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シンパシー

2004年3月15日 サイト初掲載作品

「二人とも元気そうだね。なんだか安心したよ」

マフラーを首に結わいつけながら、足音を忍ばせて近寄ってきた人影。
岩陰に身を隠し、前方を見据えたままのハインリヒは声を掛けてきた人物に振り向くことなく言葉を漏らす。

「久しぶりの再会がギルモア研究所の手前で、且つ戦闘服姿で・・・ってのも、どうかと思うが」
「ま、僕達らしいって言えばそれまでだけど」

ハインリヒの隣に並んだピュンマは苦笑しながら、レイガンに手を伸ばす。
笑顔の中に潜んだ影は言い知れぬ緊張感に包まれながら、徐々に戦士としてのピュンマを覚醒させていく。
自分本来の望みとは相反する事態に、否応なしに流されていかざるを得ない心を、哀しみの果てへと封じ込めながら。

「二人ともまだ研究所に行ってないの?」
「当然!」

ピュンマの問い掛けに即答したジェットは、反対側の岩場で既に準備万端に臨戦態勢を整えていた。
本人はそれと知らずに、ブーツの先でカツカツと無意識に足元の岩場を掘り返しているのを見たピュンマは、僅かに眉を顰める。


・・・出来るなら闘いたくないよね、ジェット。
僕だって君と同じ気持さ。
表面上は落ち着いたフリをしていても、心のどこかで無理している自分が無意識のうちに出てくるものなんだ。


「研究所に辿り着く途中で不穏な気配を察知してな。どうせなら研究所に着く前に俺達だけで片をつけてしまった方がいいだろ!?」

僅かに語尾が震えたジェットの言葉の影に隠されている意味を感じ取って、深く深〜く同意してしまうピュンマ。


そうだよね・・・。
せっかくの再会を楽しみにしている仲間達に、事前に余計な心配は掛けさせたくないもんね。
・・・特にフランソワーズには・・・ね。


「そうは言っても、もうあいつらにはバレバレだと思うがな・・・」


言いながら皮肉な笑みを浮かべるハインリヒ。
ハインリヒの言葉にジェットが苦々しい顔でチッと舌打ちする。


・・・ジェットもハインリヒも分かってるんだ。
フランソワーズの能力なら、もう既にこの状況を察知しているって事を。
だから一刻も早く、自分達だけで片をつけてフランソワーズや博士達をを危険な状況に巻き込みたくない訳ね。
・・・君達のその気持、僕にも分かり過ぎるくらい分かるけれど・・・


「状況から判断して・・・どう思う?」

暗に先手を打って、攻撃の口火を切った方がいいかどうかの最終確認を取ろうとしているハインリヒの
口調は、自分の返答次第では即刻実行に移す意味合いをも兼ねていると、ピュンマは気付いていた。
アイスブルーの眸の奥では、徐々に戦闘モードにシフトしていくハインリヒの本気が垣間見えた。


守らなくちゃならないモノの為に・・・男は己の命を賭ける。
・・・それだけが男の真実・・・!


畳み掛けるようなハインリヒとジェットの視線が、ピュンマの心を、彼らのそれへと同調させていく。


「研究所からここまでの距離と、何も遮蔽物がないこの地点の状況を考えると、敵はおそらく探索用のロボットを囮にして僕らの出方を窺っているに違いない。敵本体はまだ相当ここから遠く離れていると思う。・・・だとしたら、僕らの取るべき行動は・・・」
「決まりだな!」

言うが早いか岩場の影から一気に飛び出し、敵の探索用ロボットが身を潜めていると思われる、前方の低い茂み目掛けて立て続けにレイガンを撃ちまくるジェット。
むやみやたらに撃っているのかと思いきや、確実にロボットを仕留め始めるジェットの早撃ちはさすがと言うべきか。

「全く、人が結論を言う前に攻撃し始めちゃうんだから!」

分かりきっていたこととはいえ、こうも鮮やかに続々と仕留められる様を見せ付けられると・・・。

「・・・もしかして、僕が反対しても・・・やるつもりでいた、ハインリヒ!?」
「・・・かもな」

ニヤリと口の端に薄笑いを浮かべながら右手を目線の近くまで翳すと、次の瞬間凄まじい勢いで放たれていくマシンガンの銃弾。
まるで既に狙いを定めてあったかのように、寸分の狂いもなく茂みの中に撃ち込まれていく銃弾。

「人が悪いよ、二人とも。最初からそのつもりだったくせに・・・僕の意見を伺う様なフリしちゃって」
「・・・フフ。遅かれ早かれ、お前さんも決断していたはずだろ?こうする事を」
「うっ・・・!それはそうなんだけど・・・」

痛いところを衝かれて二の句が継げないピュンマに、マシンガンを撃ちまくるハインリヒの言葉が飛ぶ。

「あいつもお前さんのことを一目置いているのさ。そうじゃなけりゃ、あんなに派手にやったりしない」
「・・・そういうものかなぁ?」
「・・・そういうもんさ!」

会話していた彼らの間を通り過ぎる敵のレーザー光線。
瞬時に体勢を立て直し、すかさずロボットを撃ち抜いたピュンマにハインリヒがいつものニヒルな笑みを
向けてよこす。

「・・・一番油断も隙もない手強い奴は・・・ピュンマ、お前さんだっていう認識はジェットと俺の一致した見解なんだが・・・間違ってるか?」
「・・・間違ってるって、即座に否定したいところだけど・・・否定しようがない状況だよね、この場合」

返答した途端に、笑いを必死に噛み殺しているようなハインリヒの姿がピュンマの目に映る。
相変わらずマシンガンは撃ちっぱなしのままで。

「お前さんのそういう律儀なところが、仲間内では好かれてるんだよ」
「・・・そうなのかなぁ?」
「お前さんが自覚してないだけだよ。俺が断言してやる!」

徐々に敵が後退し始めたのが、矢継ぎ早に襲ってくるレーザー光線の威力が衰えた始めたことで分かる。
もう少ししたら完全に壊滅できるかもしれないとの予測がピュンマの心を過ぎる。

「・・・ねぇ、ハインリヒ」
「・・・ん?」
「研究所に戻ったら・・・一番最初に何て言おうか?」

ハインリヒは一瞬だけ眸を閉じるとすかさず、答えを返した。
それはピュンマも・・・そしてジェットも同じように言うつもりの言葉に違いなかった。

「ただいま・・・だろ?・・・他に何がある!?」
「そう・・・だね。そうだよね!」


守り続けたいモノがあるから・・・僕達は強くなれるんだよね、きっと。


ハインリヒの右手から放たれたマシンガンの銃弾が、最期の一機を壊した瞬間に空に大きく弧を描いた飛行機雲。
蒼い空を切り裂いて一直線に駆け抜けるジェットの姿が、一際大きく空に溶け込んだ。
大地に立ち尽くすハインリヒとピュンマの間を駆け抜けるようにして、強く烈しい風が通り過ぎていった。

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