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あしたに向かって

2003年4月11日 サイト初掲載作品

「・・・傷、痛む?」

腫れ上がったむき出しの右肩を、くるくると手際よく包帯を巻きつけいていく指先が、心なしか震えていた。

「大したことないさ。こんな怪我くらいで泣き言なんか言ってられるかよ!」

心配そうな顔で覗き込む蒼い瞳に、これ以上心配かけさせまいと強がる男の声が、メンテナンスルームに響き渡る。

「おおっ!それは何とも頼もしい言葉だねぇ~♪いよっ!ジェット、おっとこまぇ~♪♪」

その言葉と同時に、少女の傍らにいた男がポンと軽く、包帯に包まれている右肩を叩く。

「ぎょぇ~~~っっっ!いってぇぇぇぇぇ!!何しやがるっ!このハゲオヤジッッ!!」

飛び上がらんばかりに喚いたジェットは、涙混じりで男の顔を恨めしそうに睨んだ。

「まぁまぁ!それだけ元気があれば怪我もすぐ治っちまうよ。・・・な、フランソワーズ?」

男に声を掛けられた少女は、キュッと唇をかみ締めたまま手にしていた救急箱を手に、堅い面持ちで
足早にメンテナンスルームから立ち去っていった。
廊下に響く足音が、まるで彼女の心を表しているかのように、切なげな音を撒き散らしては
冷たい壁に染み込んでいった。
・・・男は彼女の瞳に淡く儚い透明の雫が満ちているのを、見逃してはいなかった。

「・・・心配かけまいとわざと道化て振舞った行為が・・・却って彼女の心に負担を負わせちまったのか?」

少女の心配する気持ちを解そうと、アイコンタクトを交わしつつわざと道化て振舞ったはずなのに
思いっきり空回りしてしまった現状に、赤毛の男は少し声のトーンを落とす。

「多少わざとらしい部分もあったかもしれんが・・・ま、ここは年の功ってことで我輩に任せとけ」

項垂れている赤毛の男は、柔らかい口調で話す男の顔をゆっくりと下から見上げた。
自分に向かってウインクしながら、親指を突き立てて大胆に笑う男の顔には、年には似使わぬ
ハツラツとした勢いと、その影に隠された数々の人生の試練や困難にに打ち勝ってきたと思わせる自信が
漲っていた。
普段は仲間内でおちゃらけている男の、底知れぬ凄さを垣間見たようで・・・赤毛の男は
小さく一つ安堵のため息を漏らしながら言葉を返した。

「頼むぜ!我らがグレート・ブリテンさんよ!」

その言葉を背中で受け止めた男は、振り向きもせずに赤毛の男に向けて背中越しに言い放った。

「ジェット・・・もうちょっと芝居うまくなれよ!」

**********

胸に抱きかかえたままの救急箱が、走るたびにカタカタと耳障りな音を廊下に漏らし続ける。
白い光跡を残しながら零れ落ちる涙の雫は、冷たい廊下の床面に刹那の華を咲かせて砕け散る。
後から後からあふれ出る涙を拭おうともせずに、ただひたすら走り続けるフランソワーズは
足が向かうままに廊下の突き当たりまで辿り着くと、そのまま壁に縋り付いて声を殺して泣きじゃくった。

私が・・・私がもう少ししっかりしていれば、みんなが怪我をせずにいられるのに!!!
私が・・・もう少し強かったら・・・みんなの足手まといにならずにいられるのに!!!

生身に近い自分を守るために、いつメンバーのうちの誰かが自分を庇っていることで
戦力ダウンを免れないことに、彼女は気がつき始めていた。
また危機に晒された自分を守ろうとして、誰かが傷ついてしまうことも彼女の繊細な心に影を落としていた。

自分さえ・・・自分さえいなければ・・・みんなはもっと・・・!

