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2005年6月17日 サイト初掲載作品
「あぁ〜♪『女に生まれてよかった!』って思える瞬間のひとつは、きっとあの場面に間違いないわ!」
夢見心地の余韻をまだ楽しむかのようにうっとりとした表情の雪が、傍らの古代にいきなり同意を求める。
「ねぇ!古代君もそう思うでしょ?!きっとそうよねぇぇぇ〜!」
雪に急に話しかけられ、口に含んでいた珈琲を危うく吹きそうになった古代が何とか体勢を立て直す。
さすがだ、古代!
どうやら艦長代理は名ばかりじゃなかったようだ。
後でこっそり褒めてやる。
「おっ・・・俺は別に・・・」
慌てふためいたまま、突然の雪の質問の矛先をやんわりと替えようと目論んだ古代だったが・・・
前言撤回!まだまだ詰めが甘いぞ、古代。
雪がそんなあやふやな回答で満足するようなタイプじゃないってこと、分かってるだろ!?
相変らず学習能力がない奴だな、お前は。
「んもぉ〜!古代君に訊いた私が馬鹿だったわ。古代君ったら、ほんとうに『女心』ってのに気付くのが鈍いんだから。ま、・・・でもそんな古代君に惚れちゃった私にも責任があるってことで・・・島君はどう思う!?」
ウッ!
飲み込んだ珈琲が即座に鼻に抜けたと分かった瞬間、ツ〜ンとした痛みが顔面にジワジワと拡がる。
「い・・・いきなり俺に話を振るなよっ!」
さっきの展開だと当分ふたりの惚気話が続くと見込んでいた俺が甘かった。
古代の反応を知った途端、俺に切り返してくるとは・・・俺は雪を侮っていた・・・
視界の端で『お前だって詰めが甘いぜ、島!』という風に、これ見よがしにフフンと鼻を鳴らす古代の姿を捉えた。
あいつぅぅぅぅ!!!後で覚えてろよっっっ!!!
「ねぇ?島君はどう思う?!」
未だにまともな回答を得ていない雪が再度投げ掛けた質問に、まだジーンとした痛みが抜け切らない鼻を押さえつつ、掠れ声のまま言葉を漏らす。
「・・・そういうもんなのか?女って・・・」
一瞬の間を置いて、場がカチコチに凍りついたのを感じ取った瞬間・・・ダイナマイト級の怒りの鉄槌が俺と古代の上に振り落とされた。
「貴方達に聞いた私が馬鹿でしたっっっ!!!女心のデリカシーを分からない男って最低よ!」
・・・俺を恨めしそうに睨む古代の視線が痛かった・・・
*****
休日の朝は貴重だ。
慢性的な疲労を快復するには、休日の朝にまどろんでいるのが最高の癒しになる。
連日連夜の勤務で疲れ切った心と身体を癒してくれるのは、ゆったりとした心地よい時間と・・・優しい君の笑顔。
・・・テレサ、おはよう・・・。もうそろそろ起きる時間だね・・・?
まだ意識が完全に覚醒していないまま、寝ぼけ眼で隣のベッドに寝ているはずのテレサの姿を探す。
・・・テレサ?
・・・あれっ?・・・テレサ!?
・・・テレサッ!
三段階の状況確認を経て寝ぼけていた頭が完全に覚醒し、ベッドから跳ね起きた。
いるはずのテレサの姿はそこにはなく、丁寧にベッドメイクされた彼女のベッドにカーテンから漏れる朝の光りが燦燦と照り付けるだけ。
テレサが・・・いない!
そう認識した瞬間にとてつもなく強い痛みが、心と身体を瞬く間に突き抜けた。
自分自身が最も恐れ、絶対にあってはならない事態に遭遇した衝撃に声すらも出ない。
膝がガクガクと震えだし、パジャマが全身から吹き出た冷や汗でびっしょりと濡れる。
まさか・・・まさか!・・・まさか!!
意識を奈落の底へと突き落としていく目の前の現実は、自分の存在意義を根底から揺るがしかねないものだった。
二度と・・・もう二度と離さないと心に固く誓った決意が、脆く崩れ去るのにさして時間は掛からなかった。
う・・・そ・・・だろ?!
丁寧に時間を掛けて築き上げた砂の城が大波に呑み込まれて、一気に崩れ落ちていく様をリアルに体現しているような錯覚。
あってはならない事態を認識したくない想いが強烈な吐き気を伴って胸の奥から込み上げる。
一瞬にして天国から地獄へと突き落とされたようなあの感覚が、再び自分を襲い始めた恐怖に堪える術もなく。
静まり返ったベッドから一歩ずつ後ずさりしながら、声にならない魂の絶叫を放出させて部屋の外へ飛び出す。
認めたくない現実から逃れるために駆け出した先で出逢った人物と目が合った瞬間、時間が止まった。
振り向く君に詰め寄る僕。
眩いばかりの煌く朝日。
零れ落ちる金色の光の波。
ふわ・・・ふわ・・・ふわ・・・
ゆらゆらと揺らめきながら舞う、白の羽衣。
「・・・島さん・・・!」
時間の波を掻い潜って、耳元に辿り着いた君の声。
蒼緑色の宝石の中にくっきりと映りこんでいる俺の姿。
付け替えていた途中の白いレースのカーテンが、ふわふわと空気中を漂って君の頭上に舞い降りる。
「・・・あっ・・・!」
予期せぬ展開の果てで・・・
思い掛けなく到来したのは・・・
忘れかけていた幸せの欠片。
荘厳な光の滴を浴びながら振り向く君。
清らかな魂に彩られて輝くその姿に・・・疼く心は君だけを求めていた。
きっと俺は・・・この瞬間を待っていたのかもしれない。
そう、自分でも知らないうちに。
静かに佇む君の肩に両手を置いて、そっと頷く。
訳が分からぬ様子で不安げに見上げる君の眸がレースのカーテン越しで揺れる。
怖がらないで・・・
大丈夫。
見詰め合う眸を通じて語り掛けながらカーテンの端を摘みあげて、そっと・・・そっと君に顔を近づける。
触れ合う寸前で閉じられた蒼緑色の眸の奥に、ありったけの想いを込めて永遠の愛を誓う。
ピンク色に染まった眸の淵から零れ落ちる雫はきらきらと輝きながら愛の礎を築く。
恥ずかしそうに俯く彼女をしっかりと抱き締めながら、雪が古代と俺に問い掛けた答えをようやく見つけたのだった。
男に生まれてよかったって思える瞬間も・・・
君が言うように同じ場面で間違いなかったよ、雪。
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