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2004年6月29日 サイト初掲載作品

(注)このお話で、テレサは島さんの記憶を封印する描写があります。
TV放映中に、そのような描写は描かれておりませんので
予めご了承願います。

段々と霞んでいく意識の塊。
薄皮が一枚ずつ削ぎ落とされていくように、ずるずると欠落していく時間の観念。

ほんの短い時間のような・・・
反対に永遠に終わらない時間の中でずっと喘いでいるような・・・

どちらともいえない時間の波にただ押し流されているだけの私の意識を繋ぎとめているのは・・・
大切な・・・命に代えても大切な想い人が瀕死の状態で目の前に横たわっている事実だけしかなくて。

おそらく貴方の身体の中には既に私の血が通い始めているはずなのに・・・
堅く閉ざされた眸は未だ開くことはなく。
真一文字に結ばれた唇から時折漏れる呼吸は・・・
身体の内側からの痛みに苛まされている呻き以外は聴き取れず。

虚しい現実を沈黙して見詰めるだけしか出来ない自分が・・・ただただ情けなくて、苦しくて、切なくて。

破壊しつくすことは出来ても・・・ひとつの・・・たったひとつの命さえ救うことすら出来ない私は
・・・貴方に愛される資格など初めから無かったのかもしれない・・・

誰か・・・誰か私に教えてください!
多くの人々を死に至らしめ、破壊と混乱の中でひとつの星を破滅に追い込んだ私は・・・
私が・・・私が心から愛するたったひとりの男性(ひと)を救うことすら赦されないのですか?
愛する男性(ひと)の救命を願うことは・・・罪人である私はしてはいけないことなのですか?

取り返しのつかない過ちを繰り返したのは本当です。
多くの罪の無い命を奪ってしまったのも事実です。
内紛に心を痛めて、人々の争いが終焉を迎えて欲しいと祈っている自分の中で
無意識のうちに力が発動してテレザートが滅び去ってしまった・・・と言い訳するつもりは毛頭ありません。
・・・私が・・・私自身が祈りでテレザートを滅ぼしたという揺ぎ無い事実から逃げるつもりもありません。

私は愚かな人間です。
多くの尊い命を奪い去ってしまった罪深い人間です。
この世に存在してはいけない人間だったのかもしれません。

・・・でも・・・でも・・・でも!

罪の色で汚れきった命を差し出してまでも、救いたい命があるのです。
私は・・・私はどうなっても構わない!
私の為ではなく・・・地球の・・・そしてヤマトの為に生き返らせて欲しい大切な・・・大切な命があるのです!

御願いです!  最初で最後のワガママを・・・せめて一回だけ聞き届けてください・・・

頬を伝って零れ落ちた涙が貴方の指先に落ちた。
微かな、でもピクッとした確かな反応が貴方の指先を握り締めている私にダイレクトに伝わる。

あっ・・・!

心なしか僅かに動いた口元とうっすらと血の気を帯びてきた顔色を見て体中を駆け抜ける喜びの小波。
ジワジワと身体に染み込んでいくような嬉しさが頑なだった心に辿り着いたのは相当時間が経ってからで。

・・・聞き届けて・・・下さったんですね・・・

感謝の気持ちを自覚するのが今の私には精一杯で。
堪えようのない嬉しさよりも、今はただ貴方の命が助かりそうという、その事実だけが身体の中を埋め尽くしていて。

嬉しさで高揚していく意識の影で、だんだんと体温が下がっていく私の身体の崩壊は止めようが無く。

さっきまで冷たかった貴方の身体がだんだんと体温を取り戻していく反面、どんどん冷え切っていく
自分の身体を実感しながら・・・心だけは穏やかに緩やかに落ち着いていくのを何処か嬉しがっている
私がいて。

・・・とうとう・・・その『とき』がきたのね・・・

グッと握り締めた拳の中で行き場を彷徨っていた指先が俄かに震えだす。
抵抗しようとする身体とは裏腹に研ぎ澄まされていく意識が末端の神経までに行き渡っていくのを
私は自覚していた。

貴方の身体に私の血を輸血し始めた時から、心の中で密かに決めていた決意が現実味を帯びてくる。
テレザート星を貴方の目の前で爆発させてしまって、貴方との約束を破ってしまったときから
ずっと・・・ずっと燻っていた想いに終止符を打つ時が・・・

踏み止まろうと必死に抵抗していた想いを激しい痛みとともにと引き剥がした私は・・・
震える指先をそっと貴方の額に近づけた。

島さん・・・愛してます。今でも心から貴方を愛しています!
・・・だけど、罪深い私の記憶を背負ったままで
貴方がこれから先の人生を生きていかなければならないとしたら・・・
それは貴方にとっても、・・・そして私にとっても辛いことだと想うのです。

そう勝手に想うのは私のワガママかもしれません。独り善がりな想いを貴方にぶつけているだけかもしれません。
・・・でも貴方を愛しているから!
誰よりも・・・誰よりも貴方を愛しているから、貴方に・・・貴方にだけは苦しんで欲しくないのです。
私の面影を引き摺り続けながら、貴方が生きていくのは・・・私にとって何よりも哀しいことなのです。
・・・それならばいっそ、貴方の記憶の中から私を・・・私の存在を消し去ってしまえば・・・
それで貴方が今後苦しまなくて済むのなら・・・私は喜んで貴方の記憶の中から消えましょう。
・・・確かに哀しいです。心から愛し合った貴方の記憶から私の存在が消えることを望むのは切ないです。
・・・まだこの期に及んで気持ちが揺れ動いているのも本当です・・・。
だけど私は貴方の身体の中で生き続ける事を選んだのです・・・
貴方が私のことを思い悩んで苦しむ姿を見たくはないのです。
本当の私の気持ちと矛盾しているかもしれません。それは否定しません。
・・・でも・・・不思議なんです。
貴方の命が助かると分かった瞬間から・・・自分の中の気持ちが驚くほど静かに落ち着いてきたのです。

貴方の命さえ助かればそれでいい・・・
貴方の命さえ助かれば・・・何も望まない・・・

その願いが聞き届けられたときから・・・私の中の何かが変わりつつあるのです・・・

貴方と出会い、貴方と真剣に心から愛し合った瞬間をたったひとときでもお互いに分かち合えたから・・・
私はそう思えるようになったのだと想います。

島さん・・・ありがとう・・・

今、改めて心を込めて貴方にこの言葉を捧げます。
私の心を・・・命を・・・そして深く尽きない貴方への愛と感謝の気持ちを込めて・・・

だから今、さよならは言いません。またいつか貴方と何処かで逢える・・・その日を信じて・・・

躊躇ったまま宙に浮かんだ指先をそっと貴方の額に押し付ける。
涙とともに霧散していく貴方の中の私の記憶は、その瞬間から永遠の時間の果てへと弾き飛ばされた。
そうしようと私自身が決めたはずなのに、後から後から胸に込み上げる苦い想いと鈍い痛みに体中が侵食されていく。

・・・これで・・・これで良かったのですね・・・。

無理矢理納得しかけた意識の向こう側で・・・心が崩れていくのを止められずにいる私がいた。

***********************

哀しみの色に包まれ、宇宙を彷徨い続けるテレザリアムの行く手にはヤマトと地球が待ち受けているのを
テレサはまだ気付いていなかった。

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