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2003年2月14日 サイト初掲載作品
バレンタインなんて・・・
バレンタインなんて・・・自分には関係ないと思ってた・・・
尽きることのない戦いに明け暮れる日々に・・・
個人的なイベントを持ち込むことはタブーだと、決め付けていたワタシ。
・・・でも、それは自分で自分の心を縛り付けておくための言訳にすぎないことを、誰よりも分かっているのは・・・分かっているのは・・・
臆病で意気地のないワタシだってことを知っていたから・・・
ワタシだって知っていたから・・・
どんどん歪に・・・どんどん頑なになっていく心を解く術を持たないまま・・・
時間だけが過ぎていった・・・
*******************
「009!周囲を敵に完全に取り囲まれてるわ」
「くそっ!身動きが取れないな・・・。このままじゃマズイぞ」
瓦礫の山に身を隠しながら、ジリジリと近づいてくる敵の攻撃を必死に躱す私達。
言いようのない緊迫感がプレッシャーとなって激しく襲い掛かる。
「・・・003!敵の包囲網の中でどこが一番手薄か調べてくれ!」
強ばった声の009の指示が飛んだとき、ワタシは驚きのあまり彼に反論した。
「009・・・もしかして、貴方・・・ここから強行突破するつもり!?いくらなんでもそれは無茶すぎるわ!飛び出した途端に撃たれてしまう!」
必死になって彼の説得を試みるワタシに、そっと笑顔を向けながら優しく語り掛ける栗色の瞳に映った澄み切った空の色。
それは哀しいほど澄み切っていて。切ないほど蒼すぎて。
「心配してくれて、アリガト!・・・大丈夫だよ・・・きっと大丈夫だから!」
・・・どうして?
・・・どうして貴方がそう言ってくれるだけで・・・信じてみようっていう気が沸き上がってくるの・・・?
無謀な賭けだってことは充分分かっているはずなのに・・・
・・・どうして貴方は・・・そんなに・・・そんなに強くいられるの・・・?
「003・・・もし何か口にするものがあったら、僕に分けてくれる?」
「えっ?」
突然の思い掛けない彼の問いかけに、ワタシの頭の中は真っ白になる。
「僕さ・・・何か大きな問題にこれから挑もうとするときは、直前に口の中に何かを含んでおくんだ。『どうか無事に乗り越えられるように』っていう一種のジンクスなのかもしれないけどね!そうして気持ちを落ち着けてからいつも困難に立ち向かうようにしてる」
「009・・・!」
おどけた口調で話す009だったけれど、瞳は全然笑っていなかった。
それは今直面している事態が、生死を分けるほどの重大な局面だということを、彼は肌で感じ取っていたはずだから。
ワタシは彼の想いに自分の気持ちを重ねあわせて・・・祈るような気持ちで、防護服のポケットから非常食用のチョコレートを差し出した。
「009・・・!お願いだから決して無茶はしないで・・・ワタシの・・・心からのお願いよ。そして・・・敵の包囲網が一番薄いのは・・・南南東の方向よ」
涙声交じりで訴えるワタシを優しく見つめ返しながら・・・そっと受け取る彼の瞳に緩やかな靄が掛かった。
チョコレートの包装紙を破って一口だけ口に含んだ彼の顔に何ともいえない憂いの表情が宿る。
「・・・003、アリガト!・・・来年の今日は・・・君の手作りのチョコレートを食べられるといいな!」
言葉を放った瞬間に一気に踵を返して、瓦礫の山を飛び出していった009に、敵の集中砲火が一斉に降り注ぐ。
「ジョー!!!!!!」
・・・戦場のバレンタインデー
・・・ほろ苦くて・・・切ないチョコレートの味・・・
・・・甘い想いを噛み締めながら迎えることが出来るのは・・・
・・・いったいいつなんだろう・・・
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