようとして懸命に堪えているような彼女の姿を見た瞬間に、心の中で何かが音を立てて崩れていくのに島は気が付いていた。

古代たちと一緒にヤマトへ引き返そうとした自分をテレサは突然引き止めた。
思いがけない申し出に躊躇したのは事実だが、自分を見つめている彼女の眸に言い知れぬ哀しみが宿っているような・・・そんな気がして島はただ一人テレザリアムに残った。

古代達と一緒に対面していたときの凛とした彼女とはまるで別人のような、華奢で儚げな雰囲気は実は本当の彼女の姿ではないか?と島の心を過ぎった疑問は、程なくして確かな確証と共に島の予想が間違いではなかったことを裏付ける結果となった。

「私は・・・もう二度とあの力を使わないと誓ったのです!」

一緒に白色彗星に対して闘おうと提案した自分の気持ちを一蹴するかのように、拒絶した彼女の叫びにはずっと長い間、テレザート星を滅ぼしてしまったという自責の念に駆られている節が見受けられた。
計り知れない自分の力で自らの星を滅ぼしてしまった彼女の気持ちには同情するが、現実問題として白色彗星が地球に迫りつつあるという危機を前にして、島の気持ちは本能的に地球を守るという方向に働いていたのは無理も無いことだった。

「テレサ・・・このままでは何万という人間が犠牲になってしまうんだ!一緒に闘おう!」

自分の呼びかけに対してテレサは固く眼を閉じ、口を閉ざして聞き入れない姿勢を崩さなかった。
今なら彼女がどんな気持ちでその言葉を受け止めていたのかが僅かながら判る気もするが、あの時はどんなことをしてでも地球を守りたいという自分自身の気持ちが最優先していたために彼女の複雑で微妙な気持ちを思い遣る余裕がなかった。
ただ一瞬だけ・・・彼女の眸が微かに揺れていたのを島は見逃してはいなかった。


彼女自身も深い苦悩の狭間の中で、ずっと自分自身と戦い続けている・・・!


瞬間的に感じ取った想いはテレサの尽きることの無い哀しみそのものを表し、彼女の心の深淵にそっと触れたような気がして、島の心に『何か』が刻まれた。
それが何であるかは・・・島自身もまだ気が付いていないけれども。


ふと右頬に鈍い痛みが走って、島の心は回想から現実へと引き戻された。
斉藤に思いっきり殴られた痛みが今になってぶり返してきたのを歯痒い気持ちと共に思い返す。

第一艦橋で「勝手な人間」だとのレッテルを貼られていたテレサを、自分でも予想できないほどの激しい口調で知らず知らずのうちに弁護していた事実に気付いたとき、胸を過ぎった微かな痛み。

テレサの想像を絶する苦しみを判らずに、勝手な言い分を押し付けていた自分が許せなくて・・・島の心を覆っていく、痛恨にも似た感情。
次第にそれがテレサに対する『ある想い』に様変わりしていくのにさして時間は掛からなかった。


テレサ・・・君はこのままでいいのか?

テレサ・・・君はずっと哀しみを背負い続けたまま、生きていかなければならないのか?

テレサ・・・テレサ・・・!


動き出した時間の中、心だけを置き忘れたまま立ち尽くす島の背中に圧し掛かる現実。

運命の時間は刻一刻と迫っていく。

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