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一杯のコーヒー

全然甘くない、微糖(?)の二人の超短編です。
よろしかったらどうぞ。

冷めた紅茶がティーカップの中で緩やかにまどろみ始める。
琥珀色の小波に映り込んだ自分の姿は、親を見失った雛鳥のように、どこか頼り無げで儚い印象に思えた。

虚空に漏らした小さな溜め息は、時の隙間から零れ落ち、琥珀色の液体の中に呑み込まれていった。
無意識に動かしたティースプーンは、不安な顔をした自分の顔を掻き消すような勢いで紅茶を波立てる。
ティースプーンとティーカップがぶつかり合う耳障りな音がリビングに響き渡るが、その音さえも意識の範疇から抜け落ちるほど、アルフィンの思考は麻痺したままの状態だった。


「・・・冷めた紅茶は不味いぞ」


背後から不躾に届いた声は、恐ろしく無愛想な響きでアルフィンの耳元に届いた。
しかしその一方で眼の前にさり気なく差し出された淹れたての珈琲の香ばしい香りが、その声を柔和させるような、不思議な雰囲気を醸し出していた。

ぶっきらぼうな言い方と、それにおよそ似つかわしくない丁寧な仕草のアンバランスさに、煮詰まったままだったアルフィンの意識がふと削がれる。

声の主はアルフィンが座っているソファーに、アルフィンから少し距離を置くようにして腰を沈めた。
ソファーに掛かった重みで、重心がすこしバランスを崩すのは・・・今の自分の状況に当てはまる様な
皮肉な現実に思えて、知らず知らずのうちに噛み締めていた唇。
胸の内に燻ったままでいる、言い知れない焦燥をまるで知っているかのように、ジョウの口から付き付けられた言葉。


「・・・ピザンでの窮屈な生活から一度でいいから抜け出してみたかった・・・それが君がミネルバへ密航した、本当の理由だと俺は踏んでる」


胸の奥を鋭い矢が一突きしたような痛みが全身を駆け巡る。
言い難いほどの衝撃を感じた瞬間、麻痺したままだった思考が驚くほどの速さで快復していく。
それはつまり・・・自分の現状をジョウにずばりと言い当てられた焦りと共に、一刻も早くジョウの認識を覆そうとする意識の塊が、アルフィンを本来のアルフィンへと目覚めさせていくきっかけになった。

「お生憎様。私が自由を求めてクラッシャーになったという貴方の推測は、近い内に打破されることを今から予言しておくわ。そう、私自身のこれからの行動で、その予言を立証させてみせる!」

撥ねっ返りのアルフィンの性格に火がついたと知って、ジョウの口の端に小さな笑みが滲む。
意気消沈していたアルフィンの表情に生気が漲ってきたと分かって、ジョウの胸を僅かに被う安堵の想い。
しかしその安堵の気持が何なのかを・・・当然ながら、まだジョウは知る由もなく。


「ほぉ。その言葉に二言はないかどうか、じっくりと御手並み拝見させてもらうぜ。」


皮肉めいた言葉の裏で、暗にチームからの離脱を阻止させようと狙うジョウの意識が見え隠れする。
だが肝心のアルフィンは、ジョウの真意を測りかねて売り言葉に買い言葉で、ジョウの言葉に反応する。


「見てらっしゃい!私に向かってそんな戯言を二度と言えなくしてみせるから!」


アルフィンの両眸に蒼白い炎が燃え上がる。
さっきまでとは別人の様相で、自分に向かって捲くし立てるアルフィンの様子を見届けながら、ジョウは飲み掛けの珈琲を一口啜った。
苦みばしった香味が何故か今だけは、口の中で程よい甘みに成り代わって行く不思議な感覚に囚われながら。

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