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再生

CJ第7巻を読み終えた当時からずっと燻っていた想いがありました。

それはタイラーの死を巡る、ジョウとダンの気持です。
ジョウにすれば同期でしかも、クラッシャーになった環境も親の地位も半ば同じタイラーとは、ライバル視しながらも凄く仲がいい友人だったのかもしれません。
そしてそんなタイラーと接したダン(第5巻で一緒に行動してますね)も、ジョウにとってタイラーがなくてはならない友人の一人だという認識が強かったはずだと。

避けきれない状況だったとはいえ、ジョウのチームがタイラーのチームと死闘しなければならなかったのは、運命とは言えど物凄く過酷過ぎるという想いが乗じて書いた短編です。
よろしかったらどうぞ!

現実を遮蔽するドアの向こう側で、押し殺した嗚咽が漏れ聞こえる。
それは彷徨う魂の叫びにも似た、絶望の嘆きとなってジョウの鼓膜に突き刺さる。

「悪いが……息子と二人きりにしてほしいんだ」

胸の内から絞り出す声には、自分の訪問を拒絶する雰囲気が滲んでいた。
ジョウは棺を一心に見つめたまま直立不動で立ち尽くし、微動だにしないタイラーの父親に深く一礼すると、その場を辞した。
その直後、締め切った部屋から哀しみの咆哮が飛び散っていくのだった。


何故俺達のチームだったんだ……。


運命の悪戯と片付けてしまえば、そこで終わってしまうのを、誰よりも一番よく分かっているのは、紛れもなく自分自身。
だからこそ、この魂を掻きむしられるような激しい痛みから逃げることなく、全てを受け入れようと切望する心がぎりぎりと軋む。

クラッシャーとして生きてきた誇りを、全て投げ捨ててしまいたい衝動が全身を覆い尽くし、悔恨の想いが鋭い刃となって身も心も一太刀で切り刻む。


どうしてお前だったんた、タイラー……。
俺はお前を殺す為にクラッシャーになった訳じゃない!


押し寄せる哀しみに対して抗うことを放棄した心が色を無くしていく。
悔やんでも悔やみ切れない想いが幾重にも重なり続けて、ジョウを絶望の底へと叩き落とす。

這い上がる術さえ一切を拒否した心を持て余したまま、フラフラと歩き出したジョウの眼前に立ち塞がる人影がひとつ。

僅かに顔を上げたジョウの顔目掛けて、宙を一閃した手が激しく炸裂した。
派手な音を立てて宙を飛んだ躯がコンクリートの床に叩き付けられる。
口許から滴り落ちる血の味を感じ、虚ろな眸のまま拳で血を拭い去ったジョウは、よろよろと半身を起こし立ち塞がる影を見据えた。
その瞬間、全身の血が凍りつくような感覚がぼんやりとした意識を瞬く間に目覚めさせた。


「……無様なものだな。そんなていたいらくで特Aクラッシャ-を名乗るのは、クラッシャ-の名が汚れる」

「……オヤジ……」

冷ややかな眸の奥で一斉の感情の揺らめきと妥協を寄せ付けない、孤高の想いが満ち溢れていた。
凛とした背筋に漂う威圧感は、それだけでジョウの神経を逆撫でする。
どんなに踏ん張っても覆しきれない父の存在を改めてまざまざと見せ付けられたようで、心が歪になっていくのを止められない。

「今回のような事案に関しても、全ての責務を背負いきる覚悟がお前自身にない限り、クラッシャーとしては失格だ。ましてやチームリーダーとしての資質すら、今のお前には微塵も見当たらない。そんなんザマじゃ、お前を生涯のライバルとして認めていたタイラーの魂に恥じるとは思わんのか!」

矢継ぎ早に繰り出される父の情け容赦ない言葉は、ジョウの精神をボロボロになるまで追い込んでいく。
虚無感に蝕まれていく心に追い討ちをかけるようなダンの痛烈な言葉さえ、麻痺した神経には届く気配すら見えず。

「……オヤジに……オヤジに俺の気持なんか分かるものかッ!」

今までずっと燻っていた、父親そしてクラッシャーの創始者としてのダンの存在を超えることができないもどかしさが、ジョウの胸の内から溢れ出る。
それは甘えたくても甘えられなかった積年の想いが積み重なったものであると、ダンは見抜いていた。
こんな風な態度でしか親子としての関わりを持てない苛立ちと淋しさを胸の奥で噛み締めながら、ダンは敢えてジョウを突き放しに掛かる。
どんなにもがき、苦しもうとも、いつかは自らの力で這い上がってくるであろう、一人息子の無限の可能性を信じて。

「自分で処理しきれないと思ったら、今度は八つ当たりか。……醜態を曝すくらいなら、とっととクラッシャーを止めてしまえ!お前がクラッシャーを止めても、チームリーダーの代わりはいくらでもいる!」

廊下に蹲って、ただ自分を睨み付けるしか術がない息子を一瞥し、ダンは最後の台詞をジョウに投げ掛けながら、霊安室の中へと入っていくのだった。

「……お前にほんの僅かでもクラッシャーとしての誇りがあるのなら……志半ばで無念の死を迎えなければならなかったタイラーの意思を継ぐ事こそ、最高の弔いになるのではないのか?それすらも放棄するような人間だったら……お前はもう私の息子ですらない」

自分の中では既に断ち切った筈の絆が、何故か鮮明にダンの背中に宿っているような錯覚を覚えてジョウの意識が混濁する。
親として何一つ自分の望むことを叶えてくれなかった冷徹な父が、今一番辛い場面を迎えている自分に向かって、たった一瞬だけ垣間見せた親としての素顔に驚きを隠せない。
たぶんもう二度とこんな風にして交わすことのない会話の余韻を手繰り寄せて、ジョウは再度血が滲む口元を拳で拭い去りながら、ダンが姿を消した前方の扉を凝視した。


「……ったく、慣れないオヤジ面しながら説教垂れやがって!俺がそんな甘ったれた小僧だと思ったら、大間違いだぜ、オヤジッ!!」

生気を失っていた眸に、徐々に不屈の魂の欠片が漲っていく。
さっきまでどん底で喘いでいた自分とは打って変わって、燃え滾る熱い心を胸に秘め、今新たな誓いを築くジョウの身体に反骨のクラッシャー魂が宿る。

「みてろよ、タイラー!お前を死に追いやった、諸悪の根源となる悪の枢軸を俺が一生を掛けてこの世から葬り去ってやる!」

高らかに靴を踏み鳴らしながら歩くジョウの足元を、一筋の光明が照らし出すのだった。

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