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大切な夢を

このお話はプリムラシリーズに繋がっているお話です。
なお、このお話は既にブログにUP済みの、字書きの為の50音のお題『目覚めていく愛』の前に位置するお話になります。


2005年6月27日 サイト初掲載作品

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「珍しいこともあるもんだ。お前が俺に個人的な用を頼みにくるなんて」

素っ気無い口調とは裏腹に、何故か自分の依頼ごとを嬉しがっているような素振りがそこかしこに漂う。

「古代の奴の面倒を看っ放しだったから、いつの間にかお前も俺も自分がやりたいことが何なのか忘れてしまったらしい。いい傾向だよ、島。何かをしたいと自分から自発的に行動に出るのは。そうでなくたってお前はいつも古代のストッパー代わりで自分のことは差し置いて、他との調整に四苦八苦していたからな。お前はそれを全然苦労だとは想ってないかもしれんが」

「そういう真田さんだって、俺以上に神経をいつも擦り減らしていたんではないですか?俺達の前では一切表情や態度には出していませんでしたけど」

島の問い掛けに対し、真田は一瞬だけ自嘲気味に笑みを浮かべると、溜息と共に煙草の煙をゆっくりと吐き出した。

「お互い苦労が身に染みると、積もり積もった不満さえも、哀しいかな・・・半ば許容されてしまうものらしいな。これも一種の職業病かもしれん。この職業病は一生完治できそうもないから、防衛軍本部に『古代フォローアップ手当』というのを、真面目に申請した方がいいかもしれんな。俺とお前と南部の分を」

「・・・真田さん、それ全然冗談になってませんよ」
即行
「・・・そう思うか!?」

「今更俺にそれを訊きますか?!申請できるのであればとっくに申請してますよ、即行」

お互い目配せしながら少し黙り込んだ後、突如大きな笑い声が二つ、実験室に豪快に響き渡る。
廊下まで筒抜けする位の激しい笑いに、偶然実験室の前を通り掛った者は驚きのあまり腰を抜かすことだろう。

「・・・島、危うく俺はお前の台詞で笑い死ぬところだったよ。お前、もう少し手加減というものを覚えろ」

「だって真田さんが先にこっちのツボを衝く様なことを言ったんじゃないですか!俺のせいにしないで下さいよ。俺だってほっとけば笑い死ぬところでしたよ」

「ま、なんだ。俺達ふたりは古代に対する認識が見事に一致しているという見解で間違いないということで、この話は終了!・・・さて、本題に取り掛かろう。・・・で?俺に頼み事っていうのは一体何だ!?」

真田の見事なまでの切り替えの早さに感嘆の目を向けながらも、自分に話が戻ってきたことで少しばかり島の身体が硬くなっていく。
自分自身の事柄に関して、他人に御願いすることなど今までほとんどと言っていいくらいになかったことで、どういう風に話を切り出したらいいか分からない。
他人から御願いされることはあっても、自分の側からお願い事をする、しかも極めて個人的な用件で真田の元を訪ねて来てしまったことに、島は申し訳なさと戸惑いを感じていた。
そうでなくても真田が年がら年中仕事に忙殺されていることはよく知っていたので、彼に負担を掛けてはいけないという概念は、いつも島の中に付き纏っていた。
・・・しかしその躊躇いを後ろに押しやってまでも、今日こうして真田の元を訪れた自分にとっては大事な、とても大事な事柄であったから・・・島は思い悩みながらも自分の手の中に握り締めていたモノを真田に差し出した。

「・・・これを・・・加工していただきたいんです」

たったそれだけの言葉を言うのに5分近く掛かった背景を思い遣って、真田は島の真意を察した。
何度も・・・何度も言い澱みながら島がやっとの想いで口にした言葉の意味を、真田は島が自分に差し出したものを目にした瞬間に感じ取った。
島が心の底から大切に思っている人物のイメージがすっと頭を過ぎる。
島の手の中に大切に包み込まれていたモノは、その人物への島の想いを投影しているかのように
手厚く大事に護られていた。
俯いたまま肩が小さく震えている島の表情は窺い知れないが・・・真田は島の気持ちが少しだけ分かるような気がした。

口の端に咥えていた煙草からボトッと落ちた灰の塊の最後を見届けて、真田は口に篭っていた煙をふっと押し出す。
行き場がないままゆらゆらと漂うだけの紫煙は、そっくりそのまま目の前にいる島の姿とダブる。
吸い掛けの煙草を灰皿に指で押し付けた瞬間に、煙草の煙の最後の断末魔が部屋の中に埋没する。

「・・・駄目・・・でしょうか?」

力なく呟いた島の声をわざと聞き流すと、真田は島の問い掛けを無視するような言葉で会話を即座に終わらせた。

「食堂に行って珈琲を一杯飲んで待ち時間を潰しててくれ。傍で見ていられると加工するのに集中できないからな。細心の注意を払って加工してみるが、仕上がりは丁寧とは言い難いかもしれんぞ。それでもいいか?」

言いながらテーブルの上に置いてある愛用の手袋を填め始めた真田は、島の手から丁寧な手付きで加工する物を掬い取ると、島に背を向けスタスタと隣の自分専用の工作部屋に向け歩き始めた。

「真田さん・・・!ありがとうございます!」

感極まったような声で自分の名を呼ぶ島を振り返ることなく、真田は淡々と言葉を紡ぐ。

「礼を言われるのはまだ早い。ちゃんと仕上がりを確認してから、その言葉を聞きたいものだな。食堂に行くついでに俺にもブラックを一杯ご馳走してくれ。細かい作業は結構気を遣うから、作業をし終えた後のブラック珈琲は格別に飲みごたえがあるんだ」

「・・・了解です!じゃ、俺ダッシュで行って来ます!」

島を見なくても、今、彼が放った口調で島の表情にイキイキとした笑顔が戻ったのを真田は確信した。
ドアを飛び出して、廊下を駆け抜けていく足音にリズミカルな躍動が加わっていく。
それは島の、心から愛する唯一人の女性(ひと)を直向に想う気持ちの現れのようだった。

「・・・恋する気持ちは人を知らず知らずのうちに成長させる・・・、か。・・・さてと、あいつが戻ってこないうちに全部作業し終えて、驚かせてやるとするか!」


真田の掌の中で・・・一輪の可憐なプリムラの花が目に見えない優しい微笑を零した。

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