ただでさえ脆くか弱い心に、絶え間なく突き刺さる自己否定という名の眼に見えない棘が、
胸の奥に深く静かに潜行しては心の傷を抉り出していく。
現実と逃避の間に挟まった彼女の心は次第に崩れ落ち、ひび割れていく心から
希望の欠片が染み出していく。
溢れそうなほどに満ち足りていた生への欲求が、戦いという空気に触れて次第に干からびていく。
その過酷な現実は、彼女の存在意義を徐々に抹消し始めていた。

「・・・フランソワーズ、おまえさんは必要な・・・我輩たちにとって何より必要な宝なんだよ」

自分の背後から聞こえた温和な声に、ハッとして顔を上げる。

「いいえ!違うわ。私はみんなに助けられるばかりで・・・
みんなを助けられることなんて何一つないのよ!分かってるくせに、冗談は言わないで」

堅く尖った声が喉の奥から迸っていくのを、フランソワーズは感じていた。
そのたびにこみ上げる切なさとやり切れなさが、彼女をますます頑なにしていく。
悲痛な叫びをあげながらも必死に助けを求めている彼女の気持ちが、グレートの胸を覆っていく。
・・・たぶんそれは自分自身も感じていたことであると、彼女の叫びによって呼び起こされているのに気がつきながら。

「・・・なぁ、フランソワーズ。我輩もお前さんも確かに戦闘タイプのサイボーグじゃない。
それは痛いほど分かってる。いっつもみんなの盾になって傷つきながら戦っているのは
ジェットやアルベルト・・・そしてジョー達他の面々さ。老いぼれてはいても我輩も男だからして・・・
戦闘能力が劣る我輩を守ろうとあいつらが傷つくのをみるのは・・・正直言って辛いものがあるのは
隠しようもない。ちっぽけな・・・ほんのちっぽけなプライドかもしれんがね」

淡々と抑揚なく話し続けるグレートの言葉が時折詰まって聞こえるのは幻聴だろうか?
違う!幻聴なんかじゃない!
いつもは飄々として掴み所のないグレートの、人には決して見せることのない本質に、自分は今
触れているのだとフランソワーズは自覚していた。
それはたぶん・・・自分と同じようにどうしようもないくらいにあがき続けているジレンマと
動揺に他ならなかった。
女である自分よりも歯痒く切ない想いを抱いているであろう、グレートの哀しみにフランソワーズは言葉を失った。
辛く苦しんでいるのは・・・自分だけではないと・・・

「・・・フランソワーズ。我輩達がサイボーグにされてしまったのはもう逃れようのない運命かも
しれん。我輩・・・みんなと一緒に戦ってきて幾度となく歯痒い経験を通り過ぎてきた。
自分は役立たずなんじゃなかろうか?戦闘タイプではない自分が一緒にいるだけで、仲間達に
迷惑を掛けているんではなかろうかと・・・。だがな、我輩らには我輩達にしかできない
ことがあると気づいたとき、何かこう、閉ざされた道の向こうから光が差し込んできた気がしてきた」
「・・・私達にしか・・・できないこと?」

グレートの言葉を背中で受け止めながら、思わず鸚鵡返しのように反復した問いかけに・・・
グレートは静かに、そしてかみ締めるようにはっきりと答えを返した。

「我輩達は・・・みんなを危険から救うために一番大切である危機回避のための『情報』を
知らせる役割があるのだと!我輩達が自分の能力を最大限に発揮することで、何よりも大切な
仲間達が誰一人として傷つくことなく危機を乗り越えられることを!」
「・・・!」

思わず振り向いた先には・・・毅然とした表情でフランソワーズを見つめながら、力強く頷くグレートがいた。
迷いを捨て去り、しなやかで強かな意志を秘めた瞳で自分を見返すグレートを見つめながら、
フランソワーズの心を再生していく、仲間とともにありたいと願うひたむきで一途な願い。

みんなを・・・みんなを守るために・・・私は・・・!

しなやかな指先で拭い去った涙の跡が・・・決意を秘めた透明な願いに塗り替わっていく。
眼に見えないフランソワーズの心の微妙な変化を感じ取ったグレートは笑みを一つ漏らすと
彼女に背を向けつつ最期の言葉を静かに呟いた。

「・・・お前さんの笑顔で・・・今までずっと・・・みんなは心から救われているんだ。
だからその笑顔を絶やさずにいられるように・・・自分が出来る最大限のことを一生懸命
するべきじゃなかろうか・・・そうすることが結果的にみんなを守る一番大切なことだと・・・
我輩は信じてる」

言い切ったグレートの横顔を照らし出す夕焼けの色は、燃え上がる想いを滲ませつつ
煌く命の輝きを加えていくのだった。
 

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