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2003年9月23日サイト 初掲載作品
「フランソワーズ、もし良かったら、その・・・ちょっと外へ出てみないか?」
キッチンで遅い昼食を終えたみんなの食器を手際よく洗っていた手がふと止まり、ゆっくりと僕の方を振り返る彼女。
「まあ、初めてよね!貴方からそんなお誘いがあるなんて」
ちょっぴり棘のあるような感じの言葉に胸がちくっと痛む。
「・・・駄目かな?」
彼女の機嫌を損ねたかもしれないと恐る恐る尋ねる僕。
「待ってて!今これを片づけちゃったら急いで着替えてくるから!」
「えっ?・・・そのかっこのままで大丈夫だと思うけど・・・」
「もう!!ジョーはそれでいいと思うかもしれないけれど、出掛けるときは少しでもお洒落しなくちゃ!」
「・・・そういうものなの?女の子って・・・」
「そういうものです!!」
彼女の少し真剣な様子にちょっとびびる僕。
女の子の気持ちってまだまだ判らないよ。
「じゃあ、僕玄関で待ってるからね」
「ええ!」
彼女に背を向けてキッチンから立ち去ろうとする僕の耳に微かだけど彼女のハミングが聞こえた。
いつもの彼女から想像できないような軽やかなハミングの声が、なんだか僕の心を優しくしていくような気がする。
とくん・・・
自分でも自覚できないほどの一瞬の心臓の鼓動の乱れと共に感じた暖かい気持ち。
僕は一体どうしたんだろう?
この気持ちは何だ?
「お待たせ!」
玄関に走り込んできた彼女を見て、はっと息を呑んだ。
戦闘服で見慣れてしまった彼女の姿とはまた違って、可憐で清楚な彼女の姿が僕の目に映った瞬間から、とくんとくんと乱れてきた心臓の鼓動。
「どう?似合うかしら?」
「え・・・いや、その・・・似合うと思うよ・・・」
僕のしどろもどろのその言葉に、彼女は頬を膨らまして抗議の意思表示をした。
「あのね、ジョー!もうちょっと他に言ってくれることないの?せっかく着替えてきたのに!」
「・・・ごめん」
「いいわよ、気にしてないわ!・・・それよりも貴方がこうして誘ってくれた事が私はとっても嬉しいから・・・さ、行きましょ!」
微かに頬を染めた彼女が照れくさそうに僕から視線を外して、さっさと僕の前を通り過ぎる。
僕は彼女が途中で小さく呟いた言葉の意味を考えこむ。
どういう事だ?僕と一緒に外出できることが彼女にとって嬉しいことなのか?
考えれば考えるほど深みにはまっていくような想いに、その時僕は気付かなかった。
そう、それが恋のはじまりだったなんて。
並んで歩く僕たちの前に公園が見えたきた。
「ねえ、ちょっと行ってみましょうよ!」
そう言うと同時に駆け出す彼女。
「ま、待ってよ、フランソワーズ!」
僕も慌てて彼女の後を追う。
彼女はまるで春の訪れを喜ぶような森の妖精のように軽やかな足取りで舞い、柔らかく降り注ぐ光のベールの中でその亜麻色の髪をきらきらとなびかせた。
彼女の口から零れ出す言葉の滴が凍てついた地面を溶かすように染み込んでいく。
「春が、春がもうこんなに近づいているのね!」
空気中を漂う春の気配が、彼女の身体をそっと包み込んでいるような感覚を覚えて胸の高鳴りが押さえ切れない。
無意識のうちに手で作ったファインダーで彼女の姿を捉えて、心の中で何度もシャッターを切る。
その度に震え出す、心の奥の見えない糸に僕の心は揺れる。
もしかして僕は・・・。
走り出した僕の心にそっと春風が忍び込んだ。
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