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ただそれだけで〜字書きの為の50音のお題より〜

2005年10月16日サイト初掲載作品

薄墨色の雲が千切れながら棚引く、夕闇の空。
狭い空間を押し開くようにして差し込む光の矢は、天上から降り注ぐ金色のベールとなって、最後の煌きを地上に撒き散らす。

静かな・・・そして厳かな雰囲気に包まれた、初秋の夕暮れ時。
アスファルトに落ちる二つの影法師は、過ぎ行く時間の波に引き込まれていくように、緩やかに伸びていく。

長く・・・
果てなく・・・
途切れることなく。

背後から押し寄せる金色の光の波は、じれったくなる位に黙ったまま並んで歩くだけの二人に、痺れを切らしながら煌煌と照り付ける。
闇の彼方に沈むまでの、最後の悪足掻きのような一際痛烈な光の直撃を背に受けつつも、一向に寄り添ったり語り合おうとしない二人の姿を見届けながら・・・夕日は沈んだ。

・・・夕日は知らない。
並んで歩く二人の心の内を。

この厳かで神聖な沈黙の時間さえ、今の自分たちにとって何物にも代え難い幸せなひとときであると・・・
心の底から噛み締めているふたりの想いを。
ふたりの間に横たわる沈黙さえ、愛しいとは想わずにいられない・・・
心からの深い愛で結ばれたふたりの気持ちを。


一緒に並んで歩けるという幸せ。
同じ時間、同じ場所で、心から愛する相手の存在を確かめられる嬉しさ。
今、こうして愛する人が自分のすぐ傍にいてくれるという安心感・信頼感を超える大切なものなど・・・
この世にはないと知っているから。


だから・・・。


僅かに先を行く影がゆっくりと立ち止まる。
佇む時の中で静かに振り向いた人影から放たれた、言葉の結晶。


「・・・ありがとう」

透き通った秋の空気を凌駕するほど、穢れない想いで研ぎ澄まされた心の言葉が、夕暮れの空に融ける。

その瞬間に後ろに佇む人影から零れ落ちた一滴の涙は、二人の間に横たわる沈黙を切り裂きながら、アスファルトに伸びる影法師に滲んだ。


初秋の夕暮れ時に溶け込んだ、ささやかなひととき。
うっかりすると見過ごしてしまいそうになる、毎日のほんの何気ない出来事さえ、心から幸せと思える瞬間を、ずっと分かち合えるふたりでいたい。

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