「テレサ…テレサ……僕はどうしたらいいんだ!?」
理性の壁を突き破って発した言葉がテレザリアムの壁面に突き刺さる
あらゆる感情をもってしてもコントロールできない剥き出しの心が時間の流れの中で彷徨い続ける
脆く崩れ去っていく意識の欠片が導き出した言葉には、バラバラになりかけた想いが咽び泣いていた
判断を放棄する術さえ分らぬまま、揺れ動く気持ちの果てでバランスを取ろうとする意志が僅かに残っていたものの、それすらも捨て去って彼女に問う俺に神は容赦ない決断を迫ろうとする
テレサと一緒にここに残るという選択は間違いなく心から欲した願いに違いなく
しかしその一方で、どうにかしてテレサをヤマトへと連れ出したい僅かな望みが身体の中で疼く
テレサの意志を無視して強引に力づくで彼女を此処から連れ去ろうと思えば、或いは出来るのかもしれなかった
…でも俺には出来ない…出来るわけがない
切迫する時間が…ヘルメットから届く古代の懸命な声が…俺の意識に激しく揺さぶりを掛け続ける
分かってはいる!…分かってはいるんだ…!!
だけど詰め寄る俺に対して後退りしつつ拒否の姿勢を見せる彼女の姿を見てしまったら…
懸命に俺の本意を翻そうとする彼女の訴えかけるような儚げな声と眸を感じ取ってしまったら…
どうする事も出来ず、ただただ意識を経ない感情が溢れ出すのを止められない俺の意識が混乱の極地に達しようとしたその瞬間だった
「島さん……!!」
ゆるく翻った金色の髪がふわりと視界を埋め尽くす
彼女が短く叫んだ俺の名に込められていた感情の激流が、俺の心に大きな波紋を呼び起こす
駆け寄る彼女の身体から放たれる光の渦が、その一瞬だけ柔らかな空気を纏うと同時に清廉な色で満たされていく
戸惑いも恐れも不安も…そして彼女を包み込んでいた憂慮の念も押し去って、ただひたすら一途な想いに滲んだ彼女の眸が真っ直ぐに俺を見つめ続ける
テレサ……!
彼女が胸の中に飛び込むと同時に派手な音を立てて転がり落ちていくヘルメット
華奢な彼女の身体が消え入りそうに震え続けているのを感じて、強く柔らかく抱き止めながら散り散りに成りかけた俺の心が一つに収束し始める
震え続ける彼女の身体
ずっと…ずっと悲しみや苦しみに堪え続けてきたであろう彼女の気持ちの行く先が、この世でたった一つもしも俺であるとするならば…
声を必死に押し殺し、ただただ俺の胸に縋り続けて震えている彼女の想いに寄り添うように、そっと抱き締めながら愛しさを募らせていく
ヘルメットから絶え間なく俺を呼ぶ古代の声がテレザリアムの透き通った空間に虚しく吞み込まれていく
許してくれ古代……俺はもう……
迷いを振り切る為にさらに強く彼女を抱き締める俺だった
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あとがきもどき
ヤマト2第16話のあの場面のお話です
このシーンは視聴されている方にとっていろいろな解釈の仕方があるかと思うのですが…
自分的には島さんはテレサと一緒にテレザートに残ろうと決意したのではないかと思ってます
結果としてテレサからの申し出で決意が翻ったカタチにはなりましたが、テレサの「私も行きます」の後で感極まって天を仰ぎ見るようなシーンを見て、ああ、あれは残るつもりだったなと私的に感じています
島さんに抱かれながら、テレサも島さんの決意を感じ取っていたからこそ、「私も行きます」でのあの涙を流すシーンになったのかと
テレサが島さんの前で涙を流すのは、あのたった一場面だけなのですよね
あの涙は嬉しさと哀しさと切なさと、それ以上に島さんへのありったけの愛が込められた涙なのだと…
何十年経っても、何百回観ても…胸が締め付けられるほど切なくて悲しい究極の愛のカタチに今でも心が震え続けます
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