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本心

2009年5月11日UP
ブログ完全移行 記念作品

「・・・・・・あのまま、ずっと黙り通すつもりだったのか?」

抑揚のない口調が、コックピット内に漂っていた平穏な空気を、一瞬にして薙ぎ払う。
ピーンと張り詰めた緊張が、蜘蛛の糸を張り巡らすように四方八方に拡がっていく。
口調はあくまでも平坦ではあったが、言葉の奥には僅かな不満の影が見え隠れしていた。
リッキーとアルフィンが就寝中の時間帯を見計らって、ジョウが自分に問い掛けてきた事に
タロスはジョウの不満の深さを感じ取った。

ジョウがこういう問い掛けをしてくる場合、彼が不満に思っていることはただ一つ。
ジョウの父親にして、クラッシャー界の偉大なる創始者、そして現評議会議長
クラッシャーダンに関わること、ただそれのみであった。

「いや、三十六年も前の事ですから・・・・・・ザガカールも、あっし達のことなんざ
とっくに忘れてると思いやして」

「言い訳じみた説明なんか、これっぽっちも聞きたくねぇ。俺が気に食わねぇのは、
お前が俺に黙ってた事、ただそれだけだっ!」

ジョウの怒りも尤もだとタロスは思う。
ザガカールが、昔と風貌もすっかり変わってしまった自分なぞ、とうに忘れているに違いないという
自分の思い込みが、却ってジョウの気分を損ねる結果となってしまった事に、タロスは胸を痛めた。

ジョウは自分達チームへの評価に対して人一倍敏感だった。
数多くの難事件や困難な契約を完了してきた経緯が、今の特Aクラッシャーチームという評価や実績に
繋がっているとは言っても、大多数の評価の根底には【クラッシャーダンの息子】という、
有難くない肩書きが常についてまわっているという事実を、今まで嫌と言うほど味わってきた。
ジョウ達が必死に築き上げてきた実績よりも、【クラッシャーダンの息子】という肩書きの方が
あっさりと評価を上回ってしまう現実に、彼は死に物狂いで抵抗してきた。

ジョウがダンの事を「親父は親父、俺は俺」とあっけらかんと達観できるようになるには、
如何せん、まだ年が若すぎた。
若いということは親への反発心も必要以上に大きくなり過ぎ、結果自分自身を見失い
やる事なす事全て空回りの連続となる。
出来るならば、そういった事をバネにして一回りも二回りも大きくなって欲しいと・・・親目線で
見てしまうのだが、今回については気を回し過ぎて、黙っていることが却ってジョウの傷口を抉る結果と
なってしまったのだった。

「・・・・・・黙っていた事については、これぽっちも申し開き出来ません。
あっしが悪かったっす。」

平身低頭謝るタロスに向け、ジョウは一瞥をくれると、視線を落として低く呟き始めた。

「俺が親父の事を気にし過ぎてるって、お前に言われなくても俺が一番よく分かってるつもりだ。
どんなに俺が足掻いてみたところで、親父には敵うわけねぇ。【クラッシャーダンの息子】って
肩書きは、俺が生き続けている間はずっとついてまわる宿命だって事も承知してる」

「・・・・・・」

ジョウが言葉を吐き出す度に痛烈な痛みが、タロスに、そして言葉を発しているジョウ自身にも
襲い掛かる。
心の縁をズタズタに抉り取るような痛みを、敢えて享受するかのように、ジョウは吐露し続ける。
己の胸の内に蔓延ったまま、幾重にも絡みついた呪縛の鎖を解き放つように。

「お前や親父から見たら、俺は危なっかしいひよっ子同然かもしれない。でもそんなひよっ子同然の
俺にも、ちっぽけだけど僅かなプライドがある。自分のチームを率いているという、チームリーダーとしての自覚が」

時折震える言葉がジョウの心情を物語っていた。
努めて冷静に言葉を紡いでいるけれども、説き伏せたままの怒りは言葉尻に漂っていた。

「お前は俺に気を遣って黙っていたのだろうが、俺はクラッシャージョウチームとして
この仕事を正式に請け負ったんだ。親父のチームが前にこの星を改造したのは紛れもない事実かもしれんが、
それは今回請け負う仕事とは丸っきり関係ない話だ。クライアントがお前の事を覚えていたとしても、
今現在クラッシャージョウチームの一員となっているお前が、俺に遠慮して黙る必要はないはずだ。
寧ろこれからの働きを見てもらう上で、親父以上の仕事を遂行出来る可能性があるかもしれないのに
何で黙る必要がある!?お前にとって俺は、これからもずっと親父を超えられない存在のままなのか?」

「違うッ!・・・それは違いますぜ、ジョウッッッ!!!」

タロスの叫びが炸裂した瞬間、ずっと渋面だったジョウの右の口の端が僅かに上がり、
右目がすうっと薄くなる。

それが合図だった。

張り詰めたままだった緊張の糸が、プツッと音を立てて千切れた瞬間
停滞していた時の流れが一気に動き出す。

「サンキュッ、タロス!その言葉、しっかりと受け止めさせてもらったぜ」

腕組みしたまま、茶目っ気タップリにニヤリと笑うジョウを呆然と見つめつつ、
まんまとジョウに嵌められたと気付いたタロスは、精一杯の強がりを暴言に炸裂させる。

「ッたく!わざとあっしの反応を確かめようなんざ、趣味悪いですぜ、ジョウッ!」

「引っ掛かるお前の方が悪いんだろ?ま、こうでもしなけりゃお前の本音なんか
絶対訊き出せないもんな」

「・・・・・・やっぱり親子だ。血は争えねぇ;;;」

悔し紛れにボソッと吐き捨てた瞬間、堪えきれずにプッと吹き出したジョウにつられるようにして
タロスも思わず笑いが込み上げる。
徐々に広がっていく終わりなき笑いの応酬は、険悪になり掛けた二人の絆を更に強いものへと変えていくのだった。
 

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