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プラモデル

2002年4月12日 サイト初掲載作品

「今、帰ったぞ!」

マフラーを解きながらリビングへと入った俺の目に、散らかり放題の部屋の惨状が眼に飛び込んできた。
そこら中に散らばったドライバーやネジの類。
散乱したプラスチックの欠片。
カッターナイフは刃が出たままで、接着剤は床に零れ落ちていた。

「なんだ、この有り様は!!」

そう大声を出そうとした俺の足元で、ジェットが作りかけのプラモデルの飛行機を手にしたまま、ぐっすりと寝入っていた。

「全く、こいつは!!」

ジェットを叩き起こそうとして、ふと俺の手は止まった。
作りかけのプラモデルを手にして微笑みながら寝入っている奴の表情が、本当は弱気な自分を見せまいと、
突っ張って背伸びしているいつもの奴らしくなく、まるで少年のようにあどけない寝顔だったから・・・。

ジェットの微かな寝息を聞きながら、俺の脳裏にあいつと初めて出会った頃の思い出が過ぎる。

***********

「・・・あんた、俺達の新しい仲間なんだな・・・」

頬を硝煙で焦がし、全身傷だらけの真っ赤な防護服に身を包んだ赤い髪の青年が・・・
射るような眼差しのまま、俺の前に立ちはだかった。
有無を言わせぬその迫力に圧倒されながら、しかしその一方でどこか自分自身を鼓舞させるために、
無理をして振る舞っているような雰囲気が、彼に漂っていた。

・・・その彼の背中に掴まってビクビクと身体を強ばらせたまま、必死になって何かを耐えているような少女の姿があった。
彼女の蒼く澄んだ瞳に映っているものは・・・俺には絶望以外何も感じ取れなかった。
彼女の瞳の奥に潜んでいる影は・・・死ぬことよりも辛い体験をしてきたのだと思わせるほどに、
暗く澱んでいたが、それでも必死に何かに縋って生き抜きたいという、生へのあくなき渇望が微かに混じり込んでいた。

・・・たぶんこの少女を追い込んだ極限までの恐怖、苦しみ、痛みを必死になって庇い、励まし続けてきたのがこの男だったのだろう。
彼自身もきっと深い絶望に追いやられていたに違いない。
だけど、この少女の姿を見て、恐怖に打ち震える自分を奮い立たせ、彼女を必死に守り続けてきたのだろう。

・・・男の瞳には、弱くて儚いものを必死に守り抜こうとする、男として生まれた者が全て皆本来持っている、
プライドと気高さが秘められていた。
・・・きっと俺も、自分以外にこの少女を守れないという状況だったなら、この男と同じようにそうしたはずだと思わせる強い意志が、彼の瞳に漲っていた。

「俺は002って呼ばれてる。彼女は003だ!そしてあんたは・・・」
「・・・004なんだろ?」

口の端を軽くあげて微笑みながら問い返す俺に、男の口から微かに笑みが漏れた。

「・・・あんた、状況を理解するの早そうだな!俺達、うまくやっていかれそうだぜ」

あいつが差し出した手に、俺は少し躊躇ってから機械の右手を差し出した。
あいつはすぐさま俺の手を強く、強く握り返した。・・・俺の機械の手を見てなんの躊躇いも無く。

「・・・驚かないのか?俺の手が機械の手でも・・・」

あいつはじっと俺の瞳を見返すと、静かにでも力強く呟いた。

「俺はあんたの瞳を初めて見たときから、あんたのことを信用してるよ!あんたは・・・俺達の力強い味方だって!・・・それとも俺達を騙す気かい?」

挑戦的な目付きの中にも、何故かこちらの心に訴えかけるような真摯な目付きで囁く男に・・・俺はあいつの手を強く握り返した。

「・・・これが俺の答だ!」

言いながらふっと軽く笑みを零すと、男も釣られて少し笑った。

「あんた・・・いい性格してるよ!」

笑った男の瞳に真っ青な空が一瞬映り込んだ。
きっとそれは男の心が、何よりも蒼く澄んだ色の空で覆われていることの証に違いなかった。

*****************

きっとジェットの事だ。
プラモデルを作っている途中で、何か部品が足りなくて短気を起こして作るのを止めてしまったに違いない。

俺は自室へ戻って毛布をジェットにそっと掛けてやり、あいつが持っているプラモデルを
そっと手から引き抜くと、作りかけのプラモデルに内緒で手を加えた。

「これで良し!」

そしてまたあいつの手の中に、ちょっと細工をしたプラモデルを静かに戻した。

夕食後、リビングに顔を出すとジェットがジョーの前でプラモデルを持って、誇らしげに見せびらかしている
姿に遭遇した。

「どうだ、ジョー!すごいだろ!!俺が全部一人で作ったんだぜ」
「凄いやジェット!君にそんな特技があるなんて知らなかったよ」
「ふふん!この部分なんて、作り上げるの難しかったんだぜ!でも、俺の手にかかれば、容易く出来上がってしまうのさ!」

俺はその様子を見ながらふっと含み笑いした。
それに気がついたジェットが俺の方に近づいてきた。

「おい、ハインリヒ!なんだよ、そんな含み笑いしやがって!気に食わねえ奴だな、相変わらず。
なあ、お前も見てみろよ!俺様の自信作!!」

俺の目の前にプラモデルを突き出す。

「へえ・・・。ジェットでもこんな緻密な作業が出来るなんて、俺は初めて知ったよ。人は見かけによらないもんだな」

その言葉を聞いて真っ赤になって俺に掴みかかろうとしたジェットは、何故か途中でその勢いを落とした。

「・・・いつもならお前にパンチを2、3発くらわしてやるところだが、今日はプラモデルが上手く完成したから、見逃してやる!!感謝しろよ!」

そう言ってジェットはプラモデルを持ちながら、鼻歌まじりでリビングを出ていくのだった。

「ハインリヒも素直じゃないわね」
「えっ・・・」

いつの間にか俺の隣に立っていた亜麻色の髪の乙女。

「ジェットのプラモデルをちょっと細工して、上手く作れるように手助けしたのは貴方よね!」

俺は驚いて彼女の顔を見つめた。

「・・・知っていたのか?」

こくりと頷く彼女。

「大丈夫よ、その事は貴方と私の秘密にしておきましょう」

そう言って俺にウインクしながら紅茶を差し出す彼女。
この分じゃ当分フランソワーズには頭が上がらないな・・・と、胸に染みる熱い紅茶を一口啜りながら思う俺だった。

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