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さざめく想い

2003年1月24日 サイト初掲載作品

オブラートに包まれたような優しい月の光が、誰もいない湖のほとりで大木に身を委ねているジェットの姿を照らし出す。
湖面を渡る穏やかな春の夜風は、小さな小波を湖とジェットの心に起こしながら、優しく通り過ぎていく。
ほの暗い森の中、神秘的な色を称えた湖はまるでジェットの心を映し出すように、秘めやかでいて透き通るほどに煌いていた。
月の静かな微笑みがジェットの心を癒してくれるように舞い下りる。
ふと彼の背後から誰かが湖に向かって石を投げ込んだ。
ぽちゃんという音と共に波紋が幾重にも広がっていく。

「・・・お前も感傷的な気分になる時があるんだな・・・」

湖面に映るジェットの姿の隣に立ったアルベルトの姿が、波紋の中で緩やかに揺らめく。
青白い月の光を浴びつつ湖面に映る二人の姿は、風が通り過ぎる度小波が掻き消した。
口の端に小さな笑いを見せて近づく男を、思いっきり睨み付けながら視線を漆黒の闇の中へ戻す。

「相変わらず口の減らねぇ野郎だな!・・・ちったぁ、気ぃ利かせて黙ってやがれ!!」

自分に対して暴言を吐き出すジェットが、いつもよりも元気がないのをアルベルトは見破っていた。
今日に限ってジェットのツッパリが、妙に空回りをしているのに気がついていた。

「戦いつづけることに、お前自身限界を感じ始めているんだろ?」

無情ともとれるアルベルトの抑揚の無い言葉が、目に見えない棘となってジェットの心に突き刺さる。
胸の奥に突き刺さった棘が、動揺と苦痛を伴って傷口を広げながら自分自身を崩壊させてしまうような感覚に、思わず反吐が出そうになるのを必死に堪える。
今まで見てみぬ振りをしていた思いを、アルベルトの言葉によって白日の下に晒されたことに気がついて、ジェットは頭を抱えて絶叫した。

「違う!!違う!!!違う!!!俺は、俺はみんながボロボロになって傷つき、倒れていく姿をもうこれ以上見たくないだけなんだ!!!」

闇夜を切り裂くジェットの悲痛な叫びに呼応して、風が強く吹き荒れる。
静かだった湖面が急に波立ち始め、二人の足元を冷たく透き通る水が何度も何度も通り過ぎては帰って行く。
月はただ黙って二人の姿を照らしながら、幾筋もの青白い光の涙を地上の二人に降り注いだ。

「・・・強がってても、お前はやっぱり仲間想いでいい奴だよ。多少、突っ走り気味だけどな」
「アルベルト・・・」
「俺達はお前が思っているほど、ヤワじゃないぜ!俺に言わせると、仲間内じゃお前が一番心配で見ていられないけどな」
「な、なに〜〜〜!!!もういっぺん、言ってみろ!!!」

いきなりアルベルトの胸倉を掴んで、真っ赤になって挑みかかろうとするジェットを、やんわりとアルベルトが押しとどめる。
その顔にいつもは見られない穏やかな笑みを浮かべて、ジェットを見つめながら。

「ふっ・・・。やっといつものお前らしくなったな!・・・ま、たまにはセンチメンタルな気分になってもらって、静かでいてもらうのも悪くはないが」
「き、貴様〜!!!俺をからかっていたのかよ!!ふざけんなっ!!!」

ジェットが繰り出した右フックを軽やかに避けながら、アルベルトがジェットの一瞬の隙をついて一本背負いで彼を投げ飛ばす。
岸辺に倒れ込んで砂塗れになったジェットに、アルベルトの言葉が飛んだ。

「俺に勝とうなんてまだ10年早いぜ、ジェット!!」

起き上がろうとするジェットに背を向け、足早に去るアルベルトを見ながら、ジェットは握り締めた拳を思いっきり砂地にぶつけた。
飛沫がぴちゃんと跳ねながら、月の光を浴びて一瞬の煌きを闇の中に映し出す。

「くっそ〜〜〜!!!いっつもあいつには丸め込まれてばかりだ!!今に、今に見てろよ!!!いつかお前を追い抜いてやる!!!」

ジェットの心に再びいつもの生気が戻ってきたのを分かったかのように、月が優しい光を彼に投げかけはじめた。
穏やかな春の宵に紛れて、ゆっくりとゆっくりと時は過ぎていった。

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