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天上の蒼

2004年10月4日 サイト初掲載作品

眩しい陽射しの中に立ち込めた、清清しい初秋の気配。
夏の頃よりも幾分透明さを増した光に、穏やかな時間が寄り添う。

「・・・よかったら飲めよ」

ぶっきらぼうな言い方と共に、背後から漂ってきた珈琲の香りに本に集中していた意識がふと削がれる。
その二つの絶妙なミスマッチに思わず吹き出しそうになり、読みかけの文庫本を落としそうになったのを奴に知られてはならない。

「・・・この静かな風景に丸っきり溶け込みそうにないお前が淹れてくれた珈琲とやらを、ものは試しに頂いてみるとするか」

感謝の気持ちの代わりに皮肉をじんわりと滲ませた俺の言葉に、すかさず反撃の狼煙をあげる血気盛んな若者がひとり。

「素直に『いただきます』位、言えねぇのかよ!・・・ま、あんたはそんなタマじゃねぇけどな」

胡散臭そうな眼つきで睨みながらも、珈琲を差し出す手付きの丁寧さに目を見張る。
いや、当然心の中でそう思うだけで決して口に出して褒めたりはしないが。

俺に珈琲を手渡しつつ、珈琲を啜りながら俺の横を素通りしたジェットは、ベランダの手摺に身体を預けると天を仰ぎながら眩しそうに目を細めた。

「・・・空が・・・蒼いな・・・」

突き抜けるように真っ青な空を見上げながら、一言だけ零したジェット。
そんなアイツの姿を見ながら口に流し込んだ珈琲の味は、ほろ苦さを呼び起こしつつ身体に染み込んでいく。

「・・・思い出していたんだろ?・・・あの日のことを・・・」

一瞬だけビクッと身体を震わせたジェットをわざと見ないようにして、再び口に流し込んだ珈琲は前よりも少しだけ苦さが増したような気がして。

「・・・忘れようとしたって・・・中々忘れられるもんじゃねぇよ」

僅かに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、溜息交じりの苦笑いを浮かべて俺に背を向けたジェット。
透明さを増していく初秋の陽光の中に微かに紛れ込んだ寂寥感は、ジェットの背中に見えない影を落とす。

「・・・アイツを独りで逝かせる訳には行かないと思った瞬間に、俺の眸に飛び込んできた空の蒼は・・・俺に問い掛けたんだ。『・・・お前はそれでいいのか?』と。次に気付いたときにはもう大気圏に突入する寸前だった。アイツの・・・ジョーの身体を抱え込んで落下していく意識の端で・・・俺は問い掛けてきた空の蒼に向かって答えた。『・・・これで良かったのさ。・・・俺は俺の人生を悔いちゃいねぇ!』って」


吹き抜ける風の音とジェットの呟きが同化した瞬間に、舞い降りてきた眩いまでに煌く光の帯。

壮絶な想いを携えつつ、命を掛けて守り抜こうとした友の身体が宇宙の果てで朽ち果てようとする寸前に、その腕に抱いたジェットの眸に溶け込んでいたはずの空の蒼。
・・・そう、俺達の願いをその身に一心に背負って飛び続けるジェットを見守るように包み込んでいた、
天上の蒼が。

「・・・『幸せ』なんて後になってからいくらでも思い返せるが・・・『後悔』だけはもう二度と繰り返したくないものだな。そうと分かっていても、愚かな俺達はいつもその繰り返しばかりだが」
「生きていくのに理屈なんていらねぇ。大切なモノ、そして命を掛けてまでも守りたいモノ、それだけ
の為に命を掛けて生きていけるのなら・・・それでいい」

さっきまでの沈んだ口調ではなく、力を込めて言い切ったジェットの言葉が緩やかに流れる時の狭間を潜り抜けながら、果てしなく広い天上の蒼に吸い込まれていく。

キッと空を見据えながら自分自身を鼓舞するかのように言い放ったジェットの想いに同調していく心に
気付きながら、珈琲の最後の一口を口に流し込んだ。
口の中に広がっていく微かな苦味は、身体の中で仲間への尽きぬことのない信頼を呼び起こしながら眠っていた感情を目覚めさせていく。

「・・・お前だけにこのまま目の前でいい格好させられて黙って見ていられるほど・・・どうやら俺は人間が出来ちゃいないらしい」

椅子からゆっくりと立ち上がって二、三歩歩みだした先に待ち構えているアイツの顔面目掛けて繰り出したパンチを、まるで俺がそうする事を分かりきっていたかのように、悠然と片手ひとつで受け止めたジェットの顔に小さな笑みが漏れる。

「・・・相変わらず素直じゃねぇな、アンタって人は」
「・・・フッ。それを言うならお互い様だろ!?」

ニヤリと笑い合いながら零しあう言葉の向こう側で、仲間の為に命を掛け続けたいと願うお互いの気持ちが重なっていく。


初秋の景色に滲んでいく消せない想いに彩られながら・・・天上の蒼は一層透き通っていくのだった。

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