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3日連続の更新となります。
このお話もまた、ダイロンの聖少女のラストシーンから続くお話です。
よろしかったらどうぞ。
「・・・っつう;;;手加減なしは結構キツイもんがあるな」
特Aクラッシャーの口から漏れつづける呻き声は、途切れることなくひっきりなしに続く。
クラッシュジャケットがかなりの衝撃を吸収してくれたものの、不意討ちを喰らった背中への蹴りの威力は半端なく強烈で。
背中に広がる鈍い痛みとは別に、両の眸にうっすらと涙を溜め込んでいたアルフィンの叫びがジョウの心の淵を鋭く抉り取っていく。
「ジョウのバカッ!」
劈くような声が部屋を揺るがし、程なくして硬い靴音を響かせながら眼の前から走り去っていった人影。
柔らかな金髪が眼前で緩やかに翻る。
ジョウの瞳の奥で、髪を靡かせながら遠ざかるアルフィンの動きが捉えられ、モノクロの空間を薙ぎ払った金色の光の波だけが網膜にしっかりと焼きついた。
勢いよく開け放たれたドアの向こう側で、沈黙した時間が行く手を阻んでいた。
「・・・後を追わなくていいんですかい?」
遠慮したようなタロスの呟きが耳に届く。
「今の俺に、彼女を追いかける資格なんか・・・あるわけない」
抑揚のない言葉が口から零れ落ちた。
感情を一切排除しようと抵抗した分だけ、震える唇。
声にならない溜め息が身体の奥底から漏れだして、周囲の空気を澱ませていく。
諦観の念が徐々ジョウの身体を覆いつくそうとするのを察し、タロスは重い腰を上げた。
「普段強がってる分だけ、見掛けによらず・・・案外脆いもんですよ、女ってのは」
「・・・分かってる・・・つもりだった」
言葉に詰まるジョウに、タロスは敢えてジョウの逃げ道を閉ざす一言を擦れ違いざまに零した。
ジョウから反感を買うことも、八つ当たりされることも、全て承知の上で。
・・・タロスはジョウの本当の気持(想い)に、一縷の望みを賭けた。
「・・・ジョウ。今まで女性と接する機会が少なかったとか、アルフィンがピザンの元王女であるからとかいう、表面上の言い訳はもう通用しませんぜ。クラッシャーという職業とか、身分の違いとか、そんなもの一切合財かなぐりすてて、自分は今、何をしなくちゃならねぇのか・・・ひとりの男としての生き様が、試されてる二度とない瞬間を、このまま逃しちまってもいいんですかい!?」
俯いて黙りこくっていたジョウの右頬が僅かに痙攣する。
タロスはそのサインを見逃さなかった。
それが、ジョウが本気になった時の顕著な兆候であることを、タロスは骨身に染みて知っていた。
微かに紅潮しはじめた顔色が、沈みかけていたジョウの精気を取り戻し始める。
・・・『その時』が来たのだ・・・
後は無言でそっとジョウの背中を押すだけ。
ドアの入り口に進み出たタロスはジョウに向け、握り締めた拳から親指だけクイッと突き出すと、アルフィンが走り去った方角を二度三度と指し示した。
うっすらと紅が散ったジョウの顔はすぐさま真顔に戻り、真一文字に噛み締めた唇が彼の意思の強さを呼び戻した。
「・・・お節介やきめ!」
照れ隠しにボソッと吐き捨てたジョウは、信頼に彩られた一瞥をタロスに投げ込みながら一歩を踏み出す。
駆け出した先に待ち受けるものを・・・一筋に目指して。
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