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2003年4月4日
漂っていた・・・何のしがらみもなく・・・何に束縛されるのでもなく・・・
それでもなお・・・何かを求めて必死にさ迷い続ける心にやがて雨が降ってきた・・・
優しい・・・温かい・・・そして何よりも、全てをみな包み込むような雨は・・・
透明な涙に似ていた・・・
*****
ぴったりと閉じあわせていた貝の口がだんだんと開くように、ゆっくりと離れていく瞼と目の縁の僅かな隙間に差し込んだ光の中におぼろげに映る影。
だんだんと形を成していくその影の向こうで、一瞬だけ微笑んだあいつの顔が瞳を通り過ぎていく。
夢を見てるのか・・・?
まどろみながらも徐々に覚醒していく意識の中を流離う自分に、どこからか声が聞こえた。
「ジェット・・・」
ジェット・・・ジェット・リンク・・・俺の・・・俺の名前・・・?
名前を呼ばれた瞬間にぱっと反応した眼球の動きに合わせて、俺の中の意識が蘇る。
どこかで見たような天井・・・
頬に当たる空気の感じ・・・
カーテン越しに揺れる陽射し・・・
どれもこれも皆、俺の記憶の片隅に仕舞い込んでいた大切なモノだったことに気付く。
覚えてる・・・この感じ・・・漂っている空気の匂いも!・・・微妙に揺れる風の動きも!!
俺に優しく語り掛ける柔らかい光の温かさも!!!
心の底から込み上げる言い知れぬ悦びの叫びが全身を貫く。宙を踊る視線の先に待っていたものは・・・
『馬鹿野郎!』
言葉に出さない心の声で、俺に向かって静かに笑い掛けながら語り掛けるあいつの瞳。
いつもならムキになって言い返す俺も、あいつの心の言葉の裏側にある思いを汲み取って、ただ黙って小さく笑うだけだった。
・・・そんな俺を腕組みしたまま見下ろしているあいつは、握り締めていた拳の親指だけ突き立てながら「隣を見ろ!」とばかりに言葉に出さずに俺にサインを送った。
身体を横たえたまま寝かされているベッドの中で、首だけ巡らせて隣を見遣ると
ジョーが・・・ジョーが静かに瞳を閉じて微かな息を漏らしていた。
・・・そしてその隣でジョーの顔をずっと祈るように見詰め続けるフランソワーズの姿も・・・
その瞬間に体中を覆っていたあの日の戒めが、まるで堰を切ったように流れ落ちては時の彼方へと消え去った。
・・・助かったのか?・・・俺達?
言葉に出さないまま問い掛ける俺に対して、あいつは黙ったままジャケットの内側からタバコの箱を取り出すと、おもむろに1本タバコを取り出して口の端に軽く咥え込んでマッチで火を付けた。
軽く吸い込んで吐き出した紫煙が緩やかに時の狭間を漂う。
あいつは軽く1回吸っただけのタバコを俺の口元に近づけ、咥えさせようとした。
俺も自然に口を開いてあいつが差し出したタバコを咥え込むと、思いっきり煙を吸い込んで体中に行き渡らせると深くゆっくりと紫煙を吐き出した。
・・・吐き出す煙の中にジョーを救おうと飛び立ったあの時からの壮絶な想いが染み込んでいるのに気が付いた。
繰り返し吐き出す紫煙と共に軽くなっていく心の枷。
「・・・この部屋、禁煙だろ?」
『ありがとう』と素直に言えない俺が放った憎まれ口に、あいつが口に小さく笑みを浮かべながら応酬する。
「・・・ただいま、期間限定サービス実行中・・・」
ニヤリと笑いながら、タバコを吸い始めたあいつの吐き出す紫煙が、俺の紫煙と重なりあって溶け合いながら緩やかな時の流れの中に吸い込まれていく・・・。
・・・吸いながら目に思わず浮かんだ涙は煙が目に沁みた為じゃない・・・
・・・目に沁みた訳じゃない・・・
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