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2005年クリスマスSS

2005年12月16日 サイト初掲載

・・・正直言うと・・・かなり悩んだ。
いや、たぶん今もまだ・・・迷ってる。

それは俺の胸の内の、ほんの・・・ほんのちっぽけな不安なのかもしれないけれど・・・
漠然とした不安を打ち消せないまま、この場所に君と二人で佇んでいる俺が居て。

・・・どうすればいい・・・!?

進みだすことも引き返すことも出来ずに、ただ立ち止まったままの時間の中で、静かに声が届いた。

「・・・島さん・・・」

君の声が・・・僕の心の深淵に・・・そっと・・・触れた・・・。

___________

郊外から少し離れた、なだらかな丘の中腹。
メインルートから僅かばかり脇道に逸れた、峠の途中にその場所はあった。
見渡す限りの濃い闇に包み込まれた、荘厳な沈黙の森。
その奥まった場所にひっそりと設えられた展望台から見下ろす、
都会のイルミネーションは、突き刺すような冷気によって、
いつもよりもかなり眩い光のシンフォニーを奏でていた。
周囲が真っ暗だからこそ、より一段と映える幻想的な街の明かりが・・・
ほんの一瞬だけ、不安で凝り固まった俺の心を素直にさせる。

「・・・こうして夜に君を連れ出すこと・・・本当は怖かったんだ」

吐き出す息の白さよりも、もっと頑なな白く凍えた言葉の塊が、たちまち闇に吸い込まれていく。

「・・・・・・」

君の顔を見るのが怖くて、前方を向いたまま言葉を紡ぎ出した俺だけど・・・
俺の顔を横からそっと見上げつつ、密かに佇んでいる君の気配が、手に取るように分かるような気がした。
蒼緑の眸に躊躇いと戸惑いと・・・そして胸の奥に秘めた優しい想いを滲ませたままで、
俺を見上げる君の、少し不安そうな表情を・・・。

「・・・暗闇は、君が幽閉されていた、あの場所を思い出せてしまうと思うから・・・。
君が一人ぼっちで暮らしていた・・・あの場所を思い出させてしまうから」

胸の奥に残る微かな痛みが、ズキズキと疼きだし始めるのが分かる。
それは君と俺のふたりが共有している・・・ある種の感覚にも似ていた。


君の心の痛みを思えば、俺の心にも同じ様な亀裂が走る。
俺の心の不安を感じると、君の心も同調して動けだせなくなる。

・・・でも二人で過ごしてきた時間の経過は、本人同士も気付かない所でひっそりと静かに、
お互いの心をしっかりと繋ぎ合わせていたのだと、教えてくれたのは・・・・・

「・・・島さん。幽閉された暗い空間で、私はずっと一人ぼっちでした。そう、今・・・貴方と私が
佇んでいる、この場所のように・・・」

テレサの声が、闇夜に零れて白い吐息の花を咲かす。
それはこの世のものとは思えないほどに、幽玄で幻想的な花であると同時に、
強く際立った意志の花弁によって支えられた、凛とした美しさを称えた花に違いなかった。

「・・・だけど貴方という『光』が、あの暗い空間から私を導いてくださいました。
・・・私を連れてきてくださった、この場所から見下ろす街の煌きは・・・
ずっと一人ぼっちだった私に届いた・・・『光』に似ているような気がします。
・・・だから私はこの街の煌きが好きです。暗闇の中でも、もう一人ぼっちじゃない・・・って、
貴方が私に見せてくれた、この『光』が教えてくれました」

星が・・・瞬いた。


君の言葉と同時に強く煌いた街の灯火は、凍てつく冬空を恋の灯りで一瞬溶かした。

「・・・僕を・・・信じてくれて・・・いるの!?」

僅かに頷く彼女。
俺を見上げて小さく笑うその眸には、星の煌きよりも鮮やかで、街のイルミネーションよりも美しい光が
はっきりと映っていて。

思わず天を見上げた俺に、星の瞬きがいつまでもいつまでも囁き続けるのだった。

『Merry X’mas! 清らかなる想いはいつも貴方の隣で光り輝くでしょう。
貴方が愛する人を信じ続け、思い続ける限り・・・永遠に』

